デスクトップ向けRyzen搭載で高性能! 容積1.35Lの小型パソコン「MINISFORUM X400」

香港MINISFORUMは、国内のクラウドファンディングサイト「Makuake」において、Ryzen 5 PRO 4650Gを搭載したミニパソコン「X400」の出資を募っている。

11月30日現在、一般販売予定価格から5%割り引いた71,500円の出資で、製品を入手可能となっている。出荷は2021年1月末予定だ。今回、出荷に先立って製品サンプルを入手したので、レビューしていきたい。

ASRock「DeskMini X300」に強力なライバル出現?

MINISFORUMは小型パソコンを専門としている香港のメーカーで、このところ日本市場での本格参入にかなりの意欲を示している。購入こそドル建てとはなってしまうし、サポートが英語ベースとなってしまうのがやや難点だが、一部製品情報は日本語化済みであり、直販サイトで購入した分に関しては、日本も含めて全世界で送料無料で出荷している。そのなかでもX400は、同社がはじめて日本でクラウドファンディングを行なう機種だ。

日本国内では、ASRockが2019年に投入した“小型×AMDデスクトップAPU搭載”パソコン(ベアボーン)「DeskMini A300」が高い人気を誇っている。そのA300の後継として10月には、Ryzen PRO 4000シリーズに対応した「DeskMini X300」が発売。明言こそしていないが、X400はこの対抗馬と言ってもいいだろう。製品名を見ても、ASRockを意識しているのは明らかで、日本市場向けなのも頷ける。

ASRockのX300は、本体サイズが155×155×80mm(幅×奥行き×高さ)という容積1.92Lの筐体であるのに対し、X400は1.35Lとふたまわりほど小さい。もちろんX300がM.2 2280のSSDを2基、SATAの2.5インチドライブを2基搭載できるのに対し、X400のM.2はうち1基が2242のSATA専用、2.5インチドライブが1基になり、拡張性が低くなるが、同じデスクトップRyzen APUを搭載できると思えば立派だ。

インターフェイスや仕様にも細かい相違がある。X400はUSB Type-C非対応で、ミニD-Sub15ピンはないのだが、Wi-Fi 6を標準で搭載し、Gigabit Ethernetも2基ある。また、S3スリープもサポートする……といった具合。以下に違いがわかる表を用意したので、用途に合わせて選択の参考にしていただきたい。

機種 MINISFORUM X400 ASRock DeskMini X300
ソケット Socket AM4
メモリ DDR4 SO-DIMM×2(最大3,200MHz)
チップセット AMD X300
ストレージ M.2 2280 PCIe 3.0x4、M.2 2242 SATA、SATA 2.5インチ M.2 2280 PCIe 3.0x4×2、SATA 2.5インチ×2
USB USB 3.0×4 USB 3.0×3(うち1基はType-C)、USB 2.0
ネットワーク Gigabit Ethernet×2 Gigabit Ethernet
無線LAN Intel Wi-Fi 6 AX200 オプション
ディスプレイ出力 HDMI、DisplayPort HDMI、DisplayPort、ミニD-Sub15ピン
その他 完成品/クーラー/VESAマウントキット標準搭載 ベアボーン/クーラー/VESAマウントキット別売り。アドレサブルLED/USB 2.0 Hub/背面オーディオオプション対応

X300は基本的にベアボーン形態であり、パソコン完成品としてはホワイトボックス系メーカーがリリースしているのに対し、Makuakeで出資を募っているX400に関しては、基本的にCPU/メモリ/SSD/OS組み込み済みの完成品である点が異なる。

ただ、X400もユーザーによるパーツ交換を想定したベアボーン構造となっている。もちろん、X300は最初からなにも搭載していないので、APU/メモリ/ストレージの選択肢の幅が広く、最強を目指せるのは変わりないのだが、X400の仕様で満足できるユーザーもかなりいそうだ。この点、DeskMini X300にとって強力なライバルが現れたと言ってもいい。

