iPhoneで「サブ回線」を無料で備えておく裏技

もしもの通信障害に備えて、メイン回線とは別ブランドのバックアップ用回線を契約しておこう(筆者撮影) 10月14日の17時ごろに発生したドコモの通信障害により、約12時間にわたって音声通話やデータ通信がつながりづらい状況になった。IoT(モノのインターネット)用の加入者/位置管理サーバーの移行に失敗し、旧設備に戻す際にサーバーの処理能力を超えてしまったのが原因だが、障害はiPhoneなどのスマホを巻き込む形に拡大した。現時点では復旧済みで、ドコモ側は再発防止策を講じているが、通信障害は災害など、別の理由で起こることもあり、ゼロにするのは難しい。これは、ドコモ以外の通信事業者でも同じだ。 通信は仕事や生活に欠かせないインフラだ。確率は低いが、必ず起こるものとしてユーザー側で対策を取っておいたほうがいい。幸いなことに、政府の後押しもあって通信費は年々下がり、バックアップ用として維持しやすい回線は増えている。維持費がかからない回線もあるため、メインの回線とは別に、もう1回線契約しておけば、いざというときに役に立つ。iPhone XS以降のiPhoneは、eSIMに対応しており、SIMロックさえかかっていなければ2回線同時利用も可能なため、バックアップ用の回線は用意しておくといい。 例えば、KDDIが新たにスタートしたオンライン専用ブランドのpovo2.0はその1つ。楽天モバイルも0円で維持できる方法がある。いずれのキャリアもeSIMに対応しているため、メインの回線とは別に維持しておくことが可能だ。ここでは、バックアップに最適な維持費のかからないキャリアや料金を紹介していく。転ばぬ先の杖として、ぜひ利用を検討してみてほしい。 使うときだけデータ容量を購入できるpovo2.0 KDDIがオンライン専用料金プランとして3月に導入したpovoだが、他社と横並びでデータ容量は20GB一択だった。 この仕組みを抜本的に改めて、「povo2.0」として再スタートを切ったのが9月のこと。携帯電話料金で半ば常識になっていた月額制すら廃止し、プリペイドに近い形に生まれ変わった。基本料だけなら1円もかからず、その状態でも128Kbpsで通信を利用できる。回線はauと同じで、エリアは広く、5Gにも対応している。 高速通信を有効にしたいときだけ、「トッピング」と呼ばれるオプションを購入していく仕組みで、データ容量を専用アプリで選んでいくだけと追加方法も簡単。1GB、3GB、20GBといった容量別のトッピングだけでなく、24時間だけデータ通信を使い放題にするトッピングも用意されているため、バックアップ用回線としては最適だ。 eSIMにも対応しており、iPhoneにとりあえず入れておくバックアップ回線として使い勝手がいい。 また、「ギガ活」と呼ばれるキャンペーンも実施中。特定の店舗で一定額の買い物をするだけで、データ容量を“オマケ”としてもらうこともできる。ギガ活にはau PAYの利用が条件になっているものと、そうでないものがある。店舗は限られるが、全国展開しているローソンや、ドラッグストアのウエルシアなどが入っているため、データ容量をもらいやすい。このギガ活で付与されたプロモコードを使っていけば、トッピングを購入しなくても、ある程度のデータ通信を利用できる。バックアップ回線としてだけでなく、メイン回線のデータ容量が足りないときなどにもおすすめできるキャリアだ。 バックアップ回線として利用する際の注意点は、自動解約だ。トッピングを購入しないまま180日が過ぎると、自動で解約される可能性があることが規約でうわたれている。ただし、動画サービス「smash.」が1日見放題になるトッピングが220円で提供されているため、これを半年に1回程度購入すれば自動解約は避けられる。音声通話やSMSなどの料金が660円を超えている場合も、利用は停止されない。 メイン回線や単純な2回線目として使う分にはいいが、通信障害に備えるバックアップ用の場合は、メイン回線とは別のキャリアにしたほうがいい。今回のドコモのケースでは、回線を使うMVNOにも障害が起こったからだ。どこで障害が発生するかにもよるため、一概には言えないが、電波を送受信する基地局などでトラブルが発生した際のバックアップにはならない。そのため、povo2.0はドコモやソフトバンク、楽天モバイルを使う利用者向きと言えるかもしれない。 楽天モバイルは1GB以下なら維持費無料 2020年4月に本格サービスを開始した楽天モバイルも、バックアップ回線として使いやすいキャリアの1社だ。現行の料金プランは「Rakuten UN-LIMIT VI」で、データ容量に応じて自動的に料金が変動する仕組み。