「夜のApple Watch」が来た。あとはバッテリー問題だ

※パブリックベータ版のiOS、watchOSのスクリーンキャプチャは、取材に基づいて特別に許可を受け、掲載しています

アップルはApple Watch向けのwatchOS 7のパブリックプレビューを公開し、開発者登録をしている人以外でも、ベータサイトで登録すれば試せるようになりました。watchOSのベータ版を試す機会は開発者以外なかなか得られないので、貴重なチャンスと言えるかもしれません。

Apple Watchは2015年4月に発売され、それ以来スマートウォッチ市場を牽引してきた存在で、その地位は現在も変わりません。すでに時計ブランドとしては、最高峰だったロレックスを上回る売上高に達しています。

つい最近、日本で入手可能な21本ものスマートウォッチを一挙に試す機会がありました。丸い文字盤や、収録される独自の若々しいデザインなど、時計として多彩な演出にあふれています。そう考えると、Apple Watchはむしろ、一番時計っぽくない存在と言えるかもしれません。

加えて、登場以来、Apple Watchのバッテリー持続時間は18時間(アップルの見解としては1日)から伸びておらず、2〜3日、あるいは1週間、1ヵ月というサイクルを持つ他社製品に劣っています。

しかしながら、それ以外の部分でApple Watch以外を積極的に選択しにくい状況が続いています。iPhoneとの連携に限られますが、それでも基本的には、電話と時計をそれぞれ充電しておけば勝手に連携してくれる手軽さがあります。

思った以上に、Apple Watchはメンテナンスフリーで、この点は実は、大きな強みではないか、と思いました。

Apple Watchには、新しいスポーツのアルゴリズム「ダンス」や、高低差を考慮した自転車のナビゲーションなど、昨今の巣篭もり生活や、密にならない移動などの新しい生活様式に役立つトレンドが盛り込まれています。

面白かったのが、手洗いセンサー。手を合わせて前後に動かす動作を検出すると、5秒ほどで画面表示が変わり、20秒の手洗いカウントダウンが始まります。20秒が過ぎると、シャボンで象られた「いいね」絵文字が表示される仕組み。

これもiPhoneのヘルスケアアプリに記録されており、平均で何秒手洗いをしているかの統計が出てきます。こうやってデータを突きつけられると、もっと念入りにやろう、と思うものです。ちなみに、自宅に帰ってくると時計に手洗いを促す通知が届く点も気が利いています。

ただ、watchOS 7を試していると、例えば台所で鍋を洗っていたり、洗濯物を干しているときにも手洗いセンサーが作動しており、この辺りは少し感度が高過ぎるかもしれない、と思いました。

●限定付きで夜に進出するwatchOS 7

watchOS 7は、2020年秋に配信される予定のApple Watch向け最新ソフトウェアです。今回のアップデートで最も大きな変更は、ついに夜の世界に進出することでしょう。

watchOS 7を導入したApple Watchを装着して寝ることで、睡眠計測ができるようになりました。眠りの深さを計測するアルゴリズムが搭載されたことで、眠りの質を記録できるようになったのです。

今回の睡眠計測はただ睡眠を計測できるようにしたわけではありません。iPhoneも含めた「夜の演出」体験を提供するようになりました。

iOS 14のヘルスケアアプリでは、何時に寝て、起きるかという理想的な睡眠サイクルを設定できます。この機能を使うと、就寝の30分前(これも変更可能)から、iPhoneとApple Watchが就寝準備モードに入ります。

iPhoneもApple Watchも画面デザインがシンプルになり、バックライトは極めて暗い状態になります。光を目に入れないための配慮です。また、iPhone側では、あらかじめ就寝前に使うアプリのショートカットボタンが表示され、積極的に他のアプリを使わないよう抑制します。

このように、単に睡眠を計測するだけでなく、就寝前のルーティンまで面倒を見るようになったというのが、後発のアップルが打ち出した、ベッドサイドの最適解、というわけです。

●バッテリー問題は残る

しかし、既存のApple WatchにwatchOS 7を入れたからといって、バッテリーライフが伸びるわけではありません。これはハードウェアの問題であるため、前述の18時間という持続時間は維持したままです。

いくらApple Watchが睡眠モードになったからといって、この持続時間が飛躍的に伸びるわけではないのです。

そこで採用したのが、Apple Watchが就寝前にバッテリー残量30%を切っていると、寝ている間に電源が落ちないよう、充電を促す仕組みです。

朝起きた時にもバッテリー残量を表示して、継ぎ足し充電を促します。このように充電タイミングをユーザーに知らせる機能を実装していることは、睡眠モードをまっとうするだけのバッテリーの実力がないといっているようなものです。

もちろん、そこをソフトでフォローし、寝る前と起きた後に出かけるまでの充電を習慣化を促す点はポジティブに受け取っていて、ハードとソフトをいったい開発して体験を作るアップルらしい作りだと思っています。

とはいえ、ソフトと人の習慣化に任せてハードがいつまでも進歩しない、というわけにはいかないはず。個人的には2020年登場のApple Watchで、バッテリー持続時間を少なくとも48時間(2日)、できれば72時間(3日)に強化してくるのではないか、と予測しています。

18時間を1日としてきたApple Watchのバッテリー持続時間は、「人は1日に6時間以上は睡眠するだろう、その間は充電するだろう」という前提のもとに、作られているのではないでしょうか。

しかし睡眠中もApple Watchを使うとなると、この方程式では成り立たなくなってしまいます。単にバッテリー容量を大きくしたり、持続時間を長くしても、充電時間が短くならないと、夜寝ているときの計測に役立てられないからです。

たとえばApple Watchがより素早い充電に対応するなら、2日に1度の充電ということで、48−3で「45時間=2日持続」72-3で「69時間=3日」という新しい方程式を打ち立ててくるかもしれません。