Ryzen 9 3950Xはワッパ最強!9980EXにも勝る無双っぷりを検証

AMDの第3世代Ryzenのハイエンドモデル「Ryzen 9 3950X」の国内発売が2019年11月30日11時とアナウンスされた。

メインストリーム向けCPUとしては初めて16コア32スレッドに到達したことだけでなく、最大4.7GHz動作、さらにTDPはたったの105Wと、これまで登場してきた物理16コアCPUの常識を覆す“CPU史の特異点”的なスペックを備えている。

AMDよりアナウンスされた国内販売価格は税込み9万8780円。北米MSRP(小売価格)が749ドルなので第一印象は割高だが、749ドルを単純に日本円になおして約8万2000円、それに流通にまつわるコストを載せて8万9800円、そして10%消費税……と考えると割とリーズナブルなのかもしれない。

下表はRyzen 9 3950Xとその近傍の製品、さらに既存のハイエンドデスクトップ(HEDT)向け物理16コアCPUのスペックや価格を比較したものだが、8コア16スレッドのRyzen 7 3800Xから見ればコア数2倍なので価格もほぼ2倍と合理的な価格設定。

一方同コア数で見るとZen+世代のThreadripper 2950Xより1万円程度高く(ただしX399マザーボード用なのでトータルコストは3950Xの方が優秀)、ライバルであるCore i9-9960Xより若干安い程度(ただし9960Xの初値は20万円オーバーで、最近値下げされた)。冷静に俯瞰すると、16コア32スレッドCPUとしては、至って普通の値段設定になっていると言える。

今回は前回の速報記事では触れることができなかった、さまざまなベンチマークを通じて、Ryzen 9 3950Xの実力を明らかにしていきたい。

“Eco”モードでTDP65W動作も可能

Ryzen 9 3950Xの設計は既存のRyzen 9 3900Xの延長線上にある。Zen2アーキテクチャーではCPUのコア8基(最大)が1組になったCPUダイ(CCD)とメモリーやPCI Expressコントローラーなどを備えるIOダイの組み合わせである。Ryzen 7 3700Xや3800XはCCDが1基で物理8コア、Ryzen 9 3900XはCCD2基で物理12コアだが、1CCDあたり6コアしか使えない。

Ryzen 9 3950Xは、8基フルで使えるCCDが2基なので物理16コアという勘定になる。アーキテクチャー的な部分は既存の第3世代Ryzenと変わらず、スケールアップさせたものになる。

ちなみに、Ryzen 9 3950Xを組み込んでブートさせるには、BIOSが最新である必要はない。今回検証で使用したマザーボード(ASRock「X570 Taichi」)のBIOSは7月11日付けの“1.60”だったが、問題なくPOSTを通過した。ただ安定性向上や性能をフルに引き出すという観点から、最新BIOSに更新して本格的に使い続けることをオススメしたい。

技術的な新要素は全くないが、Ryzen 9 3900Xの12コア24スレッドでも、今回のRyzen 9 3950Xの16コア32スレッドでもTDPは同じ105Wと言うのは一見すると奇妙に思える。それほどZen2のワットパフォーマンスが凄いのか……ということになるが、正確にいえば、Ryzenは“CPUが使える電力量”が厳しく制限されていて、その制限に合うように強制的にクロックを調整する仕組みになっている。

とはいえ発熱量は大きくなることが予想されるため、Ryzen 9 3950Xには3900Xに同梱されていたWraith Prism w/ RGBクーラーは同梱されない。そのためCPUクーラーは別途購入する必要があるが、AMDはRyzen 9 3950Xの使用にあたっては、ラジエーターが280mm以上の簡易水冷を推奨している。

