7nmベースのRyzen APU「Renoir」を2020年に発表 AMD CPUロードマップ

AMDのRyzen 9 3950XやThreadripper 3960X/3970Xの情報も公開されたので、そろそろロードマップの図版を更新しておこう……と思って気が付いたのは、前回ロードマップを更新したのはなんと2018年1月のことだった。

2年まではいかないものの、かなり長期間放置していたことになる。もちろん合間にはちょこちょこ情報をお届けしていたが、ロードマップそのものは更新していなかったので、おさらいも兼ねてここらへんでロードマップ更新をすることにした。

前回はちょうどRaven RidgeベースのRyzen 5 2400GやRyzen 3 2200Gが発表された直後にあたる(出荷そのものは2月だったが、情報は1月にもう出ていた)。ということでここから始めたい。

Zen+コアを利用した

第2世代Ryzenが登場

2008年4月に、Zen+コアを利用したRyzen 7とRyzen 5がまず発表された。この世代は、基本的にマイクロアーキテクチャーの変更は(エラッター修正を除くと)一切行なわれておらず、違いはプロセスをGlobalfoundriesの14LPEから12LPに切り替えただけである。

さらに言えばAMDはGlobalfoundriesの提供するスタンダードセルを使わずに、自前のライブラリーを使っている関係で、物理実装まで完全に同一であり、ダイサイズも一切変更がないというものだった。

それでもプロセスの違い(といっても、基本的に12LPは14LPPの小改良版で、それほど大きな性能改善はない)で若干動作周波数が引きあげられたり、同じ動作周波数なら消費電力がやや下がるといったメリットはあり、価格も手ごろで入手しやすいこともあり、割とヒットした製品である。

このZen+コアをベースに2ダイ/4ダイ構成としたのが8月に発表されたRyzen Threadripper 2920X/2950X/2970WX/2990WXである。

この第2世代Threadripper、6月のプレビューの時にはすべて4ダイ構成になると思われていたのだが、実際にはゲーミング向けのXシリーズとワークステーション向けのWXシリーズの2つに分かれるというちょっとした驚きがあった。ちなみにXシリーズは8月、WXシリーズは10月に出荷されている。

こうした動きと並行して、2018年9月にはRyzen 5 2500XとRyzen 3 2300Xが追加されている。このRyzen 3 2300Xはおそらく最後の「GPU非統合Ryzen 3」になると思われる。

また10月にはRaven Ridgeベースとしては初のAthlonであるAthlon 200GEが投入。2019年1月には動作周波数をやや引き上げたAthlon 220GE/240GEも追加で投入されている。

マイクロアーキテクチャーがZen2コアになった

第3世代Ryzen

明けて2019年、CESでまず7nm世代のZen2コアのプレビューが発表され、COMPUTEXのタイミングで製品の詳細が語られた。製品の出荷は7月から開始され、特にRyzen 9に関しては当初入荷即完売といった状況が続いていた。

現時点でも、特にRyzen 9 3900Xに関しては入手難というほどではないにせよ、潤沢とは言い難い程度に良く売れている。

この7月にあわせて発売開始されたのが、Picassoこと第2世代のRyzen APUである。モデルナンバー的には3000番台なのでわかりにくいが、製造プロセスはGlobalfoundriesの12LPで、要するにRaven Ridgeの12nm版である。こちらも内部構造は一切変更がなく、ただしプロセス更新で若干動作周波数が引き上げられたという形だ。

Athlon 3000Gが

11月17日に登場予定

ということで、だいぶ端折ったがようやく現在に到達した。この後はというと、まずは11月17日にAthlon 3000Gがリリースされる。実はAMDはこれについて詳細を公開していないのだが、筆者が考えるにおそらくこれはPicassoベースと思われる。

と言うのは、そろそろAMDは14LPEでの製造は(PRO向けに必要な在庫確保分を除くと)終了しているはずで、12LPに移行していても不思議ではないからだ。実際Ryzen 3/5に関してはすでにRyzen 3 3200G/Ryzen 5 3400Gに切り替わっているわけで、Athlonもそろそろ12LPベースになっていても不思議ではない。

加えて言えば、型番を3000Gにしたのはなかなか意味深に感じられる。おそらくこの3000Gが、3000世代Athlonのローエンドで、これに3100Gなど(それで足りなければ3150Gなど)を後で追加すると考えると、Athlon 200GE世代とのモデルナンバーの整合性が取りやすい。もっとも追加するか否かは、競合(つまりインテル)の製品の出方次第の部分もあるだろうが。

もう1つ付け加えておけば、Ryzen 3 3300X(ないしRyzen 3 3300)が登場するかどうかであるが、出荷されないと筆者は考えている。上で「Ryzen 3 2300Xはおそらく最後の『GPU非統合Ryzen 3』になる」と書いたのはそのためだ。理由は簡単で、もともとこのグレードはGPU非統合ではデメリットが多すぎるからだ。

それでもRyzen 3 1200や1300Xを2017年に投入したのは、当時はまだZenベースのAPUが提供できずに止むなく、という事情があってのことで、その流れで2018年にはRyzen 3 1300Xの後継としてRyzen 3 2300Xは投入したものの、Ryzen 3 1200はRyzen 3 2200Gで置き換えとなっている。AMDとしても、利幅の少ないRyzen 3のセグメントに高価な7nm世代の8コアダイを投入するのは気が進まないだろう。

