仕事道具として使いたい、最新「iPad」の選び方

アップルはiPadを「最も身近なコンピューター」と再定義した。今回は、その中でもっとも低価格帯に位置する、10.2インチに画面が拡大されたiPad(第7世代)と、小型モデル7.9インチiPad mini(第5世代)をとりあげる。

今までの「タブレット」のイメージで接すると見誤る、新しい仕事道具にと言えるだろう。

iPadはカバーを兼ねるSmart KeyboardとApple Pencilを組み合わせることで、3年以上安心して使えるモバイルコンピューターとなる。またiPad miniはApple Pencilが利用できる完璧なデジタル手帳として、現在持ち歩いているノートパソコンやスマートフォンを補完することになる。

いずれの場合でも、すでにiPadにそろっている100万本を超えるアプリ群が、iPadを選ぶ大きなメリットを作り出している。選択のポイントは、キーボードとペンシル、どちらを重視するか、だ。

iPadの1年を振り返ると…

アップルは例年、9月にiPhoneとApple Watchの最新版を発表してきた。2019年も同様の展開となった。

iPhoneは依然としてアップルの売り上げの半分を占める主力製品で、iPhone 11ではありきたりに思われたカメラを磨き上げ、非線型の画質を手にした。またApple Watchは現在アップルの中で最も高い成長率を誇るウェアラブル製品の中核となっており、常時点灯ディスプレーによって新規、買い替えの双方の購買を誘うヒット商品となった。

2019年9月には、もう1つの新製品が登場した。それは、329ドル(日本では3万4800円)に据え置かれた第7世代iPadだ。iPadは2017年に廉価版として登場し、最も販売台数の多いiPadになった。教育市場だけでなく企業向けの需要にも対応する製品の最新版となる。

アップルにとって2019年は、iPadイヤーだった、と振り返ってもよいだろう。

3月にはiPad AirとiPad miniの最新版を登場させ、中堅モデルをA12 Bionicチップ搭載モデルへと刷新した。また6月に開催された開発者会議では、「iPadOS」という専用のソフトウェアを登場させ、タブレットからコンピューターへの再定義をアピールした。

例えばUSBメモリーなどの外部ストレージへの対応や、デスクトップと同じウェブブラウザーを搭載するなど、パソコンでできていたのにiPadでできなかったことを徹底的につぶすアップデートを施した。

アップルは2016年3月に発表したキーボードに対応するiPad Pro 9.7インチモデルを通じて、「6億台ある5年以上経過したPCの買い替え需要」をターゲットにするというマーケティングゴールを示した。そして2018年10月にiPad Proを発表する際、タブレットとしてではなく「ポータブルコンピューター」として、4000万台を超える世界最大の販売台数であると指摘した。

こうしたゴールを2019年に実現してきたことになる。

iPadの武器は「キーボード」

3万4800円のiPadは、A10 Fusionチップは据え置かれたが、メモリーは1GBの3倍となる3GBに増やされ、複数アプリを同時に操ったり、アプリ切り替えの際の快適性を高めている。またこれまでの9.7インチから10.2インチへとディスプレーサイズが拡大し、こちらもマルチタスクの生産性に寄与する。

しかしサイズ拡大の理由は、Smart Keyboardへの対応だ。

これまでの廉価版iPadにはSmart Connectorがなく、アップルが用意するケースを兼ねるSmart Keyboardが利用できなかった。第7世代iPadでSmart Keyboardに対応させるためにアップルが採った策は、10.5インチiPad Airと横幅をそろえ、既存のSmart Keyboardをそのまま利用できるようにすることだった。アクセサリーに本体を合わせるというのもユニークだ。

iPadとSmart Keyboardは磁石で吸い付き、画面を立てるように溝に装着すると、キーボードが使えるようになる。オン・オフなどはなくシンプルだ。キーのサイズも十分で、快適にタイピングすることができる。バックライトは搭載されていないため、消灯後の飛行機で正確に入力するには、数字や記号も含めたタッチタイピングのスキルが必要になる。

iPad Airと比較すると、iPadは縦横のサイズは250.6ミリ×174.1ミリと同じながら、1.4ミリ厚く、27グラム重い。そして画面サイズはiPad Airより0.3インチ画面サイズが小さい。それだけでなく、液晶の画面表示が表面ガラスから少し奥まったところに映っている。これはiPad Airのフルラミネーションによる薄型ディスプレーではない、よりコストを抑えたRetinaディスプレーだからだ。

Apple Pencilに対応しているため、ペン先を落とした場所と描かれる線画、見る角度によってずれているように感じるかもしれない。9msというペンの反応速度や精度は変わらないが、よりよい書き心地や、精密なペン体験を求めるなら、上位モデルとなるiPad AirやiPad Proを選ぶべきだ。

しかし書類に直しを入れる際にわざわざ定規で線を引いたり、ミリ単位のズレを気にしないのと同じように、前述のような細かい体験の精密さが、iPadでの書類への赤入れや手書きメモに大きな影響があるとは言えない。店頭で双方を試してみるとよいだろう。