ただ16コア32スレッドのCPUを小型PCにも組み込みたい、あるいはクーラーの選択肢が限られている状況でも使いたい、という人のために“Ecoモード”なる機能を最新の「Ryzen Master」に実装している。これを有効にするとTDPは65Wにまで下がるため、冷却性能や電力供給量に制限のある環境にも組み込みやすくなるのだ。ちなみにEcoモードは本稿公開時点で配布されているものを導入すれば、既存の第3世代Ryzenで動くことを確認している。

CPUクーラーは推奨通り280mmラジエーター搭載の簡易水冷を用意

今回の検証環境を紹介しよう。Ryzen 9 3950Xと比較するために、Ryzen 9 3900Xと、コア数半分のRyzen 7 3800Xを準備。さらにインテルのCore i9-9900KS(製品版)と、Core i9-9980XE(ES版)をそれぞれ用意した。ゲームのパフォーマンスを見るためにビデオカードはパワー重視でNVIDIA「GeForce RTX 2080TiのFounders Edition」、CPUクーラーはAMDの推奨通り280mmラジエーターを備えた簡易水冷で検証する。

また、インテル環境はCPUとマザーボード以外AMD環境と共通化しているが、メモリークロックはそのCPUの定格に合わせ、BIOSの設定はメモリー周り以外そのマザーボードのデフォルト値にした。

Core i9-9980XEをマルチスレッドで超える?

まずは定番「CINEBENCH R20」のパフォーマンスを見てみよう。Ryzen 9 3950Xについては、Ecoモードでのパフォーマンスも計測した。

コア数がRyzen 7 3800Xの2倍だからRyzen 9 3950Xのスコアーはその倍……とは単純にはいかなかったが、3800Xを基準にすると3950Xマルチスレッドのスコアーは1.81倍。クロックの差やメニーコアゆえの消費電力の制限などを考えると、極めて順当な結果と言えるだろう。

また、Ryzen 9 3950XのEcoモードではマルチスレッドのスコアーこそデフォルト時から17%程度低下しているが、シングルスレッド性能はほとんど変わっていない。

だがここでの一番の驚きはCore i9-9980XEのスコアーを上回っていることだ。このテストにおけるCore i9-9980XEのCPUパッケージ温度の最大値は70℃、サーマルスロットリングにも入っていないことは何度も確認したが、それでもこの値。18コア36スレッドを16コア32スレッドが上回るとは……。

そして最も重要なのは、Ryzen 9 3950Xのシングルスレッド性能の高さだ。これまでのCore XやThreadripperではコア数の代償としてシングルスレッド性能が犠牲にされてきた。しかし、Ryzen 9 3950Xではどちらも最速。シングルスレッドもマルチスレッドの両立をさらに高レベルで実現できているのだ。

写真編集など、マルチスレッドの活きる作業では抜群の性能!

次に「PCMark10」の“Standrd”テストを用いて総合性能を比較してみよう。総合スコアーだけでは差がどこから来ているか分かりづらいので、テストグループ別に詳細なスコアーも比較してみた。

まずは総合スコアー。トップに立ったのはRyzen 9 3900X、僅差でCore i9-9900KS。Ryzen 9 3950Xは3番手だが、トップとのスコアー差はわずか9ポイント。トップ3のスコアー差は誤差といってもよいレベルだ。Ecoモードにすると100ポイント程度下がるが、それでもRyzen 7 3800X以上のスコアーは稼げている。

アプリの起動、ビデオチャット(OpenCLあり)、ChromeやFirefoxを使ったウェブブラウジングの性能を見るEssentialsテストグループ。ここではCore i9-9900KSがトップを獲得。Core i9-9900KSの主な得点源はアプリの起動とウェブブラウジングで、全コア5GHzクロック動作の威力が発揮されたといえるだろう。第3世代RyzenはPCI-Express Gen4のSSDを使えばアプリの起動に関するスコアーはもう少し増える可能性もあるが、今回はCPUの力の差を見たいので、どの環境でもPCI-Express Gen3の一般的なNVMe M.2 SSDを使用している。ゆえにこのベンチではストレージ性能でのスコアー差は考慮されていない。

