Arm版Windows搭載「Surface Pro X」をレビュー

米Microsoftが10月2日に「Surface Pro X」を発表した。その最大の特徴は、SoCにPCでは一般的なx86アーキテクチャではなく、Armアーキテクチャの「Microsoft SQ1」を搭載していることだ。

今回筆者は米国版を購入して、米国にいる間に使ってみたのでその使用感について、前後編でお伝えしていきたい。前編となる今回はSurface Pro Xのハードウェアとしての概要を、後編ではSurface Pro Xのソフトウェアの互換性やベンチマーク結果などについて紹介する。

なお、米国版Surface Pro Xは、日本で無線機能を利用するために必要な「特定無線設備の技術基準適合証明等のマーク(いわゆる技適マーク)」はついておらず、旅行者が外国から機器を持ち込んでから90日間は技適マークがなくても合法に利用できる例外期間を別にすれば、日本では無線をオンにした状態では利用できない。

このため、米国で機内モードにした上で国内に持ち込み、国内では無線をオフにしたままで利用していることをあらかじめお断わりしておく。

Windows RTとはまったく異なるArm版Windows

一般的なWindows PCには、IntelとAMDがのx86アーキテクチャ(64bitのx64=AMD64、Intel64を含む、以下同)のCPUが内蔵されている。最近は、IntelもAMDもCPUだけでなく、GPUやチップセットも含めてワンチップのSoCで提供することが一般的で、ほとんどのPCはx86ベースだろう。

それに対して、スマートフォンについてはよっぽど古いものでないかぎり、ArmアーキテクチャのCPUを載せたSoCがベースになっている。iPhoneであろうが、Androidであろうが、現在販売されているスマートフォンはほぼ100%がArmアーキテクチャベースだ。

Armアーキテクチャは、現在はソフトバンクグループの子会社となる英国のArmが開発し、半導体メーカーなどにライセンスなどのかたちで供与している命令セットだ。早くからモバイルにフォーカスした設計にしていたこともあり、スマートフォン時代になってx86やMIPSなどのほかの命令セットを駆逐するかたちで市場を独占している状況だ。

そのArmのスマートフォン向けSoCでトップシェアなのが、米国のサンディエゴに本社をかまえるQualcommだ(正確には半導体を提供しているのは子会社のQualcomm Technologiesなのだが、本記事では両者を合わせてQualcommとする)。

Qualcommは元々は、携帯電話回線のモデム製造を源流としており、3Gで使われていたCDMAなどの技術を開発し、そのライセンスを通信キャリアや端末メーカーなどに提供するというライセンスビジネスとの二本立てで会社を成長させてきた。

近年ではそうしたライセンスビジネスから、コンピューティング機能を持つ半導体「Snapdragon」を提供するビジネスにも力を入れている。同社の強みは、通信向けのチップセットベンダーとしての長い経験を活かして、通信電話回線用モデムを自社のSoCに統合し、べつべつに搭載するのに比べると少ない消費電力、少ない実装コストでLTEや5Gといった最新のデータ通信機能を実装できることだ。

そうしたArm CPUやLTEモデムが標準搭載されているSnapdragonシリーズの特徴に目をつけたMicrosoftがはじめた取り組みが、「Windows 10 on Arm(WoA)」や「Windows 10 on Snapdragon(WoS)」などと呼ばれる、Snapdragon向けのArm版Windows 10だ。

Arm版Windowsという枠で見ると、その取り組みははじめてではない。Windows 8が登場したタイミングでMicrosoftはWindows RTというバージョンで一度挑戦している。しかし、大きく成功することなく、静かにフェードアウトすることになった。

というのも、Windows RTでは、端的に言えばアプリがなかったからだ。Windows RTでは一般的なWindowsアプリはx86向けだけに作られているので動かせなかったほか、現在はUWP(Universal Windows Platform)で呼ばれているストア経由でダウンロードするアプリしか動かなかった。

いまでもUWPのアプリは決して充実しているという状況ではないのに、登場した当時はさらに何もなく、ユーザーはほとんど何もできないとしか言えない状況になっていたのだ。

では、Windows 10でのWoA/WoSは大きく違う。最大の違いは「x86エミュレータ」が搭載されていることだ。

具体的には、x86アーキテクチャ向けに書かれているアプリを、動的にArm命令に変換しながら動作する仕組みが搭載されている。これにより、既存のWindowsアプリの多くをWoA/WoS上で実行できる。

なおかつ重要なことは、アプリはx86を変換しながら動くが、OS側はArmネイティブで書かれているため、従来のエミュレーションに比べると高い性能でアプリを実行可能な点だ。

このため、多くのユーザーにとってはいま使っているWindowsアプリをそのまま利用可能で、そこにSnapdragonシリーズの特徴である、低消費電力でインターネットへの常時接続を実現している特徴を享受できる。これがWindowsでSnapdragonを選択するメリットと言える。

