ついに発売! 16コア32スレッド「Ryzen 9 3950X」の使い所を考える

ソケットAM4の第3世代Ryzenでは、「チップレット」が取り入れられている。チップレットは、「CCD」と「cIOD」で構成され、CCDはCPUコア、cIODはこれを接続するI/Oダイだ。この仕組みとCPUコアをいくつ有効/無効(歩留まりとも関連する)とするかによって、エントリーからハイエンドまでスケーラブルに製品ラインアップを展開できる。

第3世代Ryzenの最上位モデルが発売

8コアを超える上位モデルの場合、CCDは2つ内蔵される。これまで最上位だったRyzen 9 3900XもCCDは2つだ。ただし1つのCCDあたり、有効化されていたのは6/8なので12コア24スレッドにとどまっていた。Ryzen 9 3950Xは8/8、つまりCCDの8コアすべてが有効化された、ソケットAM4版第3世代Ryzenの完全形と言える。

仕様表の通り、Ryzen 9 3900Xとの違いはコア/スレッド数と、それに伴うL1~L2までのキャッシュ容量、そして動作クロックだ。L1~L2に関してはコアに数に依存するものなので分かりやすい。動作クロックはベースクロック側がRyzen 9 3950Xの方が低く、ブーストクロック側は高い。矛盾しているようにも見えるが、より多くのコアが活性化するベース側はコア数の多いRyzen 9 3950Xの方がTDPの関係から抑えられ、Ryzen 9 3950Xが選別コアの可能性を考慮すると、シングルスレッドのターボ時クロックは高めに設定できるとすれば筋が通る。

1つ、Ryzen 9 3950XにはCPUクーラーが付属しない。ユーザーは自前でCPUクーラーを用意することになるが、このクラスのCPUを求める人であれば、それなりにCPUクーラーへのこだわりもあるだろう。そして、発売前からAMDが公言しているように、クーラーの冷却性能はそれなりに気を使うことになるだろう。AMDはRyzen 9 3950Xに組み合わせるCPUクーラーに、「280mm以上の簡易水冷クーラー」を推奨している。

Ryzen 9 3950Xは、Ryzen 9 3900Xと同じ105WのTDP枠だ。それもおそらくRyzen 9 3950Xは選別されたコアだろう。それでも2コア4スレッド分の増加は、選別コアでカバーできる限度を超えているようだ。105WのTDP枠の中で上限により近い、マージンが少ないものであろうことが想像される。

簡易水冷ラジエーターを搭載できないミニケースや、スモールフォームファクターで使いたい、空冷CPUクーラーを組み合わせたいといったニーズに対して、AMDは「Eco-Mode」を用意することで対応しようとしている。

Ryzen Masterから利用可能なEco-Modeは、TDP上限を105Wから65Wへと引き下げる。上限が65W、40W分引き下げられれば当然クロックが抑えられる。Ryzen 9 3950Xのパフォーマンスを100%引き出すことはできなくなるが、ノーマルのRyzen 9 3950Xとはまた異なるワット/パワーのCPUとして活用できることになる。

マルチスレッドアプリケーションでのアドバンテージは大きいが……

Ryzen 9 3950Xの性能をどう測るのかは、悩むところだ。価格やコア数など指標となるものは多い。しかし、ここではメインストリーム向けプラットフォームという点を重視して、Core i9-9900Kと比較した。

今回は2つの検証環境で統一できなかったパーツも多く、消費電力比較に関しては注意して見ていただきたい。異なるのはマザーボードとメモリ、CPUクーラーの3点だ。

Ryzen 9 3950Xの検証機に付属したマザーボードは、MSIのAMD X570マザーボードの中でもハイエンドのMEG X570 GODLIKE、CPUクーラーはNZXT Kraken X62だった。その到着以前に計測しているCore i9-9900K環境は、マザーボードがGIGABYTE Z390 AORUS ELITE、CPUクーラーがCorsair H100i RGB Platinumだ。

メモリはRyzen 9 3950X側がCorsair VENGEANCE RGB CMR64GX4M4K3600C18をDDR4-3200に落として、Core i9-9900K側がHyperX Predator DDR4 RGB HX429C15PB3AK4/32の16GB分(2枚)をXMPプロファイルからDDR4-2666に落として、各プラットフォームの仕様に合わせている。