ただ、ビデオチャットに関していえばRyzen勢はCore i9-9900KSを大きく上回っている。このあたりはクロックが効くか、キャッシュの多さが効くか、の違いといったところか。

続いてはLibreOfficeを使って実際に処理をするProductivityテストグループ。このテストはクロックが非常に効きやすいため、Core i9-9900KSが首位を獲得。Ryzen勢のトップは最大クロックが4.7GHzと高いRyzen 9 3950Xではなく、4.6HGzの3900Xとなった。ただEcoモードでのRyzen 9 3950Xがデフォルト時のスコアーを上回っていることから考えると、ブレの範囲ともいえる。

最後に写真や動画編集、CG制作といった処理を試すDigital Contents Creation(DCC)テストグループのスコアー。ここで気を吐いているのはコア数の多いRyzen 9 3950X。特に写真編集ではインテル勢を差し置いて抜群のスコアーを稼いでいる。Core i9-9980XEはここまで精彩を欠いたスコアーしか出せていなかったが、唯一レンダリングやワイヤーフレームの描画処理ではRyzen 9 3950Xを大きく上回っている。同じレンダリングを扱かうCINEBENCH R20とはまた違った傾向を見せている点に注目したい。

総じてみると、Core i9-9900KSが全コア5GHzの高さを武器にスコアーを稼いではいるものの、マルチスレッドが効くテストでRyzen 9 3950Xに大敗し、結果的に逆転される、という傾向が見えた。CINEBENCH R20では最速CPUの誕生という印象だったが、やはり処理により得手不得手があるようだ。

3DMarkはDirectX11ベースだと他を大きく引き離すスコアー!

続いては「3DMark」でグラフィックの性能に差異が出るかをチェックしよう。ご存知の通り総合スコアーにはCPUの演算性能が加味されるため、Graphicsなどの小テスト別のスコアーも比較する。テストは“Fire Strike”と“Time Spy”のみを使用した。

各テストの総合スコアー(グラフのバーでは青。以下同様)を見ると、どちらのテストでもRyzen 9 3950Xがトータル的にトップに立っている。DirectX11ベースのFire StrikeではRyzen 9 3950Xが他を大きく引き離してトップになっているが、DirectX12ベースのTime Spy僅差での勝利に留まる。Time Spyのレンダリング解像度はWQHDであるため、CPUのボトルネック要素が若干解消された結果、差が詰まっているのもTime Spyでスコアー差が縮まった原因のひとつと考えられる。

3DMarkにおけるGraphicsスコアー(橙)は、CPUパワーを極力使わないような設計になっている。今回使用したGPU(RTX 2080Ti)の性能をCPUの違いでどこまで引き出せるか、という観点からいうと、Fire StrikeではRyzen 9 3950XよりRyzen 7 3800XやCore i9-9900KSの方が若干優れているし、Time SpyではCore i9-9980XEの方が僅差で勝っている。

だが、CPUによる物理計算性能(灰色または黄色)では、Ryzen 9 3950Xが圧倒的に強い。16コア32スレッドをTDP105Wの枠内に押し込めたことで、ゲームのグラフィック描画についてはRyzen 7 3800Xに劣ることもあるが、CPUパワーでスコアーを稼ぐ、といったところか。

そしてもうひとつ重要なのは、Ryzen 9 3950XのEcoモードではスコアーがほとんど下がっていないことだ。総合スコアーでみるとデフォルト時と1%〜2%程度しか違わない。物理演算系のスコアーは差が付いているように見えるが、デフォルト時に比べ5%も減っていない。ハイエンドCPUは全力で回してこそ光ると考える人には理解し難い考えだが、ゲームではEcoモードもある程度有用なのではないだろうか。

Blenderではわずかながら9980XEに勝利!

