【レビュー】正規のARM版Windows 11がM2搭載Macで使える「Parallels Desktop 18」

Mac上で、WindowsやLinuxなどのOSや、その上で動くアプリが使えるようになるParallels Desktopの最新版が8月9日にリリースされた。これまで通り、インテルCPUを搭載したMacと、M1やM2といったApple Siliconを搭載したMacの両方をサポートする。それぞれの違いも含め、最新版の特長を中心にレビューしよう。 正規版Windows 11がMicrosoft Storeで購入可能に Parallels Desktopは、毎年8月の初頭に律儀にメジャーアップデートを続けている。もちろん、それには理由がある。Parallels Desktopを動作させる母体、いわゆるホストOSとなるmacOSが、毎年メジャーなアップデートを続け、ちょうど8月ごろがそのリリースの直前の時期に当たるからだ。今年も6月のWWDCで発表されたmacOS 13 Venturaが、今秋リリースの待機状態に入っている。 Parallels Desktopは、ハードウェアを仮想化して様々なOSの動作を可能にする、いわゆる仮想化ソフトの一種。形式的にはmacOS上のアプリケーションだが、一般のアプリと比較すると、OSの深い部分にアクセスしながら動作する。そのため、動作母体となるマシンや、そのネイティブOSの仕様が変更されると、それに合わせてParallels Desktopにも比較的大きく変更しなければならない部分が出てくる可能性が高い。 その顕著な例は、まだ記憶に新しいがMacのCPUがインテル製からApple Siliconに変更されたことへの対応だった。Parallels Desktopのメジャーバージョンとして、Apple Siliconに正式に対応したのは、昨年のParallels Desktop 17だった。その実績を踏まえて登場した今年のParallels Desktop 18は、Apple Siliconへの最適化も進み、環境としてはだいぶ落ち着いた状態あると考えられる。そのためもあり、ホストOSとしてmacOS Venturaに対応し、Parallels Desktopの上で動作するゲストOSとしてWindows 11を正式にサポートしたことを除くと、さほど大きな変更はなさそうに見える。 ごく簡単に言えば、最新のmacOSの上で、最新のWindowsを安心して利用できるようになったということ。ただし、ここで言う「安心」の意味は小さくない。昨年までは、Apple Silicon上でネイティブ動作するARM版Windowsの製品版を購入することができず、マイクロソフトが主にデベロッパー用に公開しているWindows Insider Preview版を入手して利用するしかなかった。 もちろん完全に合法的に入手できるものだったが、製品版ではないだけに、サポートの面でも弱く、将来に渡って供給が続くという保証もない、不安な状態だったのは否めない。 それが今ではARM版Windows 11の製品版がMicrosoft Storeから入手できるようになり、Parallels Desktop 18からもほとんど操作不要でインストールできるようになった。どういうことなのか、実際の画面で確認していこう。 まずParallels Desktop 18をインストールして最初に起動すると、表示されるのはインストールアシスタントの「Windows 11 のダウンロードとインストール」というダイアログだ。 この手順をスキップして手動で仮想マシンを用意することも可能だ。また、「エディションを選択...」ボタンをクリックすれば、Windows 11の「Home」、「Pro」、「Enterprise」のエディションを最初から選択することも可能となっている。ここではこのまま「Windows のインストール」ボタンをクリックして「Home」エディションをインストールすることにする。すると、Windows 11 Homeをインストールするためのデータのダウンロードが始まる。現状では約4GBほどの大きさ(HomeとProは4.02GB、Enterpriseは3.97GB)があるので、ネットワーク環境にもよるが、それなりの時間がかかる。 手順としては、この後ほとんど何もなく、しばらく待っているとWindowsのインストールが完了し、いきなりWindows 11が起動する。ユーザー名などは、macOSのユーザー名がそのまま転用されるので、変更したい場合は後で設定する必要がある。 