Core i7-9700KFとRyzen 7 3700Xのゲーム性能を徹底比較

いわゆるゲーミングPCにおいて、ゲーム性能を最も大きく左右するのはビデオカードだ。とはいえ、他のPCパーツがなんでもいいというわけではなく、最終的なゲームのフレームレートはCPUの性能やメモリーの動作クロックによっても左右される。どれだけの差がつくかはゲームタイトルによって変わってくるものの、本当に快適なゲーム体験を志向するのであれば、ビデオカード以外のPCパーツにも気を配るべきだろう。

“ゲームに適したCPU選び”に的を絞って言えば、現在までかなりの長期間にわたって「ゲーミングPCならIntel製CPU」という時代が続いてきた。しかし、今年7月に「ゲーム用途でもIntel製CPUに匹敵するパフォーマンスを発揮できる」という謳い文句で登場したのが、AMDの第3世代Ryzenだ。第2世代以前のRyzenはPCゲームにおける性能が弱みと見られていただけに、このようなプロモーションは話題を呼んだ。

しかし、「Intel製CPUに並ぶ」という謳い文句は、やや意地の悪い言い方をすれば「ゲームではIntel製CPUに勝ちきれなかった」ということでもある。実際のところ、本当に第3世代Ryzenは第9世代Coreプロセッサーに比肩できるゲーム性能を備えているのか気になるところだろう。

というわけで、本稿ではIntelの第9世代Coreプロセッサーから「Core i7-9700KF」(実売価格は税込みで4万2800円前後)、AMDの第3世代Ryzenから「Ryzen 7 3700X」(実売価格は税込みで4万3000円前後)の価格帯が近い2製品をピックアップし、PCゲームにおける性能を比較していく。

GPUにはRTX 2080 Tiを用意、メモリーはDDR4-3200で統一

Core i7-9700KFは8コア/8スレッド、Ryzen 7 3700Xは8コア/16スレッドのCPUで、ともに定格クロックは3.6GHz、最大クロックはCore i7-9700KFが4.9GHz、Ryzen 7 3700Xが4.4GHzとなる。論理スレッドの多さからクリエイティブ系の作業ではRyzen 7 3700Xが優位に立つが、ゲーム用途では動作クロックの高さが効く場面が多く、Core i7-9700KFの5GHz近いクロックは大きな強みとなる。

先に述べた通り、こうした要素がどのようにフレームレートを左右するかはタイトルの最適化状況によるところも大きいため、今回は10タイトルのPCゲーム、ベンチマークでそれぞれのフレームレートやスコアーを比較した。

検証環境は以下の通りで、ビデオカードは現行最速のGeForce RTX 2080 Ti搭載モデルを用意し、極力CPU性能の差が出る顕著に表われる状況にした。ドライバーバージョンは原稿執筆時点で最新の「436.15」だ。また、メモリーの動作クロックがベンチマーク結果に少なからず影響を与えるため、Intel環境とAMD環境のどちらでもDDR4-3200で統一している。

ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク

まずは定番のゲーム系ベンチマーク「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」の結果を見ていこう。画質プリセットは「最高品質」、フルスクリーン設定で解像度はフルHD(1920×1080ドット)、WQHD(2560×1440ドット)、4K(3840×2160ドット)で計測した。また、レポートで出力できるフレームレートも掲載する。

フルHDとWQHDのテストでは、Core i7-9700KFのスコアーが約13%上回っており、同じビデオカードを使ってもかなりの差がついていることがわかる。CPU負荷が低めのタイトルではシングルスレッド性能の高さがものを言うため、全般的にCore i7-9700KFが有利だ。

そもそもがあまり重くないゲームであり、どちらも十分なフレームレートが出ているため、どちらのCPUを使っても実際のプレイフィールに大きな影響はないと思われる。とはいえ、約10~15fpsの差はまったく無視するわけにもいかないだろう。

