2020年のMicrosoftとWindowsは何が変わる?

2020年のMicrosoftとWindowsの話題は豊富だ。

その1つはThe Vergeでトム・ウォーレン氏も「Microsoft has a big year of hardware for 2020」のタイトルの記事で触れているように、Microsoftが製品を発表しながらも、提供が保留されているハードウェアの数々がリリースされるとみられているからだ。

「Surface Neo」と「Surface Duo」はその最たるものだが、その他にも「Surface Earbuds」「Surface Hub 2X」「Xbox Series X」といった予告済み製品に加え、2019年にアップデートがなかった「Surface Book」や「Surface Go」なども含まれる。

特にSurface NeoなどはOEM各社から類似デバイスが同時期に出回ると見られ、そういった部分での話題も盛り上がるだろう。

さて、今回のテーマは「2020年のMicrosoftとWindows」だが、本題はハードウェアではなく、ソフトウェアに注目してみたい。

ダミーアプリの存在が示す2020年の“Windows 10”

2020年は、「Windows 10」が大きく変化する年になる。

Windows 10の最初のバージョン(1507)がリリースされたのは2015年7月だ。本稿執筆時点までに既に4年以上の月日が経過したわけだが、当初予告されていた機能の多くは実装され、ある程度の安定性も確保したことで「もうこれ以上のアップデートには興味ない(したくない)」と考えている人は少なくないかもしれない。

安定して使えている環境をいじることで、かえって不安定になるのは避けたいという心理だ。だが、2020年にWindows 10は大きく環境が変わることになると見込まれている。1つは2020年にリリースされる「Manganese」と呼ばれるWindows 10の最新バージョンではOSコアの仕様が大きく変更されるという。

詳細については、2020年5月後半に米ワシントン州シアトルで開催される「BUILD 2019」カンファレンスで説明される可能性があるが、コア部分のブラッシュアップに加え、「Windows Core OS(WCOS)」と「C-Shell(Composable Shell)」の組み合わせでOSがコアとUIに分離されることになるとみられる。

まだウワサの域を出ない話題ではあるが、その成果の1つとして登場するのが「Windows 10X」であり、同OSは2020年ホリデーシーズンにSurface Neoや同種のOEMデバイスとともに出荷されることになる。正直なところ、2020年に出荷される“純粋なWindows 10”がどれほどWCOSの影響を受けるかわからないが、Windows 10の周辺で大きな変化が感知されつつあるのは確かなようだ。

今、Windows 10周辺でウワサになっているものの1つに、「Windows Feature Experience Pack」というものがある。イタリアでMicrsoftやWindows系の情報発信を行っているAggiornamenti LumiaというアカウントがTwitter上に投稿した画像が次となる。

これについて、MicrosoftやWindows関連の最新事情に詳しいWalkingCatがTwitterでコメントを加えているが、Microsoft Storeでダウンロード可能なこの謎のアプリは、最近になってアイコン画像が「ダウンロード」を模したものに変更されている。

興味深いのは、このWalkingCatが示すリンクを使って当該のアプリの説明ページを開くことはできるものの、Microsoft Storeの検索機能を使ってアプリは発見できない。またアプリをダウンロードしてもすぐに削除が行われる仕組みであり、実際にはまったく機能しない“ダミー”のアプリであることが分かる。

問題のWindows Feature Experience Packについては、ある報道によれば、先日Fast Ring向けに提供が行われた「Build 19536」において、システム設定内に関連の表記があったことを一部ユーザーが報告している。

これは想像の範囲だが、Windows Feature Experience Packとは、Windowsにおける機能拡張をつかさどる「追加パッケージ」のような仕組みを示唆しているのではないかという考えが浮かび上がってくる。