では実アプリベースのベンチマークに入ろう。ここから先はEcoモードでの比較は時間の都合上カットした。

まずは3DCG系の代表として「Blender」を試してみよう。「barbershop_interior_cpu」をCyclesレンダラーで1フレームレンダリングする時の時間を比較する。

Ryzen 9 3950Xの処理時間は8コア16スレッドのCPUのほぼ半分、という分かりやすい結果となったが、ここではCore i9-9980XEが僅差ではあるが勝利した。物理18コアの意地を見せたというべき結果だが、Core i9-9980XEの実売価格(原稿執筆時点で最安12万円、大手通販で21万円〜)を考えると、Ryzen 9 3950Xの圧倒的なお買い得感が強調される。

Ryzen 9 3950XのCPU価格は決して安くないが、HEDT向けプラットフォームに比べるとマザーボードの導入費用が圧倒的に安い。とにかく計算力だけ揃えたい(マザーボードの耐久性云々は別として)という場合、Ryzen 9 3950Xは極めて有効なソリューションになるだろう。

同じレンダリング系だが「V-Ray Next Benchmark」も試してみよう。このベンチではCUDAを使ったGPUレンダラーとCPUのみを使うレンダラーが試せるが、今回は後者のみを利用する。

Blenderと違いこちらは計算量なのでスコアが高いほど優れている。ここではBlender以上にCore i9-9980XEがHEDT向けハイエンドの意地を見せた結果となった。Ryzen 9 3950Xも十分速いが、コア数の差はいかんともし難いものがあるようだ。

Media Encoderは9980XEよりも40秒も速かった!

続いては動画エンコード系として「Media Encoder 2020」を試す。「Premiere Pro 2020」で編集した約3分半の4K動画を「Media Encoder 2020」にキュー出しし、H.264 80MbpsまたはH.265 50Mbpsで1パスエンコードした時間を比較した。

Adobeのエンコーダーはインテル製CPUと相性が良い、などと言われていたが、18コア36スレッドのCore i9-9980XEよりもRyzen 9 3950Xが40秒近くタイムを短縮している。BlenderやV-Rayでは負けたが、Media Encoder 2020ではインテル製HEDT向けCPUを打ち負かしている。

特にPremiereやMedia Encoderで使われているエンコーダーはZen+世代のThreadripper 2990WXの設計と相性が悪く、エンコードが遅くなることが知られているが、内部構造を激変させたZen2世代のThreadripperはどうなるか……今から楽しみである。

次は「Lightroom Classic」でRAW100枚(DNG形式、6000×4000ドット)にレンズ補正や色補正を施し、それを最高画質のJPEGに書き出す時間を計測する。書き出し時にシャープネス処理(スクリーン用、適用量“標準”)を付与している。シャープネス処理はCPUパワーを食うため、コア数の多いRyzen 9 3950Xでどうなるかが見ものだ。

このテストでは意外とCore i9-9980XEが健闘。コア数の多さを見せつけた形だが、むしろCore i9-9900KSの遅さが気になる(これはCore i9-9900Kでも同傾向)。Ryzen 9 3950Xだけでなく、全体にRyzen勢の方が安定して速い印象がある。

続いては「Unreal Engine」でのビルド速度で対決させてみる。ビルドシーンは「Infiltrator」を使い、ライティングを“プロダクション”設定にした状態でビルド時間を計測した。

コア数が増えても劇的に処理時間が短くならないのは、ビルド処理中のCPUの使用率にムラ出てしまうせいだが、それでもRyzen 9 3950Xは僅差でトップ。Core i9-9980XEのクロックがもう少し高かったら、Ryzen 9 3950Xを越えた可能性もあるだろう。

ゲーム性能はやや苦手な傾向

さてここから先はゲーミング性能についても考えてみる。CPUの性質上メガタスク状態における性能も見たかったが、今回は純粋にゲームだけを動かした時のフレームレートで比較したい。

まずは「Call of Duty: Modern Warfare」を使用する。解像度は1920×1080ドット、画質は最高画質だがレイトレーシングは無効とした。シングルプレイヤー用ステージ“ピカデリー”におけるフレームレートを「CapFrameX」で計測した。