もう1つ事情があるとすれば、TSMCの逼迫がある。台湾DigiTimesが9月17日に報じたところによれば、7nmの製造リードタイムが当初の2ヵ月から6ヵ月に延びているとのことだった。

要するに7nmをあまりに多くの顧客が奪い合う状況になっており、供給能力が足りなくなっているという話である。

現実問題として、Samsungの8nm(TSMCのN7相当)はほとんど顧客がついておらず、一方EUVに関してはやっとTSMC/Samsungともに量産に入ったという段階である。そうなると、その間に先端プロセスを使いたい顧客が全部TSMCのN7に集まるのは仕方ないところで、そりゃ逼迫するだろうという話である。

こうなると、Globalfoundriesの12LPを使うI/Oチップレットはともかく、TSMCのN7を使うCPUチップレットは非常に貴重であり、8コアのうち2コアしか使わないRyzen 3グレードに使うのは惜しい、という判断が出るのは当然と思われる。

Ryzen 9 3950Xはゲーム向けに

第3世代Threadripperはワークステーション向けに

さて、次が25日発売予定のRyzen 9 3950XとThreadripperである。Ryzen 9 3950Xは、やはり高速動作するダイの選別に時間がかかった模様だ。

真偽は不明だが、あるタイミングでTSMCで製造するCPUチップレットの歩留まりが急に下がり、高速動作するダイがほとんど取れない時期が続いた、という噂があった。

こちらはすでに報じられた話なのでとりあえず良いとして、Threadripperである。概要は発表記事にまとめられているが、I/F周りを大幅に変更した。初代/第2世代のThreadripperは、PCI Express Gen3 x64構成だったが、第3世代ではPCI Express Gen4 x72になっている。 

そのうえ、チップセットとのI/Fもx4レーンからx8レーンに強化されるなど、大幅に構造が変わったこともあり、X399に代わってTRX40チップセットが新たに提供され、これもあってSocketには互換性がないことになった。

もっとも機械的に異なるかどうかは不明だが、おそらくガイドピンの位置を変えるなどして、装着できないようにする程度の配慮はあるかと思う。

この第3世代Threadripperが4ダイ構成のみ、というのは要するに従来のゲーミング向けの2ダイThreadripperのラインナップはRyzen 9が後継となり、Threadripperそのものはワークステーション向けに特化するという形に切り替わったものと考えられる。

実際Performance Previewのスライドを見ると、ブラウザーやUnreal Engineのコンパイル、Premire CCでの動画トランスコード、CGレンダリングなどばかりで、ゲームが出てこないあたりがこの傍証である。

Ryzen 9 3900XですらほとんどのゲームでCPU性能は余っている(24スレッドを使い切るようなゲームはまずない)ことを考えると、4ダイで48~64スレッドを投入したところでゲーム性能改善にはまずつながらない。

またPCI Expressレーンを強化しているのは、GPUあるいはアクセラレーター(最近FPGAカードが手頃に出回るようになり、これを利用した処理のオフローディングも盛んになっている)を大量に接続したい、ということも関係しているだろう。

現状TRX40の詳細を含めた細かい話は全然出ていないが、このあたりは発売までにいろいろ公開される(そしてハッチセンパイがそれをレポートしてくれる)と思われる。

通常のユーザーにはRyzen 9シリーズで十分と思える。強いてデメリットを挙げれば、Ryzen 9ではSocket AM4なのでメモリースロットが4本しかないので、16GB DIMMを使っても最大でも64GBにしかならないあたりで、これを超える容量が欲しければThreadripperに……となるが、さすがに64GB以上が必要なユーザーは「通常」扱いから外れても仕方ないだろう。

7nmベースで製造されるRyzen APU

Renoirが2020年発表

さて、直近の話はこんなところであるが、この先出るものは? というと、7nmベースで製造されるRyzen APUである。ただしこれは2020年に入ってからとなるだろう。構成はZen2+NAVIという順当なもので、Renoirなるコード名だけが伝わってきている。

このRenoir、海外のサイトでは「2020年のCESでお披露目ではないか」とされているが、筆者はおそらくCESの段階で示されたとしても、それはプレビューレベルのもので、製品出荷はもっと後になると思われる。

理由は先のTSMCの逼迫の話が一番大きい。そもそもまだPicassoベースの製品が出荷されたばかりだし、どうやっても平均小売価格を高く設定できない現状のRyzen APUの構成では、まだ割高な7nmを利用するよりも割安な12nmを利用する方が理にかなっている。

おそらくRenoirが量産に入るのは、TSMCのN7+やSamsungの7LPPといった、EUVプロセスの量産が本格化し、相対的にN7の需要が減って、製造コストのプレミアが減る来年第2四半期以降ではないかと筆者は予想している。

その頃には、Zen3ベースとなるN7+を利用した次のRyzenが用意できる頃であり、Ryzen 3000シリーズ同様タイミングを合わせて出荷、という方が自然な感じである。

幸いにもというか不幸にもというか、Ryzen APUは今のところ有力な競合製品がない。現状、インテルのCore i3以下のグレードのCoffeeLakeベースの製品とは互角以上であり、次に出てくるComet Lakeまでに7nmに移行すれば十分間に合うからだ。

もちろん、例えばモバイルのシェアを今の3倍にする、なんて目標を立てていれば、今すぐ7nmに移行しないと競争力が足りないが、そうでなければ慌てて移行する必要はないと考えられる。というわけで、APUの7nm移行はもう少し先になりそうだ。