料金は0円から3278円。1回線目については、1GB以下なら料金はかからない。バックアップ用回線としてデータ通信をほとんど使わなければ、料金が発生しないというわけだ。また、メイン回線が不調なときに使って1GBを超えたとしても、3GBまでは1078円で大きな負担にはならない。データ容量に応じて自動的に金額が変動するため、プラン変更などの手間がかからないのもうれしい。 先ほど紹介したpovo2.0は、音声通話に30秒22円の料金がかかるが、楽天モバイルは「Rakuten Link」というアプリを使えば料金が無料でかけ放題になる。メインで使う回線に通信障害が起き、どうしても電話しなければならないケースでもお得に使うことが可能だ。アプリでの通話は一般的な携帯電話の音声通話より安定性に劣る部分はあるものの、料金がかからないため、バックアップ用以外にも活用できそうだ。また、楽天モバイルを契約すると、楽天市場でのポイント還元率が上がるので、とりあえずでも契約しておくとお得になる。 難点は既存の4キャリアと比べるとエリアが狭いこと。基地局を急ピッチで建てており、人口カバー率は日を追うごとに上がっているものの、現時点では3社に及んでいない。また、人口カバー率のような数値に表れにくい地下や、ビルの高層階、建物の奥まった場所などでもつながりにくいことがある。とはいえ、バックアップ用なら特に気にならないレベル。一部地域ではau回線へのローミングも行っているため、基本的には全国でつながると考えていいだろう。 ただし、楽天モバイルもpovo2.0と同様、まったく使っていないと自動的に解約になるおそれがあるため、注意が必要だ。楽天モバイルの自動解約の基準も、povo2.0と同じ180日。この期間内に回線が使われない場合、自動的に契約が解除になることが契約約款に明記されている。とはいえ、povo2.0より条件は緩く、これは楽天モバイル回線でまったく通信しなかった場合の措置だ。1GB未満で料金の支払いがない月が続いても解約になることはないため、定期的に楽天モバイル回線で通信しておくだけで済む。 バックアップ用の回線はメイン回線と別にするのが鉄則だが、楽天モバイルならドコモ、KDDI、ソフトバンクのいずれともかぶらないので、対象になるユーザーは非常に多い。新規契約の際にはポイント還元など、さまざまな特典も用意されているため、iPhoneのサブ回線にはうってつけと言えそうだ。 海外キャリアと契約して国内ローミングする方法 povo2.0や楽天モバイルは国内の通信事業者だが、eSIMなら、契約に際して店頭に出向く必要はないため、日本にこだわる必要はない。バックアップ用に、海外通信事業者のeSIMを入れ、いざというときにはローミングで使うのも手だ。本来は来日を目的とした外国人用のプランだが、日本在住のユーザーが利用できないといった制限は基本的に設けられていない。海外にはローミングサービスに特化したMVNOもあり、プリペイドが一般的。バックアップ用回線にはうってつけだ。 例えば、NTTコミュニケーションズ傘下でフランスに拠点を構えるTransatelのUbigiは、ローミング専業キャリアの1社。NTTグループのため、日本ではドコモ回線にローミングで接続する。日本で使える料金プランも多彩で、例えば有効期間1日の500MBプランは3ドルで利用可能。10GBプランも22ドルで、ある程度データ通信を多く使いたい場合にも役に立つ。現状では、ドコモ回線を使った維持費が無料のキャリアはない。ローミングにはなるが、auやソフトバンク、楽天モバイルを使ったユーザーが選択するのは悪くない選択肢と言える。 国内事業者と比べ、契約が手軽なのはメリットの1つ。上記のUbigiはアプリをインストールした後、すぐにeSIMのプロファイルをダウンロードできるようになる。アカウントの作成はその回線で接続したあとになる。その後、必要な料金プランをクレジットカードで購入するだけで利用を開始できる。本人確認書類のアップロードなどはいらず、手続きは数分で済む。メインの回線が何らかの事情で使えないときになってから、初めて契約するのでも十分なほどだ。 ただし、音声通話は利用できないため、LINEや050番号を使ったIP電話アプリなど、別の手段は用意しておかなければならない。また、ローミングでドコモ網に接続するため、通信が海外経由になり、遅延が大きくなりがちだ。とはいえ、通信がまったくできないよりはいい。 ローミング専業キャリアは、海外渡航時にも役立つため、コロナ禍が収束して海外出張、海外旅行に行きやすくなったときにも活躍する。転ばぬ先の杖として、利用を検討してみてもいいだろう。