マイクロソフトが「Android」を選んだことは「Surface Duo」より画期的だ

先週、Microsoftは独自スマートフォンの開発に復帰したことを明らかにし、70億ドルで買収したNokia事業を4年前に減損処理してから初となる自社製スマートフォンを発表した。その際、同社は期待に沿う多くのことを語った。2つの5.6インチスクリーンを搭載し、2020年に発売予定だという新しい「Surface Duo」を使えば、いかに生産性を高められるかについて説明した。このデバイスはコンピューターとスマートフォンの世界をより一層シームレスに融合するという。

MicrosoftのModern Life, Search and Devices Group担当コーポレートバイスプレジデントのYusuf Mehdi氏は、インタビューで次のように語った。「われわれはこれらのデバイスのことを、単なる製品ではなく、デュアルスクリーンコンピューティングという新たなカテゴリーの始まりだと考えている。われわれは、技術革新の新しい波の始まりにいるのだ」。

だが、(価格はまだ不明の)その魔法のデバイスに搭載されるOSは、世界中のコンピューターの10台中8台近くに搭載され、独占的な地位を占めている、Microsoftの「Windows」ソフトウェアではない。Surface Duoが採用したのは、Windowsではなく、4台中3台のスマートフォンに搭載されている、世界で最も人気の高いモバイルOSであるGoogleの「Android」だ。

「ポケットに収まるサイズで、電話をかけたり、アプリを実行したりできるデバイスを提供するのなら、Androidを選ぶのは自然なことだった」(Mehdi氏)

その選択は、私たちが何年にもわたって目撃してきたことをMicrosoftが認めたことを意味する。今から10年前、モバイルソフトウェア市場は活況を呈しており、NokiaやBlackBerry、Danger、Palm、Microsoftのソフトウェアを搭載するデバイスが販売されていたが、この市場はAppleとGoogleによって一変した。AndroidとAppleの「iOS」に対して、まともに生き残っているライバルはサムスンの「Tizen」のようなサイドプロジェクトだけだ。とはいえ、サムスンも主力のスマートフォンでは依然としてAndroidを利用している。中国のテクノロジー大手、華為技術(ファーウェイ)がGoogleの米国製ソフトウェアへの依存を減らすために必死になって開発している「HarmonyOS」もある。

MicrosoftがAndroidを採用したことは理にかなっているので、それほど意外なことではないかもしれない。Statcounterのデータによると、現在、テクノロジーの世界では、AndroidがMicrosoftのWindowsよりも広範に使用されているという。データでは、5月にAndroidがWindowsを追い抜いた。

気になっている人のためにお伝えしておくと、Microsoftは報道陣に対して、Androidを当面使い続けると語っている。

Creative StrategiesのアナリストであるCarolina Milanesi氏によると、「それは、Microsoftが賢明になっている」ことを示しており、カメラアプリや電子メール、検索など、「自分たちが競争できる分野に参入して競争している」のだという。「現在、同社がやっていることの多くは順調だ」(Milanesi氏)

長年の取り組みがついに結実

自社のソフトウェアのおかげで世界で有数の著名企業になったMicrosoftは、5年前からこの瞬間に到達するための準備を進めてきた。

その兆候が現れ始めたのは、Microsoftが人気の高い「Office」ソフトウェア(「Word」「Excel」「PowerPoint」)の無料ダウンロード版をAppleやGoogleのOSを搭載するデバイス向けに発表した2014年のことだ。Microsoftがそうした動きに出たのは、新しい最高経営責任者(CEO)にSatya Nadella氏を任命してまもなくのことだった。Nadella氏は、自社を蝕むことにもなった企業文化を破壊し、Microsoftが重視するすべてのものにWindowsを搭載するという、古い企業理念を捨て去ることに自身のキャリアを捧げた。

Nadella氏は2018年のインタビューで、「ここにいるのは、自分がクールになるためではなく、ほかの人たちにクールになってもらうため。重要なのは結果だ」と語っている。

Microsoftはこの数年間で、特にAndroidに関して、より長足の進歩を遂げた。「Your Phone(スマホ同期)」アプリは、Androidスマートフォンの情報をWindows PCにミラーリングすることで、ユーザーがそれらのデバイス間で写真をドラッグ&ドロップして同期できるようにする。さらに、PCでテキストメッセージに応答できるほか、PCからスマートフォンを制御することも可能だ。