筐体はH31Gを踏襲

X400の位置づけがわかったところで、筐体や内部構造について見ていきたい。筐体自体は、本製品に先立って9月に発売された「H31G」を踏襲している。背面パネルインターフェイスが異なるため、ポート類の穴が違ったり、排気口がパンチメッシュ板で覆われるようになったりといった違いはあるが、前面と側面はまったく共通だ。X400もH31Gも、底面パネルと背面I/Oパネルが一体型であるため、基本的にこの部分だけ差し替えれば共通、ということになる。

さらに言えば、底面を開けたさいにアクセスできるスロットは、M.2 2280、M.2 2242(SATA)、2.5インチドライブベイ、SO-DIMMで、これもまったく共通。microSDスロットと音声入出力、M.2 2242を別基板で実装している点も変わらない。IntelとAMDという大きな違いこそあれど、ここまで共通した設計にできるのには感心する。

ところが基板を取り出した印象は大きく異る。H31GはGeForce GTX 1050 Tiを備えているため、その“ビデオカード”をフィルムケーブルでメイン基板と接続し、ヒートパイプを駆使した複雑な構造のヒートシンク上に固定しているのに対し、X400はAPU上に薄型のクーラーを載せただけのシンプルな構造である。H31Gは内部にびっしりパーツを詰め込んだ印象があるのに対し、X400はスカスカだ。

また、H31Gは内部的に上面吸気→背面排気というエアフローとなっているが、X400は上面吸気→4面排気(四方に穴が空いているため)となる。横置きではH31Gのほうが有利だが、VESAマウントキットでディスプレイ後部に取り付けた場合、X400のほうが熱い排気を再び吸気してしまう可能性が低くなっているといえる。

ファンの騒音はH31Gと比較してやや大きい印象。いずれも負荷時にそこそこファンの音が聞こえるというのは共通なのだが、H31Gの騒音成分のほとんどが風切り音であるのに対し、X400はファンの若干の軸音もある。筐体に余裕があるので、もう少し大口径のヒートシンクを採用してほしかったところだ。

なお、付属品もH31Gとほぼ共通で、VESAマウントキット、DisplayPortケーブル、HDMIケーブルなどとなっているが、ACアダプタはH31Gと比べて出力が抑えられている(148.2W→100W)分、サイズも小さくなっており、取り回しのしやすさではX400のほうに軍配が上がるだろう。

“チップセット”はいずこ?

ところで、これはASRockのX300にも共通して言えることなのだが、こうしたスモールフォームファクタでSocket AM4を実現したマザーボードには、“AMD X300”と呼べるチップセットの装備がどこにも見当たらないのである。

この件に関してAMDに問い合わせたところ、「チップセットはマザーボード上にはあり、セキュリティや認証、プロセッサのPOSTなどに使っている。ただ、追加のI/O類はなく、プロセッサのI/Oを直接使っている」との解答が得られた。

Ryzen APUは、ノートパソコンにも使われている関係上、主要機能に関してはIntelのCPUと同様、すべて内包しているという認識で良さそうだ。AMDが言う“チップセット”は、ITE製の組み込みコントローラ「IT5570E-128」のことかもしれない。

つまり、Ryzen APUは外部I/O(X570/B550/A520のような、俗に言うチップセット)がない場合そのまま動作することもできるし、X570/B550/A520と接続する場合はそちらのI/Oを使うこともできる構造になっているというわけだ。この点はGPUなしのRyzenとは異なると見られる。そういう意味で、Ryzen PRO 4000シリーズは“AMD版黄金戦士”的な位置づけだと言えなくもないだろう。

オフィス用途ならX400

最後にベンチマークを実施してみた。今回もH31Gの回と同様、パソコンの総合的な性能評価を行なう「PCMark 10」に加え、3D関連の性能を計測する「3DMark」、「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」、「ドラゴンクエストX ベンチマーク」を使用。比較用に、H31Gの結果を並べてある。

