PCの新たな可能性を切り開く「Optane Persistent Memory」――「Intel Memory & Storage Day」レポート その2

Intelは9月26日、韓国ソウルでメモリやストレージに対する取り組みや技術などを紹介するイベント「Memory & Storage Day」を開催した。

Intelが提案する新しいメモリ階層モデル

IntelがMemory & Storage Dayを通じて繰り返し主張してきたのが、メモリ階層(Memory Hierarchy)の再構築の必要性だ。

現代のコンピュータ(ノイマン型)では、CPUが演算を行うための命令やデータは、記憶装置(メモリ)から送り込まれる。CPUがベストパフォーマンスを発揮するには、CPUの演算性能と同等以上の速度で、記憶装置から命令やデータが送り込まれる状態が理想だ。

極端なことをいえば、CPUの内部キャッシュのような超高性能メモリをHDD以上の容量で搭載することが理想といえる。しかし、現実的にはそのようなことは不可能だ。そのため、CPUに近い最上層に高性能なメモリ(キャッシュメモリ)を置き、下層に向かって徐々に性能を妥協しつつ、容量を増やしていく――これがピラミッド型の「メモリ階層」だ。

これまでは、上層からCPUの内部キャッシュ、DRAM(メインメモリ)、NAND SSD、HDDといった階層構造で何とかしのいできたが、それもそろそろ限界に近づいている。データの増大ペースにDRAMの記録密度向上ペースが追いつけなくなりつつあることによる「キャパシティギャップ」や、データ増大に伴う処理性能要求の向上に対しアクセスレイテンシの大きなNANDフラッシュメモリでは対応できない「パフォーマンスギャップ」が生じているのがその理由だ。

ここでIntelが提案するのが、Intelは「Optane Technology」を軸とした新しいメモリ階層の導入で、そのキーデバイスとなるのがOptane Persistent Memoryだ。

基調講演の冒頭に登壇したRob Crooke氏(Non-Volatile Memory Solutions Groupシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャ)。Intelの戦略の概要を語った

データセンターにおける従来のメモリ階層モデル。DRAMとNANDメモリの間には深刻な容量とパフォーマンスのギャップが存在する

データの増大がコンピューティングパワー、ストレージ容量、ネットワーク性能を押し上げていることが大きな要因だ

クラウド、AI/リアルタイム分析、IoT(モノのインターネット)、エッジコンピューティングといったメガトレンドが処理するデータ量の増大を後押ししている

イノベーティブな「Optane Persistent Memory」と「Optane SSD」はDRAMとNANDメモリの間のパフォーマンス/容量ギャップを埋める

ストレージもより大容量かつ高性能が要求されている。IntelのQLC 3D NANDメモリがそのコストパフォーマンスギャップを埋める

Intelが考えるデータセンター向けメモリ階層モデルの完成形

現行クライアントPCのメモリ階層モデル

Intelが描く、近い将来のクライアントPCのメモリ階層モデル。高コストパフォーマンスのQLC 3D NAND SSDがHDDを置き換えると共に、Optane Persistent Memoryが新しい体験を提供する

Optane Mediaのポテンシャルをフルに生かせるPersistent Memory

Optane Persistent Memoryは、DRAMより低コストでNANDフラッシュメモリよりも数倍低レイテンシのOptane Mediaを搭載したデバイスだ。DDR4規格のDIMMとピン互換のフォームファクターとインタフェースを利用する。

「ストレージデバイス」であるOptane SSDとの決定的な違いは、システム上で「メモリデバイス」として認識させることが可能なこと。つまり、アプリケーションが、ソフトウェアのレイヤーを介さずにダイレクトにアドレスを指定してアクセスできる。

アプリケーションがストレージデバイスにアクセスするには「ストレージスタック」と呼ばれる数層のOSのソフトウェアレイヤー(ファイルシステム、デバイスクラス、ポートドライバなど)を経由する必要があり、これが大きなオーバーヘッドとなる。

ストレージスタックの回避によるレイテンシの低減効果――低レイテンシで高耐久、小さい単位でのアクセスも高速という、Optane Mediaの記憶素子としてのNANDフラッシュメモリに対する原理的な優位点も大きな意味をもってくる。