そうした取り組みを進めていたMicrosoftは、数十億ドルでNokiaを買収した1年後の2015年に、その買収には基本的に価値がなかったことを認め、7800人を解雇した。

Nadella氏は当時、「われわれは、単独のスマートフォン事業を成長させる戦略から、自社製のデバイス群を含む力強いWindowsエコシステムを創出し成長させる戦略への移行を進めている」と語っていた。

同氏は、高い評価を得ていたMicrosoftの「Windows Phone」ソフトウェアが実際にはほとんど売れていなかったことには言及しなかった。Windows Phoneは、ペンで操作するポケットコンピューター向けに設計された1996年の「Windows CE」、2000年の「Windows Mobile」に続くタッチスクリーン対応OSとして2010年にリリースされた。

Windows Phoneで、Microsoftは刷新を求め、AppleやGoogleと全く異なるデザインを提供した。例えば、ホーム画面上には、通常、アプリのアイコンが格子状に並べられるが、Microsoftはこのデザインからの脱却を図った。Windows Phoneでは、アプリのアイコンが入ったボックスが採用され、ボックスの画像が上下に動いて、情報の一部(ニュースの見出しなど)が表示されるようになっていた。

Microsoftができなかったのは、アプリ開発者に対して、AppleとGoogleだけでなく、Microsoftのスマートフォン向けにもアプリを構築しようと思わせることだった。

米CNETのAndrew Hoyle記者は2015年、Microsoftの最後のスマートフォンの1つに関するレビュー記事で、「Windows Phoneのアプリの品揃えは依然として非常に限定的だ。筋金入りのWindowsファン(そうなる理由はあるのだろうか)でないのなら、AndroidやiOSを選んだ方がより上質なモバイル体験を享受できるだろう」と述べている。

業界を推進するテクノロジー

Microsoftの「Surface」ブランドのデバイスは、再起の機会を提供する。

例えば、同社のノートPCやタブレットのデザインは革新的であると賞賛されている。Microsoftのヘッドホン分野への進出も、米CNETでオーディオを専門とするDavid Carnoy記者から高く評価された。

Carnoy記者は2018年、「Surface Headphones」に初めて手を触れる独占的な機会を得て、「MicrosoftのSurface Headphonesは、ユーザーが高級なノイズキャンセリングヘッドホンに期待する性能を備えている」と述べている。Microsoftの「Cortana」がGoogleやAppleの音声アシスタントよりも劣っていることについては批判を展開したが、これについても、Microsoftはユーザーの声に耳を傾け、この1年間にCortanaとAmazonの人気の高い「Alexa」とのつながりを強化した。

問題を抱えていたサムスンの1980ドルの「Galaxy Fold」と、現時点でまだ発売されていないファーウェイの「Mate X」に代表される新興の折りたたみ式スマートフォン市場において、MicrosoftはSurfaceブランドのスマートフォンで、説得力のある、独自の解釈を加えた製品を提供したいと考えている。半分に折りたためる単一の大型スクリーンを搭載するサムスンやファーウェイのアプローチと異なり、MicrosoftのSurface Duoは、連携する2つのスクリーンを備える。

Microsoftの最高製品責任者(CPO)のPanos Panay氏は、10月2日のイベントでSurface Duoについて、「この製品は、Microsoftの最も優れた部分を集約したものだ。われわれはGoogleと提携して、Androidの最も優れた部分を1つの製品に詰め込んでいる。これは業界を推進するテクノロジーだ」と語った。

それが現実になるかどうかは、これからの1年で何が起こるかにかかっている。Microsoftによると、Surface Duoスマートフォンと、(スマートフォンではない)大型の折りたたみ式モバイルデバイス「Surface Neo」の発売は2020年になる見通しだという。同社はそれまでの時間を利用して、アプリ開発者と協力し、同デバイス向けのユニークなプログラムを開発する計画だ。

「Microsoftはそれを実現するためのリソースを持つ数少ない企業の1つだ」。Moor Insights & StrategyのアナリストであるPatrick Moorhead氏は、自身の使用しているサムスンのGalaxy Foldスマートフォンから、筆者にそう答えてくれた。Moorhead氏は、2020年の発売時にSurface Duoも購入するつもりらしいが、その理由の1つは、Surface Duoがきっかけとなって、新たな分類のデュアルスクリーンスマートフォンが登場すると考えていることにある。「折りたたみ式スマートフォンの体験を、きちんとしたものにすること。Microsoftはそのための能力を示している。Surfaceチームは、それを理解していることを証明してきた」(同氏)