Leitz Phone 1では撮れてAQUOS R6で撮れない写真とは?ライカ版カメラ深堀りレビュー

つい先日発売されたLeitz Phone 1。ライカが全面監修した世界初のスマートフォンです。Leitz Phone 1はシャープのAQUOS R6をベースにしたモデルであり、ソフトバンクから独占販売となっています。

ドイツの老舗カメラブランドであるライカのスマートフォンということでやはり気になるのはそのカメラ性能です。Leitz Phone 1と兄弟機のAQUOS R6の比較は石井徹氏の記事に任せるとして、今回はLeitz Phone 1のカメラ性能に注目してレビューしていきます。

AQUOS R6にはないLeitz Phone 1の独自機能は?

先述の通り、Leitz Phone 1のベースモデルはシャープのAQUOS R6であり、Leitz Phone 1の目玉であるカメラに関しても、1インチセンサーやズミクロンレンズといったハードウェアはAQUOS R6と共通となっています。基本的なカメラ性能はAQUOS R6に準拠していますので、Leitz Phone 1のカメラがどういったものかはAQUOS R6のカメラレビューを先にご覧いただければわかりやすいかと思います。

まずは専用のモノクロームモードであるLeitz Looks。

AQUOS R6ではマニュアルモードで色合いを0にすることでモノクロ撮影を実現していましたが、Leitz Phone 1ではライカ独自の専用モノクロモード「Leitz Looks」が搭載されてます。

2つ目はデジタルズームがブライトフレーム式になっている点です。

一般的なカメラはズームするとディスプレイ上に撮影範囲そのものが写されますが、Leitz Phone 1では撮影範囲を示す枠、つまりブライトフレームが表示されます。これにより、常に周辺の情報を意識した撮影が可能になります。

他にもシャッター音がM型ライカのようなスッキリとした音になっている、ライカフォントを採用しUIがわずかに異なる、といった違いがあります。しかしこれらはユーザビリティの違いであって写真の写りにはほとんど影響しないため、今回はLeitz Looksとブライトフレームに注目します。

Leitz Looksでライカらしいモノクローム撮影を実現

カラー撮影が主流である今、一般的にはモノクロ写真はアプリでフィルターにかけたりLightroomなどのアプリで彩度を0にしたりすることで作られます。その際に使ったアルゴリズムに応じて画作りも異なったものとなります。

▲こちらはAQUOS R6で色合いを0に設定して撮影したRGBモデルです

▲一方でこちらはLeitz Phone 1のLeitz Looksで撮影したもの。Leitz Looksのほうが暗めでハイコントラストであることがわかります

モノクロ写真の世界では軟調と硬調という言葉があります。軟調はグレースケールのようななだらかなグラデーションのモノクロ写真。硬調は光と闇がはっきりと別れたハイコントラストなモノクロ写真です。Leitz LooksではAQUOS R6よりもわずかに硬調寄りであり、よりインパクトのある印象的な写りとなります。

明暗差がはっきりとしているシーンではシャドーがしっとりと沈んでおり、全体的に引き締まったモノクロ写真に仕上がります。また、外の空が白飛びせずに雲の質感が残っているのはさすが1インチセンサー搭載のスマホです。

光のグラデーションがあるシーンはモノクロが得意とするところです。照明や木漏れ日といったスポットライトを見かけたときに「モノクロで撮ろう」となるのは階調表現が豊かなLeitz Phone 1ならではだと思います。

ブライトフレーム式は構図のアイデアが練られる

続いてLeitz Phone 1にあってAQUOS R6にはない2つめの機能となるブライトフレームについて。ブライトフレーム式のデジタルズームは風景全体を捉えながらどこを切り取るかを考える事ができるため、構図のアイデアを練るのに最適です。

▲例えば、この場所ではそびえ立つ高層ビルを中心に据えていますが、ブライトフレームを活用すると余白を写真にどう入れるのかじっくり考えることができます

Leitz Phone 1 / AQUOS R6共にデフォルトでデジタルズームされた画角となっていますが、Leitz Phone 1はブライトフレームによってカメラアプリを起動してすぐに全体の画角が確認できるのでアイデアの幅が広がります。

ここではビルを主役に、カーブした階段をフレームとして脇役にしたかったのでバランス良く切り取りました。全体が見えているからこそ意図のある写真を撮ることができます。

Leitz Phone 1のズームはLeica Qシリーズのように光学ズームではなくてデジタルズームであるため、「とりあえず超広角で撮っておいて後からトリミングすればいいじゃん」と思われるかもしれません。そのご指摘は正しくてごもっともなのですが、撮影時にすでにイメージが掴めているかどうかがポイントであり、完成に近いものが最初から見えているだけで手応えがあるし撮影体験が向上します。もちろんどう感じるかは人によるとは思いますが......。

写り○、構図の捉え方○、シャッターチャンス×

M型ライカやLeica Qシリーズなどではブライトフレームを活用してフレームインしてくる被写体を狙って撮ることが容易にできますが、Leitz Phone 1はそこが苦手でシャッターチャンスを逃しがちです。

