Windows 10 2020年春の機能アップデート開発進捗まとめ

2019年11月12日に、2019年の秋の機能アップデート「Windows 10 November 2019 Update(バージョン1909)」(以下、November 2019 Update)が公開された。また、Windows Insider Programで2020年春の機能アップデート「20H1」を配布していた「スキップ(Skip ahead)」が閉鎖され、同アップデートの配布は「ファスト(Fast)」「スロー(Slow)」「Release Preview(リリースプレビュー)」の3つのリング(Ring)に移ることが発表されている。

November 2019 Updateの提供が控えていたためか、2019年11月の20H1の開発は少々停滞気味であった。11月中に提供されたビルドでは、Windows Search Indexerの改良、WSL 2のメモリ管理機能の改良などが大きな変更点であった。オープンソースとして公開されているPowerToysはRelease v0.13.0となり、バグも減り、ある程度実用に耐えられる状態になった。

以下、Windows 10の機能アップデート「November 2019 Update」と「20H1」の10月末から11月中旬にかけての開発状況をまとめておく。

Windows 10 November 2019 Updateの一般向け配布開始

リリースされたNovember 2019 Updateの特長といえば、アップデートに掛かる時間の短さが挙げられる。現行のWindows 10 May 2019 Update(バージョン1903)がインストールされており、累積更新プログラムが全て適用されている場合、November 2019 Updateへのアップデートは数分で終了し、これまでの機能アップデートのように長時間インストール作業が行われない。November 2019 Updateへのアップデート方法については、Tech TIPS「最新のWindows 10 November 2019 Updateを手動でインストールする」を参照してほしい。

ただし、短時間でアップデートできるのは、May 2019 Updateからのアップデートを行う場合のみで、October 2018 Update(バージョン1809)以前の場合には、これまでの機能アップデートと同じく、フルアップデートが行われるため、ハードウェア性能に応じた時間が必要になる。

May 2019 UpdateからNovember 2019 Updateのアップデートが極めて短時間で終わるのは、11月12日から配布になった機能アップデートに含まれるファイルは、過去の品質アップデート(累積更新プログラム)で段階的にインストールされていたからだ。

実は、May 2019 Update用の品質アップデートに含まれていたNovember 2019 Updateの機能は、実装されていたものの、Microsoftの表現によれば「休眠状態」となっていた。May 2019 Updateでは、May 2019 Update用の機能だけが「発現」している。そして、May 2019 Updateに対するNovember 2019 Update用の機能アップデートは、この休眠状態を解除し、Windows 10をNovember 2019 Updateとして動作させるための「enablement」パッケージになっていた。これを「適用」すると、May 2019 UpdateはNovember 2019 Updateとして動作し始め、WinVer.exeのバージョン表示なども切り替わる。

そもそもNovember 2019 Updateは、May 2019 Updateのマイナーバージョンアップで、変更点はそれほど多くない。Microsoftによれば、休眠中のNovember 2019 Update用ファイルが外部記憶内で占有する記憶容量は、25MB程度でしかないらしい。

それでは、May 2019 Updateの品質アップデートおよびNovember 2019 Updateのプレビュー版の履歴を見てみることにしよう。

November 2019 Updateのプレビューは、2019年7月1日から開始された。当初は、スローリングでの配布だったが、8月26日からRelease Previewリングでも配布が始まり、スローとRelease Previewの2カ所でプレビュー版が配布された。

プレビュー版で開発が完了した機能は、May 2019 Updateの品質アップデートに機能を休止した状態で反映していたものと思われる。

このように段階的にアップデートを行うのは、企業内の利用などで、アップデートに掛かる時間の短縮と、Windows 10のバージョンをそろえることの両立が狙いだと考えられる。品質アップデートでWindows 10の機能アップデートを段階的に準備しておくことで、機能アップデートの時間を短縮できる。

しかし、すぐにWindows 10のバージョンが上がったり、新機能が有効になったりすると、品質アップデートの適用状況によって複数のバージョンが社内に存在してしまう。これでは、社内ユーザーのサポートも困難になる。例えば、自社開発のソフトウェアなども複数バージョンに対応せざるを得なくなる。これを避けるために、最後に「enablement」パッケージを配布し、その時点で改良点が発現し、バージョンが変更されるようにしたのだと思われる。

Windows Insider Programが変わる

November 2019 Updateの配布が始まったことで、Windows 10のリリース方式は「第二世代」に入ったといえる。これに伴い、Windows Insider Programにも変更があった。これまで、Windows Insider Programには、以下の4つのリングがあった。

しかし、November 2019 Updateのプレビューからリングの利用方法が変更になった。

そもそも20H1のプレビューは、May 2019 Updateの配布前に開始され、November 2019 Updateのプレビューは、May 2019 Updateの正式配布後に開始された。November 2019 Updateのプレビューは、スローリングを使って開始され、その後Release Previewリングでも開始された。前述のように10月にはNovember 2019 Updateは完成し、11月12日から正式配布が開始された。