なお、4K解像度のテストではGPU性能がボトルネックになるため、スコアーやフレームレートに大きな差は生まれない。この傾向は他のテストでも概ね共通している。

FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク

「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」では、フルスクリーン設定で画質を「高品質」に固定し、フルHD、WQHD、4Kで計測した。なお、DLSS設定は無効にしている。

現行でもトップクラスの重量級タイトルということもあり、WQHDと4Kではスコアー差がそれほど見られないが、フルHDではCore i7-9700KFが約10%高くなり、それなりの差がついていると言える。「NVIDIA GameWorks」を利用した2つのFF系ベンチマークは、Core i7-9700KFが有利と言って差し支えないだろう。

PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS

ここからは実際にゲームプレイ中のフレームレートも見ていこう。人気のバトルロイヤルゲーム「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」(PUBG)では、画質プリセット「ウルトラ」を選択し、フルスクリーン設定で解像度はフルHD、WQHD、4Kの3通り。マップ「Erangel」での1分間のリプレイを再生した際のフレームレートを「Fraps」で計測した。

すべて同じコースを辿っているはずなのだが、フルHDでは平均フレームレートで31.6fps、最小フレームレートで9fpsと、やや不自然なほどの大きな差がついた。WQHDでの平均フレームレートもCore i7-9700KFが上回ったが、最小フレームレートではRyzen 7 3700Xが若干上で、4KではRyzen 7 3700Xが平均・最小ともに上回った。

この結果からはっきりした傾向は読み取れないが、「Erangel」は先日のマップリニューアル以降に計測結果が不安定になった印象もあるので、「こういうタイトルもある」程度に捉えておくのがいいかもしれない。もちろん、プレイする上では最小フレームレートで60fpsほしいところなので、4Kはどちらも不適格ではある……。

Far Cry New Dawn

続いてのタイトルは、「Far Cry New Dawn」だ。画質は「最高」、フルスクリーン設定で、ゲーム内ベンチマークモードを使用してフレームレートを計測した。

GPUがボトルネックになりがちの4Kベンチマークを除き、Core i7-9700KFのフレームレートが明確に高い。特にCore i7-9700KFはプレイ時の快適さに直結する最小フレームレートの落ち込みの少なさが顕著だ。そのため、このタイトルを安定した環境で遊ぶならCore i7-9700KFを選択するのがいいだろう。

World War Z

最新のCo-op系タイトル「World War Z」では、フルスクリーン設定で画質プリセットに“Ultra”、APIはDirectX 11を選択。ゲーム内ベンチマークモードで平均フレームレートと最小フレームレートを計測した。

いずれの解像度でもCore i7-9700KFがRyzen 7 3700Xより上のフレームレートを出している。4KでもGPUの処理にかなり余裕がある比較的軽めのタイトルなので、シングルスレッド性能の高さが有利に働いているのは間違いない。最小フレームレートが安定して高いのはこのタイトルも同じで、フレームレートの落ち込みの少なさが良好な結果に繋がっているとも言える。

Tom Clancy's The Division 2

では、DirectX 12対応の重量級タイトルではどういう結果が出るのか、「Tom Clancy's The Division 2」で確認してみよう。フルスクリーン設定で画質プリセットに「ウルトラ」、APIはDirectX 12を選択。ゲーム内ベンチマークモードで、各解像度のフレームレートを計測した。

このタイトルではRyzen 7 3700Xが健闘し、フルHDでこそCore i7-9700KFに負けるものの、WQHDと4Kでは若干上回った。マルチスレッド処理を生かしやすいDirectX 12系タイトルであることに加え、CPU負荷が比較的高めで、AMD CPUへの最適化が進んだタイトルであったことが主な要因だろう。

Shadow of the Tomb Raider

同じくDirectX 12対応のタイトル、「Shadow of the Tomb Raider」の結果はどうだろうか。フルスクリーン設定で画質プリセットは「最高」、APIはDirectX 12を選択。ゲーム内ベンチマークモードで、各解像度の平均フレームレートとCPUが処理するフレームレートの平均・最小値を計測した。

