過剰な期待は禁物、グーグルとアップルの「感染追跡アプリ」

グーグルとアップルは先日、スマートフォンのブルートゥース通信を用いて新型コロナウイルスの感染経路を追跡する技術を共同開発すると発表した。これを受け、世界中で「コンタクト・トレーシング(接触追跡)」アプリの開発が始まっている。

しかし、アプリを用いた新たな取り組みに期待が高まる一方、プライバシー侵害への懸念も高まっている。接触追跡アプリが国民を監視したい政府にとって夢のようなアプリだと思うのは大きな誤りだ。政府が本気で国民を追跡したいのであれば、スイッチをオフにできるようなアプリは役に立たない。

スマホの通話やインターネットのメタデータ、旅行や決済記録などを分析すれば、監視対象の人物の行動パターンを把握することができ、捜査において大いに役立つ。

実際、ピーター・ティールのPalantirやイスラエルのスパイウェア企業「NSOグループ」などはこうした試みをビジネスとして展開している。しかし、接触追跡アプリはユーザーがスイッチをオフにできるため、追跡されたくない人はいつでも機能を無効にできてしまう。

最新の研究によると、感染経路追跡が効果を発揮するためには、症状が出たユーザーは検査を受けるよりも先にアプリに入力し、接触のあった人物に通知を出して隔離させなくてはならない。この仕組みは、個々人のコンプライアンス意識に依存しており、最初は警報に従って自主隔離していても、誤警報が続くとそのうち警報を無視する人が増えるリスクがある。

より重要な問題は、アプリのインストール数と利用の継続率だ。シミュレーションによると、成果を挙げるには人口の約60%がこのアプリを利用する必要があるという。これは、スマートフォンユーザーの80%に相当する数だ。

鍵を握るのは若い世代だ。しかし、若い世代は症状が深刻化する可能性が低いため、外を出歩いてウイルスを広めやすい。また、若い世代はプライバシー侵害を巡る議論の影響を受けやすく、一定割合はアプリをインストールしないことが想定される。このため、普及は限定的な上、インストールしても警報を不便に思い、スイッチをオフにするユーザーもいるだろう。

普及は難しい
どの国家も、国民の60%に特定のアプリをインストールさせることは不可能だ。シンガポールですら、国民の3分の1にインストールさせるのが精一杯だった。最近実施された調査によると、米国民の多くは接触追跡アプリの効果を疑問視しており、プライバシー保護の観点からこうした技術には賛同していないという。

全ての人がアプリをインストールし、アプリが想定通り機能したとしよう。ユーザーの年齢や健康状態に基づき、アプリ上に色のついたQRコードが表示される。緑色のQRコードは自由に行動できることを意味するが、症状のある人と接触した場合、その人の検査結果が出るまではQRコードの色が赤に変わり、自主隔離をしなければならなくなる。こうした仕組みは技術的に可能でも、実際には不可能だと言えるだろう。

接触追跡アプリの導入を検討している国は、人々の行動や社会基盤の変化を想定しなければならない。中国やシンガポール、韓国などの事例を見れば、感染経路の追跡が重要であることは明白だ。一方で、中国ですらスマートフォンにのみ依存した感染経路の追跡は困難であることも明らかになった。接触追跡には自動化できない要素が多い上、ユーザーのコンプライアンスに対する依存度が極めて高いのだ。

それでも、接触追跡アプリの開発は急ピッチで進んでおり、この1カ月で多くのアプリがリリース目前までこぎつけている。しかし、アプリに過大な期待を寄せる各国政府が直面する課題は明白だ。

アプリが想定以上にインストールされることは考え難く、警報に従う人の割合は少ないだろう。ロックダウンが解除されれば、「感染しているかもしれない」という警報が届いても、自主隔離に従わない人が大半だろう。国民に導入させることの難しさを、各国政府は思い知ることになるはずだ。

グーグルとアップルは先日、スマートフォンのブルートゥース通信を用いて新型コロナウイルスの感染経路を追跡する技術を共同開発すると発表した。これを受け、世界中で「コンタクト・トレーシング(接触追跡)」アプリの開発が始まっている。

しかし、アプリを用いた新たな取り組みに期待が高まる一方、プライバシー侵害への懸念も高まっている。接触追跡アプリが国民を監視したい政府にとって夢のようなアプリだと思うのは大きな誤りだ。政府が本気で国民を追跡したいのであれば、スイッチをオフにできるようなアプリは役に立たない。

スマホの通話やインターネットのメタデータ、旅行や決済記録などを分析すれば、監視対象の人物の行動パターンを把握することができ、捜査において大いに役立つ。

実際、ピーター・ティールのPalantirやイスラエルのスパイウェア企業「NSOグループ」などはこうした試みをビジネスとして展開している。しかし、接触追跡アプリはユーザーがスイッチをオフにできるため、追跡されたくない人はいつでも機能を無効にできてしまう。

最新の研究によると、感染経路追跡が効果を発揮するためには、症状が出たユーザーは検査を受けるよりも先にアプリに入力し、接触のあった人物に通知を出して隔離させなくてはならない。この仕組みは、個々人のコンプライアンス意識に依存しており、最初は警報に従って自主隔離していても、誤警報が続くとそのうち警報を無視する人が増えるリスクがある。

より重要な問題は、アプリのインストール数と利用の継続率だ。シミュレーションによると、成果を挙げるには人口の約60%がこのアプリを利用する必要があるという。これは、スマートフォンユーザーの80%に相当する数だ。

鍵を握るのは若い世代だ。しかし、若い世代は症状が深刻化する可能性が低いため、外を出歩いてウイルスを広めやすい。また、若い世代はプライバシー侵害を巡る議論の影響を受けやすく、一定割合はアプリをインストールしないことが想定される。このため、普及は限定的な上、インストールしても警報を不便に思い、スイッチをオフにするユーザーもいるだろう。

普及は難しい
どの国家も、国民の60%に特定のアプリをインストールさせることは不可能だ。シンガポールですら、国民の3分の1にインストールさせるのが精一杯だった。最近実施された調査によると、米国民の多くは接触追跡アプリの効果を疑問視しており、プライバシー保護の観点からこうした技術には賛同していないという。

全ての人がアプリをインストールし、アプリが想定通り機能したとしよう。ユーザーの年齢や健康状態に基づき、アプリ上に色のついたQRコードが表示される。緑色のQRコードは自由に行動できることを意味するが、症状のある人と接触した場合、その人の検査結果が出るまではQRコードの色が赤に変わり、自主隔離をしなければならなくなる。こうした仕組みは技術的に可能でも、実際には不可能だと言えるだろう。

接触追跡アプリの導入を検討している国は、人々の行動や社会基盤の変化を想定しなければならない。中国やシンガポール、韓国などの事例を見れば、感染経路の追跡が重要であることは明白だ。一方で、中国ですらスマートフォンにのみ依存した感染経路の追跡は困難であることも明らかになった。接触追跡には自動化できない要素が多い上、ユーザーのコンプライアンスに対する依存度が極めて高いのだ。

それでも、接触追跡アプリの開発は急ピッチで進んでおり、この1カ月で多くのアプリがリリース目前までこぎつけている。しかし、アプリに過大な期待を寄せる各国政府が直面する課題は明白だ。

アプリが想定以上にインストールされることは考え難く、警報に従う人の割合は少ないだろう。ロックダウンが解除されれば、「感染しているかもしれない」という警報が届いても、自主隔離に従わない人が大半だろう。国民に導入させることの難しさを、各国政府は思い知ることになるはずだ。