こちらはAF、AEを固定した状態で走っている車を撮ろうとしたシーンです。

シャッターを押した瞬間は確実に車を捉えられたと思っていたのですが、結果はこのとおりです。

Leitz Phone 1はAQUOS R6と同じくシャッターにラグがあるため、「今だ!」とシャッターを押してもだいたい外します。

ライカといえばアンリ・カルティエ・ブレッソンや木村伊兵衛といった20世紀を代表する写真家が愛したカメラです。特に決定的瞬間を捉えたモノクロのスナップショットは誰もが目にしたことがあると思います。

当時としてはかなりコンパクトだったライカのカメラは人々に警戒心を与えることなく、演出のない自然なスナップ写真が撮れました。スマホ社会となった今、スマホはカメラ以上に生活に馴染み、警戒感を与えません。

そんな中、あのライカが初めてスマホを出したと聞けば、それでかつての写真会の巨匠が撮ったようなスナップ写真を撮りたいと思うのが普通です。私はライカユーザーではないのでわかりませんが、自然なスナップ写真を撮りたいがためにライカのロゴを黒塗りしてカメラを目立たなくするライカユーザーもいることを考えると、ライカファンであればなおさらLeitz Phone 1でスナップを撮りたいだろうと思います。

▲フレームインする前から連写することで走るバイクを捉えられました

そのためにはちょっとピンボケしててもあとからトリミングすることになってもまずは決定的瞬間を自らの意思で捉えることが大事であり、M型ライカやLeica Qシリーズではそれができるのですが、Leitz Phone 1はラグがひどくてできません。他のスマホであればそこまで問題だとは思いませんが、スナップの王様であるライカのスマホでブライトフレームまで搭載したものであることを踏まえると少し残念です。(もちろんAQUOS R6同様に4K動画のAIライブシャッターが使えますが、スナップ写真の場合は設定を切り替えているうちにシャッターチャンスを逃します。)

Leitz Phone 1は(Leicaの赤パッチロゴが目立つとはいえ)カメラではなくスマホであるため周囲に溶け込み気配を消すのは完璧だし、写りもスマホカメラでありがちなゴテゴテの高彩度高コントラストではなく自然に写るライカの空気感そのものです。シャッター音も専用のM型ライカのような静かで小気味いいものとなっているため、あとは決定的瞬間を逃さないスピードがあれば最高だと感じました。この点は後々のアップデートや次世代機種に期待しています。

作例

最後にLeitz Phone 1で撮影した作例を何枚かお見せします。

こちらは決定的瞬間的な写真を撮ろうとした写真です。フレームインはどうも苦手なので走っている女性がフレームアウトするタイミングを狙いました。

暗い時間帯で2倍ズームをしているので背景の茂みがほぼ黒つぶれしてしまっていますが、逆に手前のバス停が浮かび上がってきてそこに視線が誘導される一枚となりました。

こちらの一枚も暗い時間帯で2倍ズームしたものですので解像感は弱いですが、街灯のふわっとした光が表現できています。Leitz Looksは光の柔らかい空気感を伝えるのに最高です。

広角レンズでスナップ写真を撮ろうと思いながらこういうフレームっぽくなっているところを見かけるとついつい撮ってしまいます。

AQUOS R6では1インチセンサーを生かすために0.7倍で撮るしかない!と思っていたのですが、ブライトフレームがあると「1インチもあるんだからもっと自由に撮っていいんだよ」と言われているように感じられ、自由な発想で撮影できました。

ちなみにAQUOS R6やLeica Qシリーズ同様にJPG+RAWで撮影すればRAWは0.7倍の1インチセンサーフルの画角で保存してくれるので「もっと広く撮っておけばよかった!」と後悔することもありません。もちろん1インチセンサーをフルに生かした19mm相当のダイナミックな画角を楽しむのもありです。この一つの小さいカメラでここまで自由に遊べるのはLeitz Phone 1とAQUOS R6だけでしょう。

AQUOS R6のレビューでも申し上げたとおり、ライカ独特の空気感や透明感を感じる写りとなっています。まるで自分がその場に居合わせているかのような雰囲気。やっぱりLeitz Phone 1はスナップフォトで使いたいカメラだと思います。

まとめ

Leitz Phone 1のカメラは基本的にはAQUOS R6と同じですが、Leitz Looksやブライトフレームといったライカらしさを感じられる独自機能が追加されており、「ああライカを使っているんだな」と思わせてくれる仕上がりとなっています。

また、ライカらしい写りのLeitz Looksは積極的にモノクロ撮影をしようと思えるし、ブライトフレームの存在は撮影時の意識が変わります。どちらも伝統的なライカの撮り方に近いものであり、非ライカユーザーの私でもなんだか腕が上がったかのように感じられ、非常に楽しい撮影体験となりました。

それだけにスピードの問題がAQUOS以上に残念に感じられるし、AQUOS以上にカメラファンが手にすると思われる機種なのにUIがカメラ的ではなくてスマホ的(AQUOS的)であることが引っかかります。

ライカとシャープの協業は長期的に続くことが発表されており、後継機の登場も予想されています。カメラの分野では小型軽量化によってスナップ写真を流布させたライカですが、AQUOS R6やLeitz Phone 1での経験を踏まえてスマホカメラの分野でどのようなアプローチをしていくのかに注目です。

個人的にはせっかくレンズキャップがマグネットでつくならその磁力でくっつく専用コンバージョンレンズやズーム/MFリングがあれば面白いかなと思います。ライカさん、どうでしょうか?