Microsoft Office製品やEvernoteで書類作成しながら画面分割でメールやSlack、Facebook Messengerといったコミュニケーションアプリを利用する、といった効率的な作業環境を実現でき、最小構成ながら十分快適に使うことができるコンピューターと評価できる。

キーボードをサポートした点で、文字入力を伴う文書作成やコミュニケーションは、これまでのiPadや手元のスマートフォンに比べて格段にスピードが上がった。

ペン主体なら「iPad mini」

iPadより小さなボディーながら、強力なプロセッサーを搭載し、価格も高く設定されているのが第5世代目となったiPad miniだ。iPhone XSと同じA12 Bionicチップを搭載し、機械学習処理だけでなく、4Kビデオ編集も軽々こなす性能を誇る。

またフルラミネーションと呼ばれる技術によってディスプレーを薄型化し、カバーガラスのすぐ近くに画面表示がなされる仕組みとした。加えて、広色域P3にも対応し、精細かつ発色豊かで、小さい画面ながら映像が迫ってくるような体験を実現している。

iPad miniは、203.2ミリ×134.8ミリというサイズで片手でも十分握ることができるほどのコンパクトさ。そして6.1ミリと非常に薄く、300.5グラムという軽さだ。

キーボードには対応しないため、画面内に表示されるキーボードを両手で操作するしかないように思われるが、日本語についてはフリック入力に対応するため、例えば両手で握りながら右手の親指で日本語を入力することもできる。慣れている人であれば、音声入力でもよいだろう。

とはいえ、積極的な文字入力に向かないことは確かだ。どちらかというと電子書籍や雑誌の閲覧や、電車の中で立っていてもビデオを大きめの画面で楽しめるデバイス、としての性格は、これまでのiPad miniと変わらない。

しかしポイントとなるのはApple Pencilへの対応だ。iPadとの比較で触れたように、iPad miniもフルラミネーションの薄型液晶を実装している。そのため表示とペン先のギャップも最小限に抑えられており、よりリニアな感覚でApple Pencilの描画を行うことができるのだ。

アップルが提供する文書作成アプリだけでなく、Microsoft Officeもペン入力にそのまま対応する。例えば記入が必要なWord文書にペンで書き込んで返送したり、PowerPointのスライドの流れをペンで下書きしてシェアする、といった活用は非常に手軽になった。いずれの場合でも、WindowsやMac、他のiPadユーザーと文書共有をすれば、チャットをしながら企画書やスライドを仕上げる、といったコラボレーションに最も身軽に参加できてしまう。

もちろんBluetoothキーボードを利用すれば、iPad miniでも快適な日本語入力を行うことができるが、iPad miniの活用はどちらかというとペン主体という位置づけがちょうどよい。ほかのサイズのiPadやパソコンよりもより頻繁に持ち歩くことを前提とした、パーソナルな情報端末としての活用がふさわしい。

「セルラーモデル」を選びたい

キーボードに対応するiPadは、「標準コンピューター」としての再定義によって、その位置付けを変えつつある。そうした中でiPad miniは、どちらかというと「ピュアなiPad」の活用方法を維持しているような印象すら覚える。

10.2インチのiPad、あるいはiPad miniを使うとしても、ぜひセルラーモデルを選んでおきたい。セルラーモデルにはnanoSIMカードを挿入でき、スマートフォンのテザリングやWi-Fiに頼らなくても、外出先で通信をすることができる。

iPadを毎日持ち歩きながら活用するとき、ふとしたときに最新のメールを確認したり、ウェブで調べ物をしたり、SNSやニュースをチェックするチャンスがある。そのときわざわざWi-Fiを探したり、スマホのテザリングをオンにするのは非常に手間だ。

例えば月額700円で3GB使えるいわゆる格安SIMを刺しておくだけでも、移動中のちょっとした利用の範囲であれば十分な容量だ。また自分のスマートフォンのプランに付随させても手軽だ。

ドコモの場合、毎月30GB使えるスマートフォン向けのギガホや、従量制のギガライトに月額1000円の「データプラス」を追加すると、スマートフォンとタブレットでデータを共有できるようになり、余裕を持ってデータを利用することができるようになる。しかも、ドコモのWi-Fiがあれば、iPadはSIM認証を使って自動的にログインするため、駅やカフェなどでコンテンツをダウンロードする際の手間も軽減されるだろう。

価格の安さとメインコンピューターとしての活用、100万本を超える専用アプリと、iPhoneとの連携。iPadを標準的な仕事道具として選ぶ環境は十分整っている。iPadに5割以上の仕事時間を任せられるのであれば、キーボード付きのiPadがよいだろうし、やはりノートパソコンを持ち運ぶが、iPadとApple Pencilを有効活用したいというニーズにはiPad miniという選択がよいだろう。