ここでWindows 11の「設定」を開き「システム」の項目を見てみると、当然ながら「Windows がライセンス認証されていません。」という状態になっている。そのまましばらく試用することは可能だが、実際に利用するにはこの画面から「ライセンス認証を今すぐ実行」をクリックすればいい。 次の画面では、プロダクトキーがみつからない、という当然のエラーが表示されているので、「Microsoft Store アプリで新しいライセンスを取得する」ために、「Microsoft Store を開く」をクリックしよう。 すると、同ストアの該当画面が表示され、その場でライセンスを購入することが可能となる。為替レートの変動などによって変更される可能性があるが、8月の初頭の日本円での価格は、Home版で1万9008円だった。 さらに、ここからWorkstation版へのアップグレード(4万3052円)を購入することも可能となっている。 これは、Parallels Desktopのアップデートから得られる恩恵ではないものの、このように正式な製品版のWindows 11ライセンスを購入して利用できるようになったことは、Apple Siliconを搭載したMac上でParallels Desktopを使おうという人にとって大きな一歩には違いない。 なお、Ubuntu Linux、Fedora Linux、Debian GNU/Linx、Kali Linux、macOSについても、インストールアシスタントを利用することで、Windowsとほとんど同等の手軽さでOS本体をダウンロードして、そのままインストールすることが可能となっている。 Apple Silicon上では、利用できるOSの種類が少ないのが難点 現在では、Apple Silicon(M1、M1 Pro、M1 Max、M1 Ultra、M2)を搭載したMacばかりが注目されがちだが、当然ながらParallels DesktopはインテルCPUを搭載したMac上でも動作する。いわゆるユニバーサルバイナリのアプリということになる。 ただし一般的なユニバーサルバイナリのアプリの場合、インテルCPU搭載機上でもApple Silicon搭載機上でも、ほぼ同等の機能を発揮するのに対し、Parallels Desktopの場合には両者で性格が大きく異るものとなってしまう。アプリの機能としてはほとんど同じだが、利用可能なゲストOSの種類が大きく異なるのだ。 簡単に言えば、インテルCPU搭載Mac上で動かした場合には、x86_32およびx86_64アーキテクチャ用に開発されたOSのみを動かすことができるのに対し、Apple Silicon搭載Mac上では、ARM64アーキテクチャ用のOSのみを動かすことが可能となっている。 両者のゲストOSの種類を表で比較してみよう。 ●Parallels Desktop 18で利用可能なゲストOS これはちょっと考えると、致し方ないことのように思えるかもしれない。しかし、世の中にはCPUの違いを乗り越えるような仮想環境ソフトウェアもある。また、仮想環境ではないが、macOS上でRosetta 2を利用することで、インテルCPU用に開発されたアプリを、Apple Silicon上で動かすことも実用的に可能となっている。 いつも同じことを言うようだが、Apple Siliconを搭載したMac上のParallels Desktopで、インテルCPU用のOSとアプリを動かすことができるようになれば、Parallels Desktopの価値も、ひいてはApple Silicon搭載Macの価値もかなり大きくなるのは間違いない。これは今後のアップデートに期待したいところだ。 一方、ホストOSとしてParallels Desktop 18を動かすことのできるmacOSも、意外に少ないと感じられるかもしれない。次に挙げるように、Mojave(10.14)以降の4種類だ。 ・macOS Monterey ・macOS Big Sur ・macOS Catalina ・macOS Mojave なお、上の表から分かるように、ゲストOSとしてはMac OS X Lion(10.7)以降が利用可能であり、ホストOSの範囲との違いは大きい。これについては、そのサポート範囲の幅の違いが大きいほど意味あると考えられる。なぜなら新しいMacでも、Parallels Desktopを利用することで、すでにその機種がサポートしなくなった古いmacOSを動かすことができるようになるからだ。 意外なことに感じられるかもしれないが、現状でもx86/x64向けに開発された(64ビット版を含む)Windowsアプリを、Apple Silicon搭載MacのParallels Desktopで動作するARM版Windows上で動かすことは可能となっている。