まずはCPU性能の比較として、CINEBENCH R20とV-Ray NEXT Benchmarkを見てみよう。ともに3dレンダリングベンチマークであることから、CINEBENCH R20のCPUとV-Ray NEXT BenchmarkのV-Rayは似たような結果だ。

やはりコア数が2倍あるRyzen 9 3950Xが圧倒する。予想できたことだが、Ryzen 9 3950Xはメインストリームプラットフォームにおいて圧倒的なコア数であることが、大きなアドバンテージだ。それこそ3Dや映像制作といったマルチスレッドアプリケーション中心の用途で、メインストリームプラットフォームを選ぶことでコストを抑えたいといったニーズに適している。

また、CINEBENCH R20のCPU(SingleCore)を見ると、シングルスレッド性能もほぼCore i9-9900Kと同等と言えるだろう。同時に、V-Ray NEXT BenchmarkのV-Ray GPUは同じ値であることから、GPUを利用する環境としてベース性能にもあまり大きな違いがないということが言える。

アプリケーション性能をPCMark 10で見ておきたい。まずはOverallだ。

通常通りExtended Testを実行しているが、Physicsテストでコア数による大きな差が出てしまうGamingはまず外して考えよう。Ryzen 9 3950XがリードしているのはEssentialsとDigital Content Creation(DCC)の2つのシナリオである。DCC側はややリードが大きく、コア数のアドバンテージが出ている印象だ。

ただし、ProductivityはCore i9-9900K側がリードしており、全勝とはいかない。テスト中では比較的スレッド数が多くないProductivityはRyzen 9 3950Xが不得意と考えられる。

各シナリオのテスト結果を見ていこう。Essentialsは、Web BrowsingでRyzen 9 3950Xが僅差で負けているものの、ほぼ同値と見ていいだろう。その上でApp Start-upの負けをVideo Conferencingで取り返しつつ総合でリードしたようだ。確かにVideo Conferencingの方がマルチスレッドが効きやすい。

一方、App Start-upはストレージも関係するが、スレッド数は少なめとなり、この中間帯のスレッド数における動作クロック、処理性能で差をつけられた可能性が考えられる。他2つのシナリオは先に指摘した通りだ。

CPU、アプリケーション性能でまとめよう。

先にアプリケーション性能だが、Ryzen 9 3950Xが高性能であることは間違いない。ただし、一般用途全般でリードするかというとそうでもない。CPUベンチマークの結果の通り、アプリケーションによりけりなところがある。そうしたアプリケーションを利用しているなら、この製品を手にすることで生産性向上を実現できるだろう。それにあてはまらない場合は、現状で8コア以上は必要なく、なんなら動作クロックが高い製品を選ぶ、あるいは選んだCPUをOC運用した方がメリットが大きいと思われる。

グラフィックスやゲームタイトルでの性能差は?

3DMarkでグラフィックス性能への効果を、Overallから見てみよう。

こちらは全く同じような傾向になることはなく、まずまずの差での勝ち負けがはっきりしたテストもある。全体を見ればRyzen 9 3950Xの方が比較的高いスコアを出す傾向にあるが、どちらがよりベンチマーク向きなのかということも、そこまで変わらないように見える。

CPU成分を削いだGraphicsスコアを見てみると、こちらはRyzen 9 3950Xの方がリードする項目が増えている。NihgtRaidを除けば、ほぼ同値かRyzen 9 3950Xがリードした。先のCPUベンチマークやアプリケーションベンチマークの結果を考えると、AMD X570環境の方がバスの効率がよいというようにも見える。

では、3D性能はほぼ同じとして、ゲームベンチマークで3Dゲーミング性能に違いが現れるのか調べてみよう。FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク、Red Dead Redemption 2、Tom Clancy's Ghost Recon Wildlands、Tom Clancy's Rainbow Six Siegeの4つのタイトルのビルトインベンチマークで計測している。

まず、最も重いFINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマークからだ。各プリセットで見るとどれもCore i9-9900Kのほうが若干高いスコアになる傾向だ。GeForce RTX 2080 Tiを組み合わせていることもあり、映像で見る限りほとんど差がないが実際のフレームレートには違いがあるかもしれない。