基調講演に登壇したKristie Mann氏(Data Center Groupシニアディレクター)。データセンターにおけるOptane Persistent Memoryのメリットやロードマップを示した

同じく基調講演に登壇したMohamaed Arafa氏(Data Center Groupシニアプリンシパルエンジニア)。Optane Persistent Memoryの技術面を解説した

Optane Persistent Memoryの特徴

Optane Persistent Memoryは64B単位でアクセスが可能だ

Optane Persistent Memoryは、ハードウェアとしてのレイテンシが極めて低いことに加え、ソフトウェアレイヤー層(ストレージスタック)を経由しないアクセスが可能なため、ソフトウェアレイテンシもかからない

「Memory Mode」と「Application Direct Mode」の2種類がある。前者はDRAMをキャッシュとして使い、後者はアプリケーションからDRAMとOptane Persistent Memoryそれぞれに直接アドレスを指定してアクセスできる

Optane Persistent Memoryは、NANDメモリに比べて最大1000倍レイテンシが低い

データセンター向けOptane Persistent Memoryシステムのロードマップ

Persistent Memoryの“Persistency(永続性)が新たな可能性を開く

Optane Persistent Memoryの革新性は、NANDメモリよりもはるかに低レイテンシなデバイスであることに加えて、文字通り「Persistency(永続性)」を持つことにある。通電しなくともデータを保持できる不揮発性メモリでありながら、「メモリ(主記憶装置)」と同じような使い方ができるのだ。

メモリが永続性をもつことで、これまでにない運用が可能になる。分かりやすいメリットの1つが「SAP HANA」などに代表される「インメモリデータベース(IMDB)」だ。メモリ上にデータベースを構築し、低速なストレージアクセスを省くことで高速応答を可能にしたスタイルである。

IMDBでは文字通りメモリ上にデータベースを構築するため、DRAMシステムでは、電源を落としたらその内容は消え、再起動時にはストレージからデータベースファイルを読み出し、再構築することが必要になる。規模が大きくなればなるほどに、その時間はかかることになる。

一方、Optane Persistent Memoryシステムでは電源を落としてもメモリ内データベースの内容が消えないので、再構築不要ですぐにサービスを再開できる。Optane Persistent Memoryは、DRAMよりも低コストなため、大容量データベースを低コストで構築できるというメリットもある。

この他、超メニーコアCPUを生かした高密度仮想マシンサーバ用途や映像配信サーバのキャッシュ用途としてのアドバンテージなども紹介された。

Optane Persistent Memoryと他のメモリ/ストレージとの特性の違い

不揮発性でありながらメモリとして動作するため、インメモリデータベースで大きなメリットがある

REDISの実装例。キーをDRAM、バリューをOptane Persistent Memoryに。不揮発性なため、全バリューをSSDに書き出す必要はなく、ポインタのみを書き出す

現行DRAMの記録密度やコストでは難しい大容量も、Optane Persistent Memoryならば可能だ。超メニーコアCPUを生かして仮想マシンの密度を上げることができる

例えば、28コアCPUを2基搭載したシステムで28基の仮想マシンを立てるにはメモリが1.5TB必要だが、CPU使用率は25%以下で、CPUリソースを持て余している

Optane Persistent Memoryを6TB搭載すれば、SLA(サービス保証レベル)の範囲内で112基の仮想マシンを立てることができる

単純に容量が大きいほど有利な映像配信サーバのキャッシュには、DRAMに近いレイテンシで低コスト大容量が可能なOptane Persistent Memoryのコストパフォーマンスがダイレクトに生きるというデモ。デモエリアの説明員によれば、DRAMのみのシステムと同じコストで2倍のキャッシング容量を持つサーバが構築できるという

これはインメモリデータベースの再起動時間の比較デモ。左のOptane Persistent Memoryシステムは19秒で終わっているのに対し、右のDRAMシステムは終わる気配がない。説明員によれば、10分程度で終わるだろうということであった