SoCにArmアーキテクチャのMicrosoft SQ1を採用

米国で販売されているSurface Pro Xにはメモリとストレージの違いで4つのモデルが用意されている。

(1)メモリ8GB、ストレージ128GB、価格999ドル

(2)メモリ8GB、ストレージ256GB、価格1,299ドル

(3)メモリ16GB、ストレージ256GB、価格1,499ドル

(4)メモリ16GB、ストレージ512GB、価格1,799ドル

メモリ、ストレージ以外のスペックは同一で、SoC、ディスプレイなどに関しては同等だ。なお、この価格には別売のタイプカバーキーボードは含まれていない。キーボードは2種類あり、ペンが付属しない「Surface Pro X Keyboard(139ドル)」と、ペンつきの「Surface Pro X Signature Keyboard with Slim Pen Bundle(269.99ドル)」がある。

PCとして使うならキーボードは必須と言えるので、価格はこのキーボード分を上乗せして考えるべきだ。今回筆者が購入したのは(1)構成とSurface Pro X Signature Keyboard with Slim Pen Bundleとなる。

SoCのMicrosoft SQ1は、Microsoftの関係者によれば、Snapdragon 8cxをベースにしてCPUやGPUを強化した製品となる。たとえばCPUコアはSnapdragon 8cxは最高で2.75GHzまでのクロック周波数で動作するが、SQ1は最高クロックが3GHzに設定されている。

もちろんこの最高クロックは、Intelで言うところのTurbo Boost時の最高クロックとなるため、つねにこの状態で動き続けるわけではないが、本体の温度に余裕があれば3GHzで動くので、全体的な性能が向上している。

GPUに関しても、おそらく同じような仕組みで性能が引き上げられていると思われ、SQ1はSnapdragon 8cxの高速版と考えておいて問題ないだろう。

メモリは8GBと16GB。従来のOEMメーカーが発売していたSnapdragon搭載PCはメモリが4GBだったり、最大8GBだったりするモデルがほとんどで16GBは皆無だった。これはうれしいところだ。

ストレージに関しては256GBまたは512GBを用意。Surface Pro 7などで選べる1TB SSDがないのは残念なところだ。

従来のSurface Proシリーズに比べて良いところは、SIMカードスロットがある裏蓋の箇所に、SSDモジュールが装着されており、物理的にSSDにアクセスできることだ(トルクスネジで止まっているのでそれ用のドライバーが必要)。これを取り外すと保証の対象外になるため、決してユーザーが交換して良いものではない。

しかし、保証が切れたあとで、ユーザーが自分で修理したいと思った場合、従来であれば両面テープで取りつけられている外装をかなり慎重に取り外さなければ交換できなかったのに対して、Surface Pro Xはより容易に交換できる。この点は保証期間終了後のSSD故障時の交換やアップグレードが容易になるとして歓迎したい。

とはいえ、使われているSSDは、一般的なノートPCに使われている2280サイズのM.2ではなく、2230サイズのM.2 NVMe SSDとなっている。同SSDは昨年(2018年)頃からフラッシュメモリメーカーからOEMメーカーに対して供給開始しており、ものがないというわけではないが、2280のように自作PC市場向けには流通していない。

メーカーによっては1TBなどの大容量をラインナップしている場合があり、筆者もいろいろ検索してみたが、米国で交換部品としてOEMメーカーの型番がついたものが見つかった程度で、入手性ははっきり言ってよくない。Surface Pro Xの保証が切れるころの1年後には、入手性が改善される可能性はあるが、この点は購入時には考慮しておく必要があるだろう。

ディスプレイは13型の2,880×1,920ドットというアスペクト比3:2の液晶だ。最大の特徴は輝度が450cd/平方mになっていることで、実物を見ると“明るい”という感想を持つ。

筆者個人としては通常は400cd/平方mの4K UHD(3,820×2,160ドット)のディスプレイで使っているので、スペック的にはそんなに変わらないはずだが、50cd/平方mの差は思ったより大きく、最大輝度にすると、とにかく明るく見える。

ポート類はシンプルで、左側に2基のUSB Type-C、右側にSurface Connectと呼ばれるドッキングステーション用端子 兼 ACアダプタ端子の3基だけで、オーディオ端子なども用意されていない。

付属しているACアダプタはSurfaceコネクタ用の65Wだが、USB Type-CはUSB PD(Power Delivery)にも対応しているので市販のUSB PDのACアダプタも利用可能だ。

ただ、Surface ConnectのACアダプタを利用していると、充電中はACアダプタ側にインジケータがつくようになっているため充電できているかわかるが、市販のUSB PDのACアダプタの場合は本体側にインジケータなどがないため、Windowsのタスクトレイで確認しないといけない。モバイル環境で専用のACアダプタを持ち歩くのはもはや考えられないので、若干不便に感じるところだ。