ここからは、フレームレートで結果が出るベンチマークだ。次に重いのがRed Dead Redemption 2のウルトラ画質で、高解像度ほど差が小さく、低解像度ほど差が大きいのは当然として、比率に直すと3つの設定ともRyzen 9 3950XはCore i9-9900Kの85%前後というわりと明確な一定の差になる。比較的CPU側がボトルネックになりやすい低解像度でも同じということは、CPU自体の性能でついた差のようには見えない。最適化やエンジンのクセが影響しているのではないだろうか。

次のTom Clancy's Ghost Recon Wildlandsも、全てCore i9-9900Kの方が高いフレームレートを記録した。しかし、比率で見ると各設定ともRyzen 9 3950XはCore i9-9900Kの97%差前後で一定している。

そしてTom Clancy's Rainbow Six Siegeだ。傾向としてはこれまでと同じで、Tom Clancy's Ghost Recon Wildlandsに最も近い。これも比率では各設定とも96%の差でほぼ一定となる。軽量であるほどCPUの差が出やすいのがセオリーだが、CPUの差というよりはプラットフォームの差であるように思える結果だ。

ここまでのように、ゲームにおいてはまだ若干、Intelプラットフォームに対してビハインドがある。ただ、今回のようにハイエンドGPUを組み合わせたシステムならば、十分なフレームレートが出ているのでそこまで問題にならない。

1つ気になるのは、ギガスレッド、ゲームと同時に配信やエンコードを行うような場合はRyzen 9 3950Xのメリットが大きいものの、ゲーム単体でこのコア数が効いているようには見えないことだ。

一般的なゲーム用途であればやはり8コアまでで十分だろう。もちろん16コアというのはロマンであり、コア数はそのPCの可能性を広げる。今はゲーム単独で遊んでいても、いずれゲーム配信、3D/映像制作もしたくなったときに、8コアでとどめていたら買い換えが必要になるかもしれない。

PCの購入を検討するとき、今の自分の用途に対してプラスαを見積もった方が幸せになれるのはここに理由がある。しかも、Ryzen 9 3950Xはさらにコストのかかるエンスージアスト向けプラットフォームではなく、(高価ではあるが)メインストリームプラットフォームでそれを実現できる。

消費電力はRyzen 9 3950XもCore i9-9900K同様じゃじゃ馬感がある

最後に消費電力を確認して終わりとする。グラフの通り、Ryzen 9 3950Xの方がCore i9-9900Kよりも大きな値だ。検証環境の構成違いがあるため、そこを考慮しつつ以下を読んでほしい。

まず差の小さいテストを見ていこう。アイドル時、CINEBENCH R20のCPU時、FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマークの3840×2160ドット高品質時はおよそ20W差だ。アイドル時は当然CPUの使用率が低い。FFベンチマークも高解像度ならGPU中心でCPU使用率は低い。ただ、CINEBENCH R20はCPU使用率は特に高い。どちらかに振れた条件では、Ryzen 9 3950XとCore i9-9900Kの差は小さい。

続いては差の大きいテストだ。PCMark 10のProductivity、FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマークの1920×1080ドット高品質時、3DMark Fire Strike時はおよそ40W超の差が出ている。PCMark 10のProductivityはCPU中心だが、負荷がそこまで高いとは言えない。FFベンチマークの低解像度はGPU負荷が下がりCPU負荷は高め、3DMark Fire StrikeはCombined TestはCPU負荷が高めだ。

両者ともCPUを使い切るCINEBENCH R20で20W、ややCPU負荷の高いテストで40W差、CPU負荷の低めのテストで20W差というように見える。中間の負荷で差が出るということもあるだろう。実際の最大消費電力の違いは先の通り構成の違いで分からないが、負荷に応じて最低20Wの差がつくことがある、という点は断言できるだろう。

AMDが当初12コア製品にとどめ、Ryzen 9 3950Xで280mm級の簡易水冷以上を推奨したように、シュリンクした7nm世代とは言え電力とのバランスを考えるとそもそもRyzen 9 3950Xは少しオーバースペックの製品だと言える。その点で、これまでの第3世代Ryzenよりは気合を入れて組みたいCPUだ。