ここでは全コア5GHz動作のCore i9-9900KSが意地を見せトップに立ったが、平均fpsではどのCPUも僅差であるといえる。ただRyzen 9 3950Xはその中でも微妙にフレームレートが出ていない。ゲームだけ遊ぶのであれば、Ryzen 9 3950XはRyzen 7 3800Xよりも少しだけ劣るようだ。

CPU負荷の極めて高い「Assassin's Creed Odyssey」でも試してみた。画質は“最高”とし、ゲーム内のベンチマーク機能を利用して計測した。

このゲームの最低/最高fpsは割とブレやすいので、平均fpsを中心に見るとよいだろう。このゲームではRyzen 9 3900とCore i9-9900KSが最も高く、Ryzen 9 3950Xは3900Xよりもフレームレートが出にくい傾向が見られた。ただこのゲームはややフレームレートのブレが出やすいため、CPUでの差は“あるかないか微妙な状態”と考えるのがベターだと感じる。

最後に最新作「Red Dead Redemption 2」でも試してみたい。やたら重いと評判のゲームだが、CPUの違いでどの程度変わるのだろうか?

今回のテストではAPIをVulkanに、各設定を一番重く設定した(ただしMSAAはx4)。これもゲーム内のベンチマーク機能を利用して計測している。

最低fpsが11fpsと極めて重いベンチマークであることが分かる。平均fpsを見るとトップ2はインテル製CPUで、Ryzen勢はほぼ同レベルだが微妙に遅いといったところ。ここでもRyzen 9 3950Xは3900Xに負けているので、ゲーム単体プレイ環境では16コア32スレッドのCPUは決定打にはならないといえそうだ。

消費電力でわかるSenseMIテクノロジーの優秀さ

では消費電力の検証に入ろう。ラトックシステム「REX-BTWATTCH1」を使い計測した。アイドル時はシステム起動10分後の安定値だが、高負荷時は「Prime95のSmallFFTの実行中の最大値」と「Blenderレンダリングテスト時の最大値」の2種類を比較する。SmallFFTテストは消費電力や発熱的にワーストケースであるとされているが、実はRyzenでは必ずしも当てはまらないからだ。

まず驚くべきはCore i9-9900KSとCore i9-9980XEの消費電力の高さと、Ryzen勢の消費電力の低さだ。これはインテル製CPUはパワー限界までとにかくアクセルを踏む設計なのに対し、Ryzen勢はPPT/TDC/EDCといったパラメーターの枠を絶対に外れないように制御しているため、こういう差になっている。

おもしろいのはRyzen 9 3950Xの高負荷時の消費電力は、SmallFFT実行時よりもBlenderでレンダリング中の方が大きいこと。CPUの負荷的にはSmallFFTの方がはるかにヘビーだが、SmallFFTの負荷が高すぎるゆえにCPUの出力が絞られてしまうようだ。

そこで「HWiNFO」を利用して、Ryzen 9 3950Xに超高負荷をかけた時の挙動を調べてみた。下のグラフはBlenderとPrime95の消費電力計測時における「CPU+SoC Power」「クロック」「平均実効クロック」「tCtl(UEFIなどから取得する値)/tDie(実際のダイ温度)」の推移(処理開始〜5分程度)をそれぞれグラフ化したものだ。ここでは再度Ryzen 9 3950XのEcoモードにおける挙動の違いもチェックする。

まずはRyzen 9 3950Xが消費している電力がつかめる「CPU+SoC Power」の推移だが、デフォルト状態ではPrime95よりもBlenderの方がより多くの電力を消費している点に注目。つまりSmallFFTは処理負荷が重すぎる(もしかするとRyzenの設計に合致しない)ため、CPUのパワーが極端に制限されてしまうことを意味している。つまりRyzen 9 3950Xの消費電力や発熱を見る上でPrime95のSmallFFTは適さないという知見が得られた。

