iPhoneとともに歩んだ15年。アイリッジ創業者が語るアプリの進化

2008年7月11日のiPhoneの日本発売から、今月でちょうど15年を迎えた。この15年間でスマホアプリを用いたビジネスはどう変化し、これからどのような進化を遂げていくのだろうか。

そんなiPhoneとともに15年を歩んできたのが、システム開発のアイリッジ(東京都・港区)だ。iPhone日本発売の翌月に創業し、一貫して流通業などのOMOを支援してきた。社名の由来も、iPhoneなどの「アイ」と海底山脈を意味する「リッジ」である。

アイリッジが得意とするOMOとは「Online Merges with Offline」の略で、直訳すれば「オンラインとオフラインを併合する」という意味になる。ビジネスの現場では「ECサイトなどのオンラインビジネスとリアル店舗の垣根を超えたマーケティング施策」として用いられている言葉だ。

同社が手がけたアプリの一例として、ファミリーマートの電子マネー「ファミペイ」、ブックオフのアプリ、飛騨地域限定の電子地域通貨として有名な「さるぼぼコイン」などがあり、合計で毎月8700万ユーザーが利用する。社名の知名度は高くないが、まさにOMOのリーディングカンパニーである。

企業のスマホアプリはどう進化した?

「スマホ普及当初のアプリは、ほとんどが『情報発信型』でした。そして『One to One型』に進化し、15年を経た現在は『OMO運用型』へと変化を遂げています」

こう語るのは、アイリッジの創業者である小田健太郎社長だ。NTTデータを経て入社したボストン・コンサルティング・グループで、モバイル業界を中心に事業戦略や新規サービス立ち上げのコンサルを手がけた経歴を持つ。

モバイルが社会を変革していく可能性を強く感じたことをきっかけに、同社を立ち上げた。

小田社長によると、「情報発信型」のアプリとは、新店のオープンや新商品などの情報を掲載するもの。アプリの黎明期ともいえる2008年から2012年ごろまで主流だった。アプリ利用者限定のクーポンも発行していたが、全員一律のものが中心。まさに従来の「ホームページ」を踏襲したものだった。

転換期を迎えたのが、2013年ごろだという。この年にはソフトバンクだけではなく、NTTドコモ、KDDIと主要3キャリアすべてでIPhoneが扱われるようになった。

そのころに登場したのが「One to One型」のアプリだ。これは文字通り、顧客ひとりひとりに応じた情報を発信するもの。例えばクーポンを発行するにしても、購買履歴や訪問店舗にあわせて、顧客ごとに最適化する。現在、大手小売業のアプリのほとんどが、このスタイルになっている。

2020年ごろからは、さらに「アプリ発展期」を迎える。スマホの大画面化、コロナ禍以降の非接触キャッシュレス決済の爆発的拡大、さらにLINEのミニアプリサービス開始など、アプリが内包すべき機能が、かつてないほど複雑さを増しているのが現在だ。

月間利用者数が多いアプリの秘密

このようにアプリの活用が複雑化する時代において、OMOで成功している企業はアプリを“運用型”へ進化させているという。

「OMOアプリの成功のポイントは2つあります。ひとつは運用にどれだけの手間をかけるか。そして、もうひとつは実際の運用で生じた課題を解決し、時代に応じた機能を盛り込むための更新頻度を高めることです」

それは、同社が世界的なアプリ分析データ会社・アメリカのdata.ai社の協力を得て行った日本の主要な流通業のアプリのMAU(Monthly Actve User:月間利用者数)の調査結果にも現れている。MAUのトップ10は次のとおりだ。

1位 セブンイレブン
2位 UNIQLO
3位 GU
4位ファミリーマート
5位 ローソン
6位 ニトリ
7位 MUJI passport(無印良品)
8位 majica(ドンキホーテの手がける電子マネー)
9位 イオンお買物
10位 カインズ

さらに、これらのアプリを詳しく検証してみると、興味深い事実が明らかになったという。

バージョンアップの回数に注目したところ、上位10社は年間で平均10.1回。一方、101〜110位までのアプリは平均2.9回。3倍以上の差が開いていた。多機能化するスマホの進化に迅速に対応できることが、利用者の支持を集めるひとつのポイントになっているのだ。

「アプリビジネスのカギが更新や運用に移ってきた影響で、企業内の体制にも変化が生じています。以前はシステム関連部署がアプリを管轄しているケースがほとんどでしたが、現在OMOで成果を上げている企業の多くは、マーケティング部門がアプリを包括しているようです」

バージョンアップは難しい?

とはいえ、アプリの更新頻度を増やすのは大変で、現実のビジネスの現場では「言うは易し、行うは難し」の典型例でもあるかもしれない。

実際に、アイリッジが大手企業を中心に30社に「リニューアルや機能拡張が十分に行えていない理由」についてアンケートをとったところ、「予算がない」が55%、「リソース(人員などの経営資源)がない」が40%となった。

「バージョンアップが大切なのはわかってはいるが、実際には予算も人も足りない」。それが多くの企業の現場で働く人が置かれた現実なのだ。

予算も人も潤沢に投じることができる大手企業は頻繁にバージョンアップを行うことができるので、それに応じて利用者数も増え続ける。反対に十分な経営資源を充てられない企業では、利用者数が減ってしまう。

また、マーケティングに必要なデータを蓄積するためにも、自らアプリを運用する方法が一番効率的だ。今後、アプリの世界でも「勝ち組」と「負け組」の差がますます広がってしまうのではないか。

こうした課題に同社も対応しようと、新たなサービスを開始した。既存のアプリを活かしながら、幅広い機能拡張、さらにはマーケティング施策の実行までを一気通貫で実行できるという「APPBOX」だ。

アプリのアップデートの必要性は直近でも高まり続けている。コロナの5類移行によってリアル店舗への来客が増えていることもあり、店舗と連携した多様な機能がますます必要となってくるだろう。

「iPhoneの日本発売とほぼ同時にスタートした当社は、この15年間、OMOの分野でリーディングカンパニーであり続けることができました。私たち自身も絶え間ないアップデートを続けることで、次の15年間もリーディングカンパニーであり続けたいです」