iPhone 11 Proのカメラのすごさはここにあった

従来の広角+望遠……といっても、26mm相当と52mm相当なので、広角+標準といった方がしっくりくるけど、「うちのiPhoneは広角と標準なんです」といってもカメラを知ってる人以外には何がなんだかって感じなのでまあ「望遠」といっちゃっていい。

その広角と望遠に超広角が加わった。

律儀に倍々にしてるのがまたいい。超広角は13mm相当なので、広角カメラを1xとして、0.5x→1x→2xというきれいな3段階になった。

仕事・趣味がら超広角でその場を広く捉えておきたいことが多いので、そのために超広角レンズを1本持っていくことが多いのだが、iPhoneが超広角カメラを搭載してくれたおかげで、デジタル一眼の品質が必要な時以外は、その必要がなくなったのだ。

これだけの画角差があるってのがうれしい。

この超広角カメラ、周辺の歪みは非常にわずかで、とても使いやすい。デジタル補正がどのくらい入っているかは不明だが(それなりに補正してるはず)、このクオリティーなら使える。

センサーサイズが小さいので高感度時はつらいしパンフォーカスだけど、あまり気にならない。

ほどよく補正が入っているおかげで、デジタルズームを組み合わせて、0.5×からシームレスにズームレンズのように使えるのもいい。

スマートフォンに市場を奪われた普及型コンパクトデジカメが30×、40×と望遠にズーム倍率を伸ばしている昨今、望遠側はスルーして広角側に広げてきたのが面白いところで、それ、すごく正しい方向だと思うのである。

昔からコンパクトデジカメは望遠より広角に広げるべきだと思ってたのだけど、それを実現したのは2016年に登場したカシオの「ZR-4000」シリーズだった(広角端が19mm相当で、すごく楽しませてもらった)。残念ながらカシオがデジカメ市場から撤退しちゃったので後継機はなく、もう一つニコンが「18-50DL」という18mm相当スタートの超広角系高級コンパクトを発表したが、発売中止となって市場には出なかった。

で、2018年秋に中国HUAWEIが「Mate 20 Pro」に16mm相当の超広角カメラを搭載して以来、ハイエンドコンパクトに超広角カメラを搭載するトレンドができたのだからやはり時代は超広角を求めていたのだ。

iPhoneのカメラはデジタルカメラとは別の進化を始めた

でも超広角カメラを搭載したこと以上に注目したいのが、カメラ自体の進化。

ボディを薄く保たねばならない上にカメラを3つも搭載するのだから(インカメラを入れたら4つだ)、どうしても小さなイメージセンサーしか載せられないし、光学性能を上げるにも限界がある。

特に逆光耐性に関してはレンズフードを付けたいくらいなんだけど、iPhoneにレンズフード付けたらスマートフォンサイズじゃなくなるし(どっか折り畳み式レンズフード付ケースとか出さないかしら、とは思ってるけど)。

「メカシャッターを付けられない」「絞り機構を付けられない」(GALAXY S10は唯一2段階絞りを搭載しているけど)のもサイズ的な制約だろう。

そこをデジタル画像処理で補うのだが、そこの進化が良いのだ。

以前より、レスポンスが良くてほしいタイミングでさっと撮れることが多く、写りも安定してるので利用頻度が増えたのである。

そういう視点で、iPhoneのカメラがいかにして本職のカメラに近づき、独自の道を進むに至ったかを見ると実に面白い。

メカシャッターを付けられないと電子シャッターに頼ることになるが、高速に動く被写体を撮ったときの歪み(いわゆるローリングシャッター歪み)が出る、などの欠点がある。

そこはセンサー技術の進化で補っている。ソニーの得意なジャンルだ。センサーからの読み出しを高速化し、歪みをぐっと減らすことで、違和感がなくなった。

電子シャッターはメカ動作がないため、高速読み出しが可能なセンサーがあれば超高速連写が可能になる。そうすると連写+合成によるHDRも進化する。

当初iPhoneに搭載されたHDRは「構図に動体が入っているとそれが残像のように複数重なって不自然な絵になって」いた。例えば、木の葉が風で揺れるだけでそこがブレて写っていた。

だから、HDRオンオフ両方の画像を保存するオプションが不可欠だった。

今のiPhoneは「スマートHDR」と称して、常時露出を変えた連写を行い、必要な時だけHDR処理をするという技を(詳細は公開されていないがおそらくは)使ってる。

iPhone XSでは「スマートHDR」をオンにしても「オフ時の画像も記録する」というオプションを持っていたが、iPhone 11 Proではそのオプションがなくなり「スマートHDRオンオフ」のみになった。

スマートHDRをオンにしておけばユーザーはいつでも適度にHDRがかかった写真を撮れる。

スマートフォンのセンサーはサイズが小さいためダイナミックレンジも低いのだが、そこを補っているのだ。

ユーザーはその辺全然気にしなくて良いのがいい。

例えば次の写真。左がデジカメ(それもそれなりのミラーレス一眼)、右がiPhone 11 Proで撮ったもの。

iPhoneは「スマートHDR」のおかげで空が白トビしないで済んでる。

すごいもんだよねえ。

これなんか、短いトンネルから撮ってるんだけど、トンネル内に露出を合わせたら、外はほぼ真っ白になるはずなのになってない。

まあ、写真を見慣れてる人がみたら「あ、HDRだ」ってすぐ分かる不自然さはあるけれども、iPhoneでしか写真を撮らない人からすれば、こっちが当たり前の写りになっちゃうのだ。

