Chromium EdgeとWindows on ARMの最新情報を整理する

米Microsoftが2018年12月に同社Edgeブラウザのエンジンを従来の「EdgeHTML」から「Chromium(Blink)」ベースのものへと変更することを発表してから1年が経過しようとしている。夏には従来の「Canary」と「Dev」に加えてβ版の提供も開始され、対応プラットフォームも当初のWindows版とmacOS版に加え、新たにLinux版が加わろうとしている(この他にAndroid版とiOS版も)。

シェル化するChromium Edge

そんなChromium Edgeだが、先日にはついに製品版の提供が2020年1月15日となることが予告された。11月中旬に米フロリダ州オーランドで開催されたIgniteカンファレンスで正式発表されたものだが、同日にはロゴデザインも従来の「e」を模したものから貝殻状の新デザインが発表されており、心機一転全力でアピールする意気込みを感じる。

筆者が「貝殻(Shell)」と感じたのは、次世代の“Edge”が単なるWebブラウザではなく、PWA(Progressive Web Apps)を含むアプリの実行プラットフォームであり、従来のスタート画面やデスクトップ画面の代わりとして「Launcher」となるWindows 10Xのように、どちらかといえば「シェル(Shell)」の位置付けに近いからかもしれない。

このリリーススケジュールでいけば、Windows 10の標準ブラウザとして従来のEdgeがChromium Edgeとなるのは、「20H1」こと「Window 10(バージョン2004)」ということになる。

The Vergeのトム/ウォーレン氏によれば、この1月15日のリリースで当初ターゲットとなるのは、エンタープライズなど企業向けユーザーであり、一般ユーザーには2020年春の後半ごろの時期を目指していると、米Microsoftのユスフ・メディ氏のコメントを紹介している。

Internet Explorerモードなど、互換性問題を解決する機能を多く含んだ新バージョンを広く企業ユーザーに試してもらい、実際にOS更新が始まる2020年後半から2021年にかけての時期に向けたテストを実施してほしいという意図があるのだろう。

Chromium Edge on Armが走り出す

Windows 10は、Chromium Edgeが動作する主要プラットフォームではあるが、Windows 10が動作する3種類のプラットフォーム(x64、x86、Arm)を全て包含した話ではない。例えば11月7日から米国での販売がスタートしたArm(Snapdragon)ベースの「Surface Pro X」だが、先日デモ機で確認した際にはOSバージョンは「1903」であり、標準搭載されているブラウザももちろん従来のEdgeのままだった。

つまり、Surface Pro Xを含むWindows on SnapdragonデバイスでChromium Edgeを試すには、従来であればx86エミュレーションのような仕組みが必要だったわけだが、11月13日(米国時間)になり「Chromium Edge on Arm」のCanary版の提供が開始されたことをMicrosoft Edge Devの公式アカウントがTwitterで報告しており、Dev版とβ版の提供も間もなく開始されるという。

これは非常に大きな進歩だ。Arm64のようなネイティブアプリの動作環境は、特に動作パフォーマンスを言い立てるChromium Edgeでは大きなアピールポイントになる。ただ、時期的には前述の1月15日というIntel/AMDプラットフォーム向け製品版のリリーススケジュールには間に合わないと思われ、現状で「20H1に乗るか微妙なライン」といったところだろう。現時点でMicrosoftはArm版のリリース計画について詳細を語っていないため、もうしばらく公式発表を待つしかない。

x64アプリケーションのArmエミュレーション

おそらく、Windows on Snapdragonで2020年以降に話題になりそうなのが「x64アプリケーションのArmエミュレーション」だ。Neowinが11月13日(米国時間)に報じているが、Microsoftは現在64bitで動作するIntelプラットフォーム向けに記述されたアプリケーションを、Arm64環境でエミュレーション動作させるための仕組みを開発中という。

Microsoftは、以前にパフォーマンスやバッテリー駆動時間の問題からその可能性を否定していたが、これが事実なら「機が熟した」と考えたのかもしれない。

現在は、32bit動作のいわゆるx86アプリケーションのみをArmプラットフォーム上でエミュレーション動作させることが可能で、x64ベースのAdobe系アプリケーションや、ゲーム系のアプリケーションなどは全て対象外となっている。

x86エミュレーションのみでも互換性維持には十分ではあるが、やはりx64で動作する最新アプリケーションが利用できないデメリットはある。Microsoftでは「Armネイティブアプリ」を開発するようアプリ開発者らにアピールを続けているが、同社が最近プッシュしているArmプラットフォームのテコ入れにあたってx64エミュレーションは重要だと考えた可能性がある。

ただしNeowinによれば、実際にこの機構が組み込まれるのは早くて2021年前半にリリースされる「21H1」のバージョンを待たねばならず、2020年いっぱいをかけてテストが実施されることになるという。

2019年も、12月3日~5日の日程で米ハワイ州マウイ島においてQualcomm主催の「Snapdragon Tech Summit 2019」が開催される。このイベントはWindows on Snapdragonが最初に発表された場所でもあり、毎年何らかの同プラットフォームに関する最新アップデートが発表されている。

今回話題になったChromium Edge関連の発表が行われた場所もここだ。ゆえに、もしNeowinの話が事実であれば、その発表は間もなく同サミットで行われることになる。Qualcommとの協業で独自SoCまでリリースしたMicrosoftが、どのような最新発表を持ち込むかに注目したい。