Pixel 6に現れたグーグルの戦略、カメラとデザインに大きな変化

10月28日、グーグルは自社ブランドスマートフォン「Pixel 6」と「Pixel 6 Pro」を発売する。自社開発のチップとなる「Tensor」を搭載し、これまでクラウドで培ってきた機械学習などのAIとAndroid、さらにハードウェアを融合させた。

今回、発表となったPixel 6 Proなどを見ていると、これまでのグーグルとしてのPixel戦略から方向性が変わりつつあるように感じた。

デザイン的にはカラフルに生まれ変わり、質感も大幅に向上したように思える。過去のPixelシリーズは本体デザインが比較的、地味であり、値段の割に質感が安っぽい印象があった。見た目のデザイン、質感においてPixel 6シリーズは「価格相応」になったといえるだろう。

Android 12では「Material You」というデザイン言語を採用。OSのデザインと、Pixel 6の見た目がマッチした感がある。まさにハードとソフトが融合し始めているといえる。

カメラの画質はハードによる性能差が肝

もうひとつ、方向性の変化が「カメラ」だ。

Pixel 6シリーズは自社開発チップである「Tensor」を搭載し、カメラに加えて、言語認識やセキュリティなど、これまでグーグルがクラウドで得意としてきた機能を、オンデバイスAIとして実現している。Pixel 6では、消しゴムマジックとして、背景にいる邪魔な人物を消せたり、被写体に動きを出せるなど、撮影後の画像に対してAIが処理して加工できる機能がアピールされている。

これまでのPixelシリーズは、グーグルが得意とする「コンピュテーショナル・フォトグラフィー」を全開にした製品であった。カメラも1つあるいは2つ程度しかなく、望遠などもAIの力で滑らかにしてしまうなどのチカラワザで、きれいに見せていたのだった。

当時、中国メーカーがレンズの多眼化を強化し、アップルや日本メーカーも多眼化を追随するなか、グーグルは「カメラは少なくて十分。AIが頑張る」というスタンスをとっていた。

今回のPixel 6もコンピュテーショナル・フォトグラフィーのチカラが遺憾なく発揮されているが、一方で、Pixel 6 Proではカメラを3つ搭載し、光学4倍ズームの望遠レンズを採用している。まさに方向転換しており、コンピュテーショナル・フォトグラフィーでズームの画質を上げるというアプローチではなく、光学4倍というレンズのチカラで、綺麗な画質のままで望遠を実現しようとしているのだ。

グーグルとしても、きっと「コンピュテーショナル・フォトグラフィー」の得手不得手がわかってきたのだろう。ズームや光の取り入れなどは、やはりレンズに依存する。これらはできるだけ部品を積み、元の画像はいいものを取り込んで、コンピュテーショナル・フォトグラフィーで加工していくというやり方を選んだのだ。最初から何でもかんでも、コンピュテーショナル・フォトグラフィーできれいにするというのはやはり無理があるというものだ。

グーグルはカメラを複数搭載し、光学式の望遠を取り入れるなど、まさに他のメーカーがやってきたアプローチを追いかけている格好だ。

実は自社開発チップの機械学習によるコンピュテーショナル・フォトグラフィーで画質を上げてきたアップルも、iPhone 13シリーズでは、カメラ周りはかなりハードウェア的な進化させるというアプローチを行っている。

iPhone 13 ProシリーズではこれまでのiPhoneで最大の1.9 μmピクセルを採用してきた。大きなセンサーにすることで、様々な光の条件でも早いシャッターを実現できる。また、超広角カメラも新しいレンズ設計とソフトウェアを組み合わせることで、iPhoneでこれまで不可能だったマクロ撮影を可能にした。

すべてのモデルでセンサーシフト光学式手ぶれ補正(OIS)を搭載し、レンズではなくセンサーを安定されることで、写真はなめらか、動画はブレの無い状態での撮影が可能となった。

iPhone 13シリーズは動画撮影時の「シネマティックモード」などは高度な機械学習アルゴリズムを使って実現しているが、一方で、撮影の基本となる部分では地道にセンサーやレンズ、手ぶれ補正機構などハードウェアを進化させて画質向上を図っているのだ。

アップルやグーグルだけでなく、あらゆるスマホメーカーは、10年以上、カメラの画質競争を続けてきている。ここ最近は高性能なチップセットが搭載されたことでAIによる「コンピュテーショナル・フォトグラフィー」が注目を浴びているが、やはりカメラの画質はまずはレンズやセンサーなどハードによる性能差が効いてくる。超広角から望遠まで幅広い画角を網羅するには、ペリスコープのように本体内でレンズを動かしてズームさせるのが理想だが、一方で、構造が大きくなってしまうため、スマートフォンの本体にきれいに収めるのは難しくなってくる。

今年、シャープが「AQUOS R6」、ライカが「Leitz Phone 1」で、1インチのセンサーを載せてきたが、やはりデジカメ用のセンサーで1インチの大きさを採用すると、それなりに大きいため、レンズの構造を見直すといったアプローチがとられたが、どうしてもカメラ部分が出っ張るデザインとなってしまっていた。

ハード的に魅力的なものを積めば、これまでのスマホでは実現し得なかった画質を手に入れられるものの、サイズ的には犠牲を払う必要が出てくる。一方、AIによるコンピュテーショナル・フォトグラフィーだけでは、画質面での限界がある。

今後、スマートフォンのカメラは1インチのような大型センサーをコンパクトに収めるといったハード的なアプローチと、コンピュテーショナル・フォトグラフィーによるソフト的なアプローチをいかに融合してバランス良く美しい画質を手に入れるかの勝負となってきそうだ。