モデムはSnapdragon X24 LTE modem、eSIMの機能が用意されており海外でSIMを入れ替える必要はない

すでに述べたとおり、SnapdragonベースのSQ1を搭載したArm版Windowsデバイスの特徴は、x86アーキテクチャベースのPCに比べて低消費電力で、かつインターネットへの常時接続を実現していることだ。

この常時接続を実現するには、携帯電話回線に接続できるセルラーモデムと、モダンスタンバイ(従来Connected Standbyと呼ばれていた待機時にCPUなどをディープリープモードに移行させつつ、ネットワーク側からのプッシュ通知や着信などに対応する機能のこと)という2つの機能が実装されている必要がある。

IntelやAMDのプラットフォームではそのどちらも「オプション扱い」になっているが、Qualcommのプラットフォームではどちらも必須機能と定義されている。そのため、どのPC向けのSnapdragon(現行製品の8cxやSQ1、従来の850や835、そして先日発表された8c、7c)であってもLTEモデム(今後は5Gになる場合がある)が搭載され、モダンスタンバイが実装されている。

PCをスマートフォンのように使える、それがSurface Pro Xの大きな特徴だと言えるだろう(なお、Intel/AMDプラットフォームでも、2つの機能を実装していれば同じように使うことができるが、現在は一部の製品にかぎられている)。

そのLTEモデムだが、SQ1に内蔵されている「Snapdragon X24 LTE modem」が利用されている。SQ1およびSnapdragon 8cxにはこのモデムがダイレベルで統合されており、OEMメーカーは追加投資なく(厳密に言えば無線周りの回路やアンテナは必要だが)、LTEの機能を実装できる。

このSnapdragon X24 LTE modemは、スマートフォンで一般的に利用されているSnapdragonのモデムなので、通信キャリアとの互換性認証(IOT)なども通っており、互換性の心配をしなくてよい。

また、Qualcommは自社のモデムに対して、RFやRFフロントエンドと呼ばれる無線周りの設計データやチップなども合わせて提供しており、幅広い帯域に対応していることも特記できる。

PC用のLTEモデムはやや世代が古いものが採用されていることが少なくないが、Snapdragon X24 LTE modemはLTE用モデムとしては最新のモデムであり、多くのバンドに対応している。

対応しているLTEバンドは、1/2/3/4/5/7/8/12/13/14/19/20/25/26/28/29/30/38/39/40/41/46/66となっており、日本の通信キャリアで言えば、KDDIとソフトバンクのバンド11(1.5GHz)、NTTドコモのバンド21(1.5GHz)に対応していないぐらいで、多くの国内のLTEバンドをサポートしている。

なお、1月に発売される予定のSurface Pro X国内版のスペックシートでも同様のLTEバンドに対応とされている。

SIMカードは、物理的なNano SIMカードと、eSIMを利用できる。eSIMは最新のiPhoneなどでも採用されている仕組みで、物理的なSIMがなくとも、ソフトウェアにより契約情報を仮想的なSIMカードに書き込むことで、データ通信を可能にする仕組みだ。

日本の大手3キャリアはまだeSIMのサービスを開始していないが、IIJがiPhoneや従来のSurface ProやSurface Go向けに提供している。すでに述べたとおり、米国版のSurface Pro Xは日本の技適マークがついていないため、日本に持ち込んで利用する場合にはその旅行者の持ち物として持ち込んでから90日以内という例外規定を利用するか、電波はオフにして利用する必要がある。この記事を書いている時点で、筆者が日本にこのデバイスを持ち込んでから90日以内であるため、セルラー通信をするのは合法ではあるのだが、法の精神を尊重して日本の通信キャリアでの実験は行なっていない。

なお、筆者は12月にハワイ州に出張に行っており、そのときに現地でeSIMを使って現地でデータ通信の契約してみた。

やり方としては、まず携帯電話回線をオンにして、Wi-Fiによりインターネットに接続できる状態でWindowsのタスクトレイからネットワークのアイコンをクリックすると表示される携帯ネットワークの「データ通信プランで接続」というボタンを押す。

すると「モバイル通信プラン」というアプリが起動し、そのリージョンで契約可能な通信キャリアが表示される。今回のハワイではau、GigSky、Ubigiという3つのキャリアが表示された。このうちauは表示されるが、あるところよりも先に進まなかったのであきらめて、Ubigiを選んだ。

UbigiはフランスのMVNE/IoTモバイル通信事業者Transatelが提供しているeSIMサービス。Transatelは今年(2019年)に入りNTTのグループ会社である「NTT コミュニケーションズ株式会社」が買収しており、間接的に日本企業とも言える通信事業者だ。