WCOSのアイデアとどの程度リンクしているのかは不明だが、近い将来、おそらく2020年以降のWindows 10はよりモジュラー化が進み、用途に応じてある程度UIを変化させられるのではないかと考える。Windows 10Xはそれが2画面デバイスに拡張されたものであり、“Windows 10”もまたニーズによってユーザー自身が変更を加えられるのではないかというものだ。

WalkingCatは別の投稿でも触れているが、「Core OSとUIの開発チームが分離し、より開発ペースを早くしようとしているではないか」という考えがある。

Microsoftは2019年4月に「Fast Ringには『19H2』ではなく『20H1』のテストを行ってもらう」と方針表明を行っているが、ZDNetのメアリー・ジョー・フォリー氏によれば、これは「Azureに連動する形でOSの“コア”を開発するチームがそのリリースターゲットを2020年に設定しており、Fast Ringにおけるテスターをそちらの検証に割り当てるため」だという。

通常、OSコアの開発は比較的先の世代をにらんでじっくりと開発を進める必要があり、それがManganeseの世代でテスト環境のUIチームとの分離になって表れた。WalkingCatが示唆するのは、こうした開発体制が今後のWindows 10の「モジュラー化」並びに「UI機能の独立したリリース」につながっていくのではないかということだ。

「Microsoft 365 for Consumer」再び

さて、ここで出てくるのが「Microsoft 365 for Consumer」だ。この話題の初出は2018年12月で、その補足的内容が2019年2月に出ている。

簡単にいえば、現在、ビジネスユーザー向けに提供されている「Windows 10+Office 365+EMS(セキュリティと管理機能を提供するサービス)」を組み合わせたサブスクリプションで、Microsoftの生産性スイート製品の集大成とも呼べるもの。現在は、主にEnterprise版とBusiness版で構成されているが、これのConsumer版、つまり一般ユーザー向けのサブスクリプションとなる。

とはいえ、現状で一般ユーザーのほとんどはWindows 10をサブスクリプション形式で利用するようなメリットを感じないだろう。多くは、せいぜいOffice 365を契約する程度で、セキュリティや管理製品にいたっては「不要」とさえ考えているかもしれない。

ゆえに、Microsoft 365 for Consumerは“Microsoft 365”の一般向け製品ではなく、「Office 365のリブランディングされた製品」という意見が聞かれる。ただ、最初にMicrosoft 365 for Consumerの話題が出た時点では「2019年前半にもリリースされる」という話があった一方で、結局関連情報が発表されることは何もなかった。筆者が関係各所に聞く範囲では「一般向けにMicrosoft 365を提供する計画自体はあるものの、その“内容”を巡っては意見が割れており、リリース時期が先送りされている」状況だという。

こうした中、再び「Microsoft 365 for Consumer」の話題が持ち上がっている。前述のメアリー・ジョー・フォリー氏によれば、同製品は「Microsoft 365 Life(M365 Life)」の名称で、内部的な開発コード名は「Alta」、リリースのターゲットは2020年春としている。

一般ユーザー向けのMicrosoft 365提供計画があることは、米Microsoftのエクスペリエンス&デバイス担当エグゼクティブバイスプレジデントのラジェシュ・ジャ-(Rajesh Jha)氏が「Credit Suisse Annual Technology Conference」の中で触れており、内容は不明なものの製品のリリース自体は既定路線にあるようだ。

ジョー・フォリー氏によれば、前述したように一般ユーザー向けのMicrosoft 365は実質的に「Office 365」のリブランディングとなるようで、米国などで提供されているPersonalとHomeの2種類あるエディションの価格や、ライセンス体系がそのまま移管されることになりそうだ。この他、セキュリティ機能として「パスワード管理ツール」などの提供が予定されているという。

これと並行する形で「Teams for Life」という製品の計画もあり、こちらはチャットツール「Microsoft Teams」の一般ユーザー向けと呼べるもの。Teams for LifeがMicrosoft 365 Lifeにバンドルされるかは不明だが、Teamsは元々オープンユースを想定した製品にはなっておらず、仮にリリースされるとすればどのような形態で提供されるのか気になるところだ。

