型破りの挑戦、驚きのサウンド。オーディオテクニカの“世界初機構”採用イヤホン「ATH-IEX1」開発者インタビュー

革新への挑戦が詰まった、世界初のドライバー構成。ついにオーディオテクニカから、イヤホンのフラグシップが誕生した。驚くほどコンパクトなボディに込められた、2019年末、最大の話題作の恐るべき内容に迫る。

■初めてのハイブリッド型に革新的アイデアを盛り込んだ

さすがオーディオテクニカというべきだろうか。同社が初めて手がけるハイブリッド型イヤホン「ATH-IEX1」は、技術的な挑戦が幾多も盛り込まれた、孤高のフラグシップに仕立てられている。なかでも最大の特長といえるのが、ダイナミック型とバランスド・アーマチュア(BA)型のハイブリッド・ドライバー構成に「パッシブラジエーター」を加えた、マルチドライバー構造を世界で初めて実現していることだ。

これまでオーディオテクニカは、いくつかのモデルでダイナミック型ドライバーを対向配置した「デュアル・フェーズ・プッシュプルドライバー」を採用してきた。しかし今回のATH-IEX1はその片側、8.8mmのドライバーユニットをパッシブラジエーターとして活用し、これに9.8mmダイナミック型1基、BA型2基を組み合わせている。また、BA型ドライバーも小口径のデュアルユニットをチョイス。独特な形状のノズルを採用するなど、こちらもユニークな構造になっている。

なぜ、ATH-IEX1はこういったメカニズムを採用することになったのだろうか。その結果として、いかなるサウンドを目指したのだろうか。この記事では、製品開発を担当されたオーディオテクニカの小澤博道氏と、商品企画を担当された國分裕昭氏へのインタビューの模様を交えながらレポートしていきたい。

■ハイブリッド型らしくない!美しく装着性にも優れた設計

まずは、このATH-IEX1が生まれた背景を尋ねてみた。

「まだ世の中にないハイブリッド構成に挑戦するために、ダイナミック型とBA型、各ドライバーユニットの配置について様々なプランを検討しました。一般的にハイブリッド型は筐体が大きくなってしまう傾向があって、耳からはみ出てしまう製品、よくありますよね。第一にそれだけは絶対避けたかった」(國分氏)

「小型化を実現させるうえで、これまでの経験から9.8mm+8.8mmという異口径のダイナミック型ドライバー構成を採用することはスムーズに決定しました。最終的には、超小型のBAも2基、ノズル部分に差し込むようにして同軸上に配置しています」

筐体を小さくできた背景には、ノズル部分まですべて、チタン素材で構成されていることも大いに関係している。

「ATH-IEX1のチタン筐体は、4回の鍛造を行い、さらに切削や磨きなど、複雑な工程で仕上げています。他の素材も検討はしましたが、この厚みでこの強度を確保できるのはチタンならでは。美しいデザインも含めて、これまでの弊社のノウハウが活かされた部分だと自負しています」

理想のボディができあがり、いよいよ音質面の追い込みに取りかかる。これまでのプッシュプルではなく、ダイナミック型+パッシブラジエーター構成という型破りともいえる挑戦は、この段階で採用が決まったものだという。

「パッシブラジエーターを採用したのは、もちろん音質的な観点からです。実は以前から、ドライバーの振幅の幅が小さいカナル型イヤホンでは、プッシュプルドライバーの1基をパッシブラジエーターとして活用することで、共振による低域増強が行えないか考えていました。その仕組みを活用したのが、ATH-IEX1のシステムです。ダイナミック型ドライバーとパッシブラジエーターは真鍮のスタビライザーで保持されていますが、これも音質調整に大きく貢献しています。

また、超小型のデュアルBAを採用したのは、5Ωとインピーダンス特性を下げて鳴りやすさを確保しつつ、それでいて上質なヘッドホンアンプでは更なる実力を発揮できる製品にしたかったこともあります」

このほかにも、ケーブルはA2DCコネクターで高い耐久性を確保。4.4mm5極のバランス出力プラグを搭載したOFCケーブルも同梱する。イヤーチップはCOMPLY製のフォームタイプも付属。細部に至るまで、フラグシップにふさわしい内容を持ち合わせている。

想像していた以上に、ニュートラルなバランスに纏められている。そして、解像感、S/Nともに良好だ。おかげで、とてもピュアな、とても清々しいサウンドを楽しめた。

なによりも、マルチドライバー構成であることを忘れてしまいそうなくらい、低域から中域へのつながりがよい。おかげで、男性ボーカルはリアルな歌声を聴かせてくれるし、女性ボーカルもどこか可愛らしい、活き活きとした歌声を楽しませてくれる。ネットワーク回路を持たず、アコースティックだけでこの音を実現するとは驚きだ。高域は、鋭さや雑味のない、聴きやすく、伸びやかな音色。BAをスーパートゥイーターとして活用している効果だろうか、とても清々しいイメージだ。おかげで、ピアノは普段よりもタッチの軽やかな演奏に聴こえるし、ハイハットやシンバルは煌びやかさを保ちつつ鋭すぎず心地いい。

いっぽうでパッシブラジエーターの効果が注目される低域だが、しっかりとした量感が確保されているものの、目立ったピークは皆無で、優しい広がりを持ち合わせていて驚かされた。もちろん解像感はしっかり確保されているので、ベースの音階やバスドラムのアタックやキレがよく、特にハードロックやジャズなどではグルーブ感の良好な演奏を楽しめる。

今回の試聴では、いくつかのハイレゾ対応のデジタルオーディオプレーヤーで試聴してみたが、特に良好な相性を示してくれたのがソニー・ウォークマン(「ZX300」および「ZX500」)だった。特に4.4mmバランス出力ケーブルとの接続では、ダイナミックレンジ、S/Nともに素晴らしい実力を見せてくれた。この組み合わせは必聴だ。

ヘッドホンアンプ次第で表現力がさらに高まりそうな、底の見えない実力を持ち合わせている。まさにオーディオテクニカのものづくりが結実した至高の存在といえるだろう。