11月5日のWindows Insiderブログでスキップリングは、閉鎖され参加することができなくなったことが明らかにされた。現行バージョンを含め、[Windowsの設定]アプリ-[更新とセキュリティ]-[Windows Insider Program]で新規参加やリング変更でも選択肢に出ない。

これは、春、秋のアップデートの体制が変わったからだ。秋のアップデートは春のマイナーバージョンアップになるため、春のアップデートほど長い期間、プレビューを評価する必要がなくなった。

また、そもそも春のアップデートが完成しないと、秋のアップデートの開発を行うことができない。そのため、現時点のように2020年春のアップデートをプレビューしている期間に、そのマイナーアップデートをプレビューする必要がなく、そもそもプレビュー版を作ること自体が難しいという状態である。

今回は、秋のアップデートがマイナーバージョンアップとなる最初の配布であるため、スローリング、リリースプレビューリングでNovember 2019 Updateのプレビューが行われたが、2020年からは、おそらくスローリングは春のアップデート専用となり、秋のアップデートはRelease Previewリングでプレビュー版を公開するのではないかと思われる。

20H1のプレビュー版リリース頻度は高いが機能追加は停滞中

さて、2020年春に提供が開始される予定の機能アップデート「20H1」だが、ビルド19030では、リリース状態が変更になり、デスクトップ右下でビルド番号などを表示していたウォータマークが消えた。

毎回、開発途上でウォータマークが消えると完成間近といった早合点を見かけるが、これはMicrosoft側の管理上のステータスが変わったのみで、「完成」を意味するものではない。しかし、ビルド19033のバージョン表示では、20H1の正式バージョンは「Windows 10バージョン2004」となるようだ。

Microsoftによれば、Windows Server 2003など、「2003」を冠した製品があったため、混同を避けるためにバージョンを「2004」としたという。これまで、このバージョン番号は、完成時の西暦下2桁と月2桁となっていて、これまで春の機能アップデートは3月中には完成していたため、ずっと下2桁は「03」だった。もっともこのバージョン方式を採用した2015年の11月アップデート(TH2)のときから分かっていた問題で何を今さら感は拭えない。

2019年10月~11月にかけて、プレビュー版の配布頻度は中3~4日程度と高いものの、バグ修正のみで新規機能を含まないプレビュー版もあり、ユーザー側から見ると、少々停滞気味だ。

なお、Windows Updateでのデバイスドライバ配布に関係する実験を行っているとのことで、機能を含まないプレビュー版が複数配布されたのは、実験のためなのかもしれない。

10~11月に追加された大きな機能としては、「Windows Search Indexerの改良」「WSL2のメモリ管理」などがある。

Windows Search Indexerは状況に合わせてインデックス作成処理を調整可能に

Windows Search Indexerは、定期的にファイルを調べ、検索用のインデックスを作成するプログラムだ。しかし、従来のインデックス作成ではファイルアクセスが増大して他のプログラムの処理速度が下がりやすく、ユーザーの作業への悪影響も小さくなかった。

しかし、今回の改良で、ゲームモードや省電力モードなどに入った場合や、CPU使用率やディスク使用率が高い場合、あるいはバッテリー駆動時やACに接続していてもバッテリー残量が50%以下などの場合、インデックス作成処理を中止あるいは減速するようになった。

これにより、従来ユーザーが感じていたインデックス作成による速度低下を抑えられるようになったとした。なお、Windows SearchはMay 2019 Updateで改良され、OneDriveを含めPC全体を検索対象に指定できるようになった。反面、対象ファイルが増えたため、Indexerの負荷が目立っていた。

WSL 2はメモリ管理機能が強化された

WSL 2の改良は、WSL 2を実行する「軽量ユーティリティー仮想マシン」のメモリ管理の機能だ。今回の改良で、WSL 2側が必要になって確保したメモリは不要になったときにWin32側に戻せるようになった。逆にいうと、このバージョンまで、WSL 2が確保したメモリは、そのままになっていたわけだ。

正規表現でファイル名を変更する機能が「PowerToys」に追加

標準添付ソフトウェアではないが、オープンソースソフトウェアとして開発が進む「PowerToys」のバージョンが上がり、ある程度実用的に使えるになった。

機能は、大きく3つある。「Windows Aero Snap(ウィンドウ位置を左右に合わせて表示する機能)」を拡張し、任意パターンのウィンドウの位置設定を可能にする「Fancy Zones」、正規表現などを利用してファイル名などの変更が可能になるエクスプローラーの拡張機能「PowerRename」、[Windows]キーを併用するキーボードショートカットを表示する「Shortcut Guide」の3つだ。Fancy Zones機能では、ディスプレイごとにウィンドウの配置パターンを設定でき、Aero Snapが対応しない、縦向きディスプレイの上下2分割も可能になった。

予定通りなら20H1は、2020年4月には完成するはずなので、残り4カ月と半年を切った段階だ。秋のアップデートは品質アップデートを併用して配布され、Windows Insider Programからはスキップアヘッドリングが消えた。これにより、Windowsのアップデート(Windows as a Services)は、第2段階に入ったといえるだろう。