ここから先は多分に推測が含まれるが、本稿の前半で説明したWindows Feature Experience Packという話題が気になってくる。ジョー・フォリー氏の説明を聞く限り、Microsoft 365 Lifeは実質的に単なるOffice 365 Home/Personalのリブランディングであり、機能的に新たにユーザーを引きつける要素は少ない。付加サービスやライセンスが用意されるWindows 10 Enterpriseとも異なり、Windows 10 HomeやProにはあえてサブスクリプションを契約してまで利用するメリットも薄い。

そこで、基本機能にあたる部分をWindows 10 HomeやProとして提供し、その拡張機能をWindows Feature Experience Packとして定期的にMicrosoft 365 Lifeユーザーに提供したらどうか。

「Extras」という機能拡張を、公約通りにほとんど提供できなかった「Windows Vista Ultimate」という黒歴史的な製品があるが、「OSを継続利用するためのライセンスではなく、機能拡張を利用するための仕組み」としてサブスクリプションを契約するなら、「アリ」だという考えもある。いずれにせよ、これら一連の疑問は2020年前半の間にはある程度明らかになっているだろう。

「全ての製品ラインをMicrosoft 365へ」――クラウド化の先

Microsoft 365 for Consumerは、これまでMicrosoft 365で提供されてこなかったユーザーカテゴリーの最後のピースとなるものだが、これはイコールで「全てのユーザーをクラウドへ誘導する」という戦略の終着点になる。

かつてMicrosoftの柱だったWindowsという製品は、同社から事業部そのものが消滅し、Windows OSはMicrosoftが提供するクラウドサービスへとユーザーを誘導する窓口の1つという位置付けになった。重要なのは、さまざまな出入り口を通じてユーザーがMicrosoftのクラウドでつながることであり、それがMicrsoft 365という製品というわけだ。

以前に、「『Microsoft Loves Linux』から考える2020年のWindowsとLinux」のタイトルの記事でも触れたが、以前は「Azure上で実行するインスタンスとしてのLinux」というくくりで注目していたLinuxが、現在では「Linux上でも動作するアプリケーション」にも注力を始めている。

「Windows Subsystem for Linux(WSL)」の機能が強化されたことに加え、より多くのユーザーに“窓口”となる製品を提供することは重要だ。そう考えたMicrosoftは「Visual Studio Code」といったオープンソース製品を筆頭に、重要な製品をLinux上で展開し始めている。

その最新の動きとなるのが「Teams for Linux」で、Teams以外のMicrosoft 365クライアントも順次Linux上に展開されていくことを予告している。

既にモバイルOSプラットフォーム上にクライアントの展開が進んでいることを考えれば、「MicrosoftはもはやWindows(で稼ぐ)の会社ではない」ということを象徴するものになる。ソフトウェアもライセンス販売ではなく、サブスクリプション中心のものへと移行しつつあることを意味している。

Windows 10Xの姿が間もなく見えるか

先日、Windows 10Xの開発者向け事前テストがスタートすることを紹介したが、同OSが比較的早いタイミングで先行登場し、デベロッパーらにアプリ開発を早期から促す準備を整えている様子がうかがえる。

WalkingCatが紹介していたが、2019年12月19日(米国時間)に「Emulated Multi-Screen Display Device」という申請特許が公開されており、折りたたみ可能なデバイス上でのアプリのテストをどのように行うかのエミュレーターの概要が紹介されている。

スクリーンの状態や角度などをスライドバーで変更できる仕組みで、実デバイスがなくてもいろいろ挙動を観察することが可能だ。実デバイスが登場するのは2020年末なわけで、開発環境が出そろうとみられる2020年春の段階ではソフトウェア上のみでの検証を余儀なくされる。いずれにせよ、2020年は“Windows 10”1つをとっても話題が盛りだくさんだ。