で、HDRは露出を変えながら超高速連写して合成してるといったけど、これ、iPhone 11 Proのカメラは常時やってるのである。いつその機会がきてもいいようにシャッターを押してないときすら映像を捉えている。

もう一つ面白い例を。

詳細は公開されてないので想像だけど、iPhone 11 Proは「シャッターボタンを押した瞬間の写真を記録してる」わけじゃない。

撮影するときって、カメラが捉えた光を画像に変換してそれをモニターに表示したものを見ながら撮ってる。その構造上、絶対に若干のタイムラグが発生する。だいたい0.15秒前後くらい。

だから、常に0.15秒前後後の映像を見ながら撮影してるので、画面を見ながら撮るとその分タイミングがずれる……はずである。

でもiPhone 11 Proだとそうはならないのだ。これ、iPadの画面でストップウォッチを動かし、05.00の5の字が見えた瞬間にシャッターを切ってみたもの。そうすると、さっきのタイムラグ+人間の反応タイムラグがあるので、まあ早くても5.2〜3秒くらいの値が撮影されるはずだが、実際に撮れた瞬間の一つがこれ。

もちろん、iPhoneの画面の方だけを見ながらシャッターをタップしてる。面白いよねえ。

ちなみに同様の条件でiPhone 7 Plusで撮ってみたら、5.4秒くらいのだったので、明らかにiPhone 11 Proの方が速いわけである。

あらかじめ、画像をバッファに記録していて、シャッターを切るとタイムラグを見越した瞬間の画像を記録してるってことなのだろう。

いやはや面白いことをするものだ。

もう一つ、分かりやすい例でいうと、iPhone 11から搭載された「ナイトモード」。

これも露出を変えながら複数枚撮影して、それを合成することでダイナミックレンジが広い、華やかで明るい夜景を撮ってくれる機能。撮影時間が1秒とか2秒とかかかるけど、実際にその秒数のスローシャッターになっているわけではなくて、1/4秒とか1/15秒とかで撮って合成してるのだ。2秒あれば1/4秒の写真を8枚撮れるからね。

どうしてもISO感度を上げるとノイズが増えるけど、ランダムなノイズは「同じものを撮った複数の写真」を重ねることで消すことができる。だから露出を変えたもの数枚と、変えてないもの数枚を上手に合成してるんだと思う。それでノイズが少なくて華やかな夜景を撮れるのだ。強い点光源があるとそれが内部で良くない反射をして在らぬ所に光の点が写っちゃうという欠点はあるけれども、それを除けば素晴らしい。

ただし、超広角カメラだとナイトモードは使えない。

デジタルならではの超絶な進化としては「写真の外側も残す」機能も挙げたい。

最初、何をやってるのかと思ったもの。実際に撮影される構図の外側が半透明でかぶってる。

これは広角カメラと超広角カメラの画像を合成して、実際に写る範囲の外側も見せてくれているともの。

普通、その発想自体がないのだけど、より高速な処理が可能になったからできる技だ。

ついでに、外側も同時に記録する(つまり違う画角の写真を2枚保存する)ことで、撮った後から構図をいじることができる。

まあ足りない部分をより広角側のカメラの画像で補うのでそこはディテールの描写力が落ちるけど、端っこがちょっと荒れても使用上は気にならない(大きくプリントしたり超大画面の4Kテレビなんかに表示したら分かるだろうけど)。

試しに、冒頭で出した広角カメラ写真の作例から、iOS13のカメラアプリを使って構図を変えてみた。もと写真で足りなかったところは超広角カメラでの画像を使ってるわけだ。実にうまいことつながってる。拡大して見ると途中からちょっと荒れてるのが分かる程度。

ちなみに、「構図の外側の画像」は30日だけ保持される。ストレージ消費が激しいことからできた制限かと思うが、将来は全カメラの画像を全部記録して溜め込んでいく方向に向かうのは間違いないかと思う。

iPhone 11 Proは「A13 Bionic」チップを搭載し、より高度で複雑な演算をリアルタイムでこなしてくれる。それを駆使してデジタルならではの処理を行い、ダイナミックレンジを広くしたりタイムラグをなくしたり、さらには顔検出や動物検出、それに応じた画像処理を行うことで、物理的な制約で上げられない性能を補い、デジタルならではの画作りを実現しているのだ。

実はこの稿、デジタルカメラユーザー視点でiPhoneカメラを語ってほしいというテーマなのである。

そういう目で見ると、従来のカメラではあり得ないデジタルならではのアプローチをどんどん組み込んできてるってのが目に付くのだ。

AIや機械学習が可能な超高速演算が可能なプロセッサーを搭載し、デジタル技術を容赦なく突っ込むことで、デジタルじゃなきゃできない写真を作るという方向はどんどん進み、本職のカメラとは異なる、本職カメラではできない方向に進化を遂げていくのだろうなと思うのと実に面白い。