ただ、CPUの純粋な性能を計測する「Cinebench」については、先日R23へのメジャーバージョンアップが行なわれたので、H31GもR23にアップデートした上でスコアを取りなおした。

モデル X400 H31G
CPU Ryzen 5 PRO 4650G Core i5-9400F
メモリ 16GB(DDR4-3200、2枚) 8GB(DDR4-2666、1枚)
SSD 256GB
OS Windows 10 Pro 20H2 Windows 10 Home 1909
PCMark 10
PCMark 10 Score 5610 4856
Essentials 9429 8963
App Start-up Score 11560 12115
Video Conferencing Score 8505 7073
Web Browsing Score 8527 8404
Productivity 8343 6646
Spreadsheets Score 10296 7814
Writing Score 6761 5654
Digital Content Creation 5219 6091
Photo Editing Score 9226 5328
Rendering and Visualization Score 5777 5860
Video Editing Score 4240 4554
3DMark
Time Spy 1213 2377
Time Spy Graphics score 1067 2196
Time Spy CPU score 5475 4475
Fire Strike 3186 6105
Fire Strike Graphics score 3442 6707
Fire Strike Physics score 18308 11960
Fire Strike Combined score 1140 2536
Night Raid 13164 19301
Night Raid Graphics score 13874 23681
Night Raid CPU score 10205 9425
Sky Diver 11582 16612
Sky Diver Graphics score 11192 18184
Sky Diver Physics score 14854 10791
Sky Diver Combined score 10838 19806
ファイナルファンタジーXIV:漆黒のヴィランズ ベンチマーク
1,920×1,080ドット 最高品質 2817(やや快適) 5616(非常に快適)
1,920×1,080ドット 高品質(デスクトップPC) 3002(やや快適) 7610(非常に快適)
ドラゴンクエストXI ベンチマーク
1,920×1,080ドット 仮想フルスクリーン 最高品質 9207(とても快適) 18746(すごく快適)
1,920×1,080ドット 仮想フルスクリーン 標準品質 11225(すごく快適) 19405(すごく快適)
Cinebench R23
CPU(Multi Core) 8685pts 5950pts
CPU(Single Core) 1254pts 1061pts

PCMark 10の結果を見ればわかるとおり、ミドルレンジのRyzen 5 PRO 4650Gは、仮想マルチスレッディング技術に対応しているため、オフィスや一般的な用途において、ほぼ同じ位置づけのCore i5-9400Fより優れた値を示した。とくにSpreadsheetsでは3割、Photo Editingに関しては7割高いスコアを達成しており、同じ65Wのプロセッサだとは思えないほど。

その一方で3Dベンチマーク系というと、ざっくりGeForce GTX 1050 Tiの半分程度の性能ということになる。統合GPUとしてはある程度評価できるし、軽めの3Dゲームなら難なく動作するだろうが、最新のゲームをフルHD解像度でプレイするにはやや力不足だろう。

オフィスやマルチメディアのパソコンとして最適

X400はH31Gと本体こそ共通だが、プラットフォームが異なれば、想定用途もやや異なる位置づけだと言える。H31Gはどちらかと言えばゲーム向けだが、X400はオフィス向けだ。Makuakeのストレッチゴールで、サポーター80人達成でOSをWindows 10 HomeからProに無償アップグレードするとあるが、この低い目標設定は当初よりProを搭載するつもりだったのだろう。ベンチマークの結果も、それを裏付けている。

メモリが標準で16GB搭載されているほか、SATAのストレージを自由に増設できるのもいい。本体サイズ1.35Lという容積、7万円台という価格のなかで考えうるオフィス向けパソコンの1つの最適解とも言え、モバイルCPUを採用する従来のコンパクトパソコンに力不足を感じているユーザーにとって魅力的な製品だと言えるだろう。