また、EcoモードにするとBlenderでもPrime95でも24〜27W程度に制限される。これがTDP65W制限の効果であることは明らかだ。

次はクロックだ。実測クロックはCore#0(テスト個体における一番高性能なコアと一致)の推移を追いかけるとともに、HWiNFOの最新β版(ビルド3990)で追加された“平均実効クロック”(16コア分)も追跡した。平均実効クロックとは耳慣れない用語だが、タスクマネージャーで4GHzと表示されるのがここでいう実測クロックであるのに対し、CPUの負荷やアイドル時間を考慮にいれたのが実効クロックとなる。処理負荷が高い場合は実測と実効はほぼイコールになるが、Blenderのレンダリング開始直後のように処理負荷が低い時は実効クロックは低くなる。

ここでもPrime95時は実測実効ともに3GHzちょっとで横ばいになるが、Blenderのレンダリング時は3.95GHzあたりで安定している。処理負荷に応じてCPU+SoC Powerが変化し、それがクロックにも影響している。また、Ecoモード時のCPU+SoC Powerはほぼ同レベルだったが、実測&実効クロックはBlenderの方が1.5GHz近く高くなっている点にも注目したい。

最後はCPUの温度だ。HWiNFOだとCCDごとの温度情報も読み取れるが、tCtl/tDieはCPU全体の温度管理に使われる情報なので、こちらを採用した。低負荷時はCCD温度はtCtl/tDieより下(状況にもよるが、落差は最大10℃程度)だが、高負荷になるとCCDとtCtl/tDieはコンマ数℃の差にまで縮まる。

この温度推移でもCPU+SoC Powerがより高くなる状況ほどRyzen 9 3950XのtCtl/tDieが高くなることが分かる。Blenderのレンダリング時は最高64℃なのに対し、Prime95のSmallFFT時は57℃前後でほぼ横ばい。一方Ecoモードにすると50℃程度に抑え込まれる。Ryzenに組み込まれたSenseMIテクノロジーの凄さが再確認できる結果となった。

まとめ:紛れもなくCPU史の特異点。懸念材料は価格よりも供給量

今回はいつになく検証時間が厳しく、もっと多岐に渡るテストを実施したかったが、Ryzen 9 3950Xのパフォーマンスの凄さが十分に感じられた。16コア32スレッドのパワーは特にクリエイティブ系の作業で存分に発揮された。前回の速報時でも触れた通り、同じSocket AM4プラットフォームで2コア4スレッドから16コア32スレッドまで、予算や用途に応じて性能を自在にスケールさせることができる柔軟性はライバルの追従を許さない。今は4コアや6コアのRyzenで我慢しても、いずれ最大16コアまでパワーアップできるというのは、アマチュアのクリエイターにとって大きな助けとなるだろう。

だが同時にゲーミングに関しては既存のRyzen 7 3800XやRyzen 9 3900Xの方が性能が出やすい傾向が確認された。コア数を増やしてもTDP105Wの枠に留めた結果なのか、16コアもあるのにメモリーコントローラーは1基のみというアンバランスさにあるのかまでは今回は確認できなかったので、今後の課題としたい。さらにOBS等でメガタスク状態にした時のパフォーマンスなど、検証すべきネタはまだ残っている。あくまでゲーム単体の性能は若干劣る、というだけだ。

圧倒的性能がメインストリーム向けマザーで使えるRyzen 9 3950XはCPU史上の特異点というべき存在になった。パワーが何より欲しい人、メインストリーム向けCPUで最高のものが欲しい人には間違いなくオススメだが、最大4.7GHzまでブーストできて8コア全部使えるCCDはかなりの良品であることは間違いないので、Ryzen 9 3900X以上に製品の流通量が限られるだろうと筆者は考えている。AMDがどれだけ市場のニーズに応えられるかに期待したい。