「モバイル通信プラン」アプリからUbigiの契約を進めていくと、まずはeSIMのプロファイルがインストールされ(物理的なSIMをSIMカードスロットに入れるような作業がソフトウェア的に行なわれる)、ついでUbigiのアカウントを作成し、アカウント作成後データプランを契約する。

一度だけのデータプラン(たとえば1日だけ)も契約できるし、自動更新のデータプランも契約可能。たとえば、毎月特定の国に行く人は後者を選べば良いし、そうではなくて年に何回かしか行かないのであれば前者を選べばいいだろう。あとはクレジットカードなどを利用して決済すればすべて完了だ。

インストールしたeSIMのプロファイルはWindowsの設定ツールを利用して管理できるし、プロファイルは1つだけでなく複数のプロファイルをインストールできる。行く国によってサービスプロバイダを替えるという使い方も可能になる。

日本では物理SIMを利用して、外国に行ったときだけeSIMに切り替えて利用すれば、物理SIMを抜き差しする必要はなくなるので、利便性は高い。筆者のように、ビジネスで海外に渡航する機会が多いユーザーには便利な機能と言えそうだ。

新しいMPPペンはレイテンシが改善され、書き味がSurface市場最高に

Surface Pro Xには2種類のタイプカバーキーボードがあるのは前述のとおりで、ペンが付属しない「Surface Pro X Keyboard(139ドル)」と、ペンつきの「Surface Pro X Signature Keyboard with Slim Pen Bundle(269.99ドル)」の2つがオプションとして販売されている。

ほかのSurface ProやSurface Goではペンとキーボードはそれぞれ別売りになっているのに、Surface Pro Xではペンがキーボードとセットで販売されているのは、ペンがキーボードに収納できるようになっているからだ。なお、本体重量はカタログ値で774gだが、本体+Surface Pro X Signature Keyboard with Slim Pen Bundleでの実測値で重量は1,073gとなっている。

ペンはタイプカバーキーボードが折れ曲がってマグネットで本体で吸着する部分に格納される。このため、キーボードを使う状態ではペンが見えないようになっているだけでなく、持ち運び時には完全にディスプレイとキーボードの間に入るため、鞄のなかで外れたりという心配がない。

なお、ペンをキーボードに格納しておくと、充電も自動で行なわれる。筆者はいろいろなデジタルペン対応PCを使っているが、ここまでスマートに格納して運べる製品ははじめてだ。

ペンは従来のSurface Pro/Goシリーズなどで利用されていたMPP(Microsoft Pen Protocol)ペンの最新版となる。MPPペンは、いわゆる静電容量方式のデジタイザを採用しており、バッテリが内蔵されているペンが静電気を発生させることでデジタイザがその動きを検知する仕組みとなっている。

Surface Pro Xに採用されているMPPペンはスペック的には筆圧検知が4,096段階で、傾き検知つきとなっているが、従来のペンに比べてレイテンシ(応答速度)が改善されていることが大きな特徴となる。

このため、実際にペンで書いてみると、Surface Goなどよりもすっと文字が入っていく印象だ。すでにSurface Goのペンも従来のMPPペンなどに比べると大きく改善されていたが、Surface Pro Xではそこからさらに改善されている印象だ。Surface史上最高だし、筆者が普段使っているiPad Pro 11の第2世代Apple Pencilよりも書きやすいと感じるほどだ。

キーボードに関しては、タッチカバーキーボードという構造上の弱点があり、パンパンと小気味よく入力していると、ややぐらぐらする印象は否めない。しかし、それはクラムシェル型ノートPCと比較してという話であり、従来のSurface ProやSurface Goと同じ程度のぐらぐら感と表現すればいいだろうか。

クラムシェル型ノートPCになれているユーザーだとそう感じるだろうが、これまですでにSurfaceシリーズのタイプカバーキーボードに慣れているユーザーであればとくに不満を感じたりはしないだろう。

タッチパッドは現代のPCとしては決して大きいほうではないが、タッチ操作も可能なディスプレイを持っているということもあってとくに大きな不満は感じないだろう。もちろんPrecisionタッチパッドになっている。

欲を言えば、タイプカバーキーボードには指紋認証がついているとさらにうれしかった。本体側にはIRカメラが用意されており、それを利用してWindows Helloの顔認証が利用可能だが、晴天下や真っ暗なところなどでは顔認証がうまくいかない場合があるからだ。

そのため、もう1つオプションでキーボード+ペン+指紋認証というキーボードも出してもらえるとうれしい。まぁこれは普段そういうPCを使っている筆者だけのニーズかもしれない。一般のユーザーであれば顔認証だけ事足りるだろう。

以上、今回はSurface Pro Xのおもにハードウェアを中心に、その特徴や使い勝手などを紹介してきた。後半となる次回は、ソフトウェアの互換性やベンチマーク結果などについて紹介する。