第10世代Coreの超小型PC「OneMix3 Pro」をねちっこく触ってみた

「OneMix3 Pro」は、超小型PC「OneMix」シリーズを開発する中国のOne-Notebook Technologyの最新モデルだ。既報の通り、11月21日に日本市場出荷を発表し、12月14日から順次出荷を始めている。

価格は税別12万8000円で、直販のOne-Notebookストアやヨドバシ・ドット・コム、ビックカメラ.com、Amazon.co.jpといったWebサイトで扱う。11月21日には日本国内の販売代理店となるテックワンが発表会を開催し、製品の特徴やスペックを明らかにした。

本記事では、4コア8スレッドで動作する実機を使って測定した処理能力や、ディスプレイの視認性、キーボードとポインティングデバイスの使い勝手を中心に、7型ディスプレイの「OneMix2S」や、8型とほぼ同じサイズのディスプレイを搭載する「MiniBook」、そして、同じ8.4型ディスプレイを搭載する「OneMix3」と比較しつつ、OneMix3 Proの“存在意義”を考察する。

同じ8.4型ディスプレイを搭載する従来モデルの「OneMix3」については、PC USERでも既に5月にこちらの記事で外観と本体のインタフェース、そして、キーボードレイアウトを解説している。

約204(幅)×129(奥行き)×14.9(厚さ)mmというOneMix3 Proのボディーサイズは、OneMix3と共通で、8.4型のディスプレイサイズと2560×1600ピクセル(358ppi)の画面解像度も同様だ。本体の重さは約659gで、これはSurface Go本体の約522gより重いが、Surface Pro 7の約775gよりは軽い。

OneMix3 Proは、ディスプレイを360度開くとタブレットのように使える2in1 PCでもあるが、本体の厚さが14.9mmと薄いこともあってタブレットとしても使いやすい。

なお、OneMix2Sと比べると本体の厚さは17mmから薄くなったものの、重量は約515gから重くなっている。ただ、実際にタブレットスタイルで持ってみると、約2.1mmながら薄くなったことで本体が持ちやすくなり、使い勝手はよくなったように感じた。

一方で、2048段階の筆圧検知に対応したスタイラスペンを収納するスペースはOneMix3 Proでも用意されていない(スタイラスペンは別売で税別2800円)。

英語キーボードから日本語キーボードになって何が変わった?

OneMix2Sのボディーサイズは約182(幅)×110(奥行き)×17(厚さ)mmで、OneMix3 Proは8.4型ディスプレイの搭載に伴って一回り大きくなり、キーボードも大きくなった。キーピッチもOneMix2Sの約16mmから18.2mmへと広がっている。

MiniBookの約19mmと比べるとわずかに狭いが、キー入力は5本指を使っても狭苦しく感じない。キーストロークは実測で約1mm程度だが、それでも十分に押し込んだ感触はあり、押し込んだ指をしっかりと支えてくれるので、キー入力は快適に続けられる。

評価に使った日本市場向けのOneMix3 Proは、日本語キーボードを採用しているので「半角/全角、漢字」など専用のキーが必要になる。しかし、キーの数は英語版と変わらない。そのため、キー配置を変更することで日本語キーボードとしている。

例えば、「半角/全角、漢字」は英語版で「音量減」の場所に配置し、音量調整機能はカーソルキーの「←」「→」にそれぞれ割り当てた。また、英語版で「Enter」キーの上にある「Del」キーを最上段の右寄りに移し、Delキーのあった場所には使用頻度の高い「@」キーを置くなど、できる限り日本語キーボードに近い配列を維持している。

また、OneMix2Sで最上段最右端という誤爆しやすい場所にあった電源ボタンは一つ左に移り、最上段最右端には指紋センサーを設けた。少なくとも今回の評価作業において誤爆することがなくなった(それでも、Delキーの右隣り、0キーの上にあるのでユーザーによっては誤爆する可能性は高い)。

OneMix2Sにおいて、1つのキートップを分割していた「CapsLockキーとAキー」「,<」「.>」「/?」キーだが、本製品では「,<」「.>」「/?」がそれぞれキートップを分離することで打ちやすくなった。

ただし、「CapsLockキーとAキー」ではCapsLockキーの代わりにTabキーが置き換わっただけで、分割タイプのままだ。しかも、Tabキーとなったおかげで誤爆したときの影響はより大きくなっている(Windowsではフォーカスが隣のモジュールが変わってしまう、など)。

キーピッチが広くなり、そしてタイプの感触が良好なおかげで、アルファベットキーを使う分にはOneMix2Sと比べてかなり快適に入力できるようになった。

しかし、一方で先ほどの「TabキーとAキー」のように、かえって状況が悪くなっている配置もある。その典型的な例が「-=」キーだ。OneMix2Sでも通常の配列とは異なる1つ上の段に移ったために違和感があったが、それでも右寄り(正しくは右から数えて3番目)にあったおかげで、少し意識(指をぐっと伸ばすだけ)すれば入力は比較的しやすかった。

その点、OneMix3 Proの「-=」キーは最上段の右から数えて(指紋センサーを含む)6番目、キーボードのほぼ中央に位置している。そのため、明らかに意識して、かつ、手の動きも変えていかないとタイプするのが難しい。