データセンターにおけるOptane Persistent Memoryのパフォーマンス、あるいはコスト面のアドバンテージ

デモエリアに展示されていたOptane Persistent Memory

クライアントレベルでの応用に向けた動きも着々

大いなる可能性を秘めるOptane Persistent Memoryだが、Intelはクライアント製品への応用にも動いている。既にワークステーション向けは開発段階にあり、間もなく実用化されることがアナウンスされている。

Optane Persistent Memoryを活用するには、OSとアプリケーションの対応も必要になるが、IntelはMicrosoftやHPなどのベンダーと協力して着々と準備を進めている。

基調講演では、Optane Persistent Memory向けに修正したツールのデモ映像が紹介された。3DCGツール「Blender」の起動時間は4分の1に短縮、プロジェクト作業中にツールを終了させて再度プロジェクト読み込んだ後にUNDO処理ができるという、不揮発性メモリならではの特性を生かしたデモが行われた。

ゲームでのメリットとして、Optane Persistent Memory向けに修正したタイトルが約半分の時間でロードが完了するというデモも披露された。

Windows 10 Pro for Workstationsを使った、Optane Persistent Memoryのデモ機

DIMMソケットの一番内側(CPUに近いソケット)に搭載されているのがOptane Persistent Memoryだ

ワークステーション向けのSpec Workstation 3.0.1のテスト結果。左がOptane Persistent Memoryシステムで、右のIntel 905PのRAIDシステムの数倍のスコアをマークした

システムのプロパティ。535GBがメモリとして認識されている

デバイスマネージャの画面

Optane Persistent Memoryは、クライアントでもアドバンテージを発揮できるという

SIGGRAPH 2019でHPの協力を得て披露したワークステーションのデモが映像で改めて紹介された

Blenderの起動時間の比較。右がOptane Persistent Memory用に修正したバージョン

Blenderのプロジェクト作業中にツールを終了。再度プロジェクト読み込んだ後もUNDOバッファの内容が生きており、UNDO処理ができるという不揮発性メモリならではの特性を生かしたデモが紹介された

「DOOM」のロード時間の比較。右がOptane Persistent Memory用に修正したバージョンで半分近い時間でロードが完了している

ワークステーション向けは間もなく登場予定で、クライアントPC向けの実用化の実現に向けても動いている

4層技術で記録密度が2倍に、ニューメキシコに新製造拠点も

Memory & Storage Dayでは、Optane Persistent Memory以外にも、Optane Technologyに関するトピックが幾つかあった。

Optane Technologyのベース技術である「3D XPoint」のメモリセルアレイは、交差するビットライン(Bit line)とワードライン(Word line)の間にメモリセル/セレクタを実装する構造をとる。現行のビットラインの上と下にメモリセルがある2層構造を2つ重ねた4層構造とすることで、記録密度を2倍にできる次世代技術の開発を進めているという。

データセンター向け製品では、開発コードネーム「Alderstream」として次世代のOptane SSDが開発中であることもアナウンスされた。公開された情報によると、これまで以上に大きなパフォーマンスアップをしており、同じ世代のクライアント向けモデルにも期待が高まる。

さらに、米国ニューメキシコ州リオランチョの施設での新しいOptaneの技術開発ラインの稼働計画を公表し、今後もOptane Technologyの開発を継続していく姿勢を示した。

Optane Mediaは、NANDフラッシュメモリとは全く異なる新しいアーキテクチャ(3D XPoint)の不揮発性メモリだ

3D XPoint/Optane Mediaの半導体構造。2層構造のメモリセルアレイを挟み5層のメタルレイヤーが積層されている

現行2層構造のメモリセルアレイを4層とすることで、記録密度を2倍にする次世代技術の開発も進めている

Optane SSDは、NAND SSDに対して大きなアドバンテージがある。これは現行のデータセンター向け製品での比較。ランダムアクセス性能はQD1で6.5倍、QD16でも5.5倍にもなる

開発コードネーム「Alderstream」として開発中のデータセンター向け次世代Optane SSDは、さらに性能がジャンプアップしているという

次世代データセンター向けOptane SSD「Alderstream」は、特にマルチスレッドでの性能に優れるという

ニューメキシコの工場でのOptane Media製造計画をアナウンス。将来的にもOptane Mediaへの投資を継続していく姿勢を示した