ARM版Windowsにも、RosettaのようなCPUコードのトランスレーション機能が搭載されているからだ。これは、100%のアプリが動作するとは言い切れないものの、Parallelsによれば、99.9%は動作するという感触を持っているという。 ARM版Windowsさえ動かしてしまえば、Windowsアプリレベルでの互換性は、ほとんど気にする必要はないということかもしれない。 さらなるパフォーマンスと互換性の向上 Parallels Desktopの新バージョンに当然のごとく期待される特徴として、Parallels Desktop 18でも全体的なパフォーマンスと、本物のPCに対する互換性の向上を実現している。とはいえ、今回画期的な新技術が導入されたというわけでもないので、パフォーマンスの向上については、Apple Silicon搭載Macのハードウェア自体の性能向上分を除けば、Parallels Desktopのソフトウェアの各部の最適化による微増の積み重ねという部分が多いだろう。 ただし、特に上で挙げたARM版Windows上でのx86/x64アプリの実行速度については、比較的大きく向上する可能性がある。Parallels Desktopは、その上で動作するWindowsに対して、仮想環境上での動作を最適化するために、独自に各種のドライバーを提供している。その中のディスクアクセス用のドライバーがARMプロセッサーに対してネイティブ対応となり、その恩恵をインテル用アプリも受けられるからだ。 互換性に関して、個々の機器によるテストは実施していないが、ゲームコントローラーをMacに接続するだけで、自動的にWindowsで認識されるようになったり、USB 3.0の周辺機器の対応が拡大されるなど、主にデバイスのサポートについて、さらに充実したものとなっている。 今回はParallels Desktop上のWindowsや、その上で動作するアプリのベンチマークテストも実施していないが、Windows 11の起動とシャットダウンにかかる時間を計測してみた。 使用したMacは、M2を搭載し、16GBのメモリと1TBのストレージを実装したMacBook Airだ。Parallels Desktopでは、可能な限りのデータをキャッシュしてWindows起動の高速化を図っているということもあるが、完全にシャットダウンした状態から、わずか7秒強でWindows 11を起動してデスクトップを表示できる。シャットダウンにかかるのは3秒強だ。どうかすると、起動やシャットダウンに通常より長くかかる場合もあるものの、それでも余計にかかるのは数秒だけだ。 このようにWindowsの起動やシャットダウンは、その上のアプリも含めてかなり高速で、ほとんどMacのアプリと同じ感覚で利用できる。考え方によってはWindows 11をインストールしたPCの実機よりも快適と言える。 なお、Windows 11の場合、特にアプリを追加インストールしていない状態で、仮想マシンのディスクサイズは18GB強となる。またその時点の状態にもよるが、仮想マシンのスナップショットを1つ撮ると20GBを超えてくる。実際に利用するにはWindows 11用に最低でも30GB以上の空きスペースは確保しておきたいところ。 またWindows 11用の仮想マシンのメモリは、上記の構成の場合、自動的に6GBが割り振られた。これはParallels Desktop側の仮想マシンの設定で大きくも小さくも変更可能だが、Windows 11の快適な動作のためには、この程度は確保しておきたいところ。それを考えると、Windows 11を仮想マシンとして利用する場合、Macのメモリは8GBではややきついと考えられる。 おまけの域を超えたParallels Toolbox Parallels Desktopの本体は、紛れもない仮想環境ソフトにほかならないが、Parallels Desktopをサブスクリプションで購入すると付属しているParallels Toolboxも、年々機能が充実している。これは、いわゆるユーティリティ的なミニアプリを集め、メニューバーから簡単に選択して使えるようにしたもの。もはや、単なるおまけソフトとして軽視するわけにはいかないほどのものに成長している。 Parallels Desktop 18と同時に登場する最新版では、全部で53種類ものツールを含むものとなっている。数が多いので、いちいち取り上げて解説するわけにもいかないが、メニューバーからライブラリを開いた画面から、全体像を見渡すことができるだろう。