特に文章入力において使用頻度が高い「-」(長音)が出るたびに手に意識が向かってしまい、文章を入力するリズムが乱れてしまう、もしくは、止まってしまう。これは、文章作成作業において大きな支障となった。加えて、「[{」キーと「]}」キーも最上段の左側寄りに移っている。こちらも、文章入力では使用頻度が高く、そのたびに文章入力作業のリズムが乱れてしまう。最上段に逃がさなければならないのは何とか理解するとして、使用頻度の低い「^~」「\_」キーと入れ替えるだけでだいぶ改善すると思われる。

なお、「かな」入力においては、一部のかなで従来の日本語キーボードと異なる場所に移っている。特に従来下段にある「む」「ろ」が最上段にあるので、このあたりでストレスを感じるユーザーは少なくないだろう。

ポインティングデバイスは、OmeMix2Sと同じ光学式センサーを使っているが、設置場所が「B」「N」「スペースキー」の中央からスペースキーの下中央に移った。そのおかげで、OneMix2Sであった「日本語を変換しようとしてスペースキーを入力しようとしたらポインティングデバイスを誤爆」ということがなくなっている。

光学式センサーの追従性も良好で、カーソルの操作には不自由を感じない。ただ、クリックボタンとの連携がいまひとつ良好とはいえず、ドラック&ドロップの操作中にうまく反応しないで事故、というケースが少なからずあった。

タッチ操作に対応した8.4型液晶ディスプレイを搭載

液晶ディスプレイのサイズは8.4型ながら、画面解像度は2560×1600ピクセルと高い。そのため、表示ズーム設定は推奨250%となっている。この状態だと、ChromeでPC USERのトップページを表示した場合、PREMIUM TOPICSの1記事目のタイトルまで表示できる。秀丸なら初期設定状態で41行まで表示できる。この状態でフォントサイズ(「あ」を実測)は約2mmだった。

試しに表示ズーム設定を200%にすると、PC USERのトップページは2番目のタイトルまで表示でき、秀丸では51行まで表示できる。フォントサイズは約1.5mmだった。175%では三番目の記事のタイトルまで、そして秀丸では61行まで、フォントサイズは約1mmだ。このあたりが実用上の限界と感じた。150%表示も文字が読めなくはないが長時間はキツイ。

パフォーマンスはどう変わる? その代償は?

実を言うと、ここまでは、5月に記事を掲載したOneMix3と共通する。OneMix3 Proになって大きく変わったのが、搭載するCPUがIntel最新の第10世代Coreプロセッサ(開発コード名:Amber Lake-Y)になったことだ(16GBのメモリや512Bのストレージは変わらず)。

新たに4コア8スレッドで動作するCore i5 i5-10210Y(1.0GHz~4.0GHz)となり、従来のOneMix3Sが採用していた2コア4スレッドのCore m3-8100Y(1.1GHz~3.4GHz)よりも高速処理が可能になった。

その処理能力を、ベンチマークテストで測定した。以下では、従来モデルで高い性能を備えたOneMix2S Platinum Edition(メモリは8GB)の第8世代Core i7-8500Y(2コア4スレッド、1.5GHz~4.2GHz、TDP 5W)と比べている。

11月に行われた発表会では、CPUとして採用したCore i5 i5-10210YのTDPが7W(従来モデルのCore m3-8100Yは5W)で、その熱対策に苦労したとの発言があった。そこで、ベンチマークテスト(PCMark 10)動作時におけるファンの風切り音の音量とキーボード面における表面温度も測定したところ、風切り音は最大で52.3dBA(暗騒音38dBA)、キーボード表面温度は最も高い場所(「Del」キートップ)で44.2度、底面ではヒンジに近い部分で50.6度に達した。主観的な印象としてファンの音はかなり大きく感じ、静かな図書館で使うのをちょっとはばかられるレベルだ。

本体には容量3.7V 8600mAhのバッテリーを内蔵する。BBench 1.0.1で電源プランをパフォーマンス寄りのバランスに、ディスプレイ輝度を10段階で下から6レベル目にそれぞれ設定して測定したところ、バッテリー残量3%になるまで7時間34分18秒かかった。

7型から8型クラスへ広がる超小型PCの選択肢

2020年を目前に控え、これまでは「超小型PCは7型ディスプレイが主流」という印象だったが、QWERTYキーボードを採用したデバイスとして、その使い勝手を重視するならば、8型級のディスプレイを搭載してでもキーピッチを広げた方がいい結果となるのはOneMix3 Proでも確認できた。着実に、超小型PCの選択肢が広がっている。

ただ一方で、処理能力を上げるためにTDPの高いCPUを搭載すると、発生する音の大きさも表面温度も高くなってしまうのが現状だ。特に風切り音の大きさは使うところを選んでしまうことになるので「どこでも気軽に使える超小型PC」のメリットをスポイルしてしまう。

キーボードの使い勝手、特にタイプをしているときの快適度はOneMix2Sと比べて明らかに改善しているが、それだけに「-」キー(そしてできることなら「[{」「]}」キーも)の配置が気になってしまう。

13.3型ディスプレイを搭載するモバイルPCと同程度の処理能力を必要としていて、文章入力はそれほど重視していないなら、超小型PCのOneMix3 Proはいいデバイスになるはずだ。「超小型PCでいつでもどこでもアイデアを書き留めたい」「文章を書きつづりたい」というユーザーは、じっくりと検討してから購入するか否かを決断するのがいいのかもしれない。

なお、原稿執筆時でOneMix3 ProのOne-Notebookストア価格は税別11万6999円だった。一部の量販店店頭で実機が展示されているので、気になる人はぜひ実機を手にしてほしい。