CPUの処理フレームレートはCore i7-9700KFがずば抜けて高い。しかし、平均フレームレートを見ると、GPU負荷の低いフルHD環境こそCore i7-9700KFが勝っているが、解像度が上がって描画負荷が高まるにつれて差はほとんどなくなっていく。フルHD環境でプレイするのであればCore i7-9700KFがオススメだが、それ以上の解像度であればどちらのCPUでも問題なくプレイできるだろう。

Forza Horizon 4

やや趣向を変えてレーシングゲーム「Forza Horizon 4」でも試してみた。フルスクリーン設定で画質プリセット「ウルトラ」を選択。ゲーム内ベンチマークモードでフレームレートを計測している。なお、ダイナミックオプティマイゼーションの設定はオフとした。

先にテストした「Far Cry New Dawn」に似た傾向で、フルHDからWQHDではCore i7-9700KFのフレームレートが高く、4Kではその差がだいぶ詰まった印象だ。フレームレートを見ればわかる通り、DirectX 12系タイトルではあるもののかなり軽めなので、Ryzen 7 3700Xの強みは生かされなかったのかもしれない。

Apex Legends

人気のシューター「Apex Legends」でも検証してみよう。画質設定はすべての項目を最も重くなるように設定し、フルスクリーンでトレーニングモードをプレイした際の1分間のフレームレートを「Fraps」で計測している。なお、フレームレートの上限はOriginの設定で無制限に変更している。

このタイトルではフルHDで拮抗。WQHDでは若干Core i7-9700KFが有利になり、4Kで再び結果が並ぶという、他のタイトルにはない傾向が見られた。なお、Ryzen 7 3700XのWQHDテストに関しては、複数回の計測時に連続して最小フレームレートが下振れした可能性もある。

Counter-Strike: Global Offensive

最後にAMDの資料でも言及のあった「Counter-Strike: Global Offensive」(CS:GO)を試してみた。画質はすべての項目を最も重くなるよう設定し、画面はフルスクリーンに。マップ「Dust2」のBot戦をプレイした際の1分間のフレームレートを「Fraps」で計測した。

今回試したタイトルの中では最古参のゲームだが、結果は「Apex Legends」に似たところがあり、WQHD時に最もフレームレートの差が大きくなっているのが面白い。Core i7-9700KFの最小フレームレートの落ち込みが少ないのは、どのテストでも概ね共通の傾向だ。

まとめ:ゲームに関しては依然として第9世代Coreプロセッサー強し

ここまで見てきた通り、10タイトル中「Tom Clancy's The Division 2」を除くほとんどのタイトルでCore i7-9700KFの優位性が確認できた。何度も言及しているシングルスレッド性能の高さに加え、多くのタイトルにおいて最適化がしっかり行なわれていることも要因のひとつだろう。

Ryzen 7 3700XはCPU負荷がそれほど高くないゲームではフレームレートを伸ばしにくいCPUなのかもしれない。16スレッドの強みはあるものの、それを生かせるタイトルが少ない、というのが正直なところだろう。現状では総合的に見て、ゲームに関しては依然として第9世代Coreプロセッサーが強い、と言って差し支えなさそうだ。

また、PC自作という観点で考えれば、第9世代Coreプロセッサーはオーバークロックできる「Intel Z390」搭載マザーボードが最安クラスで1万2000~3000円前後とお手頃になってきているのもポイントだ。第3世代RyzenはPCI Express 4.0が使える「AMD X570」搭載モデルだとまだ1万7000~8000円前後。最新機能は使えないものの互換性のある「AMD X470」搭載モデルでも、BIOSTAR製品以外は1万4000~6000円前後だ。

CPUの価格が拮抗している両者。ゆえに、プラットフォームを一新する自作においてマザーボードも含んだ相対価格を考慮しても、第9世代Coreプロセッサーに分があると言える。もちろん、今後の価格変動でこの差がどうなるのか見えないところもある。だが少なくとも、2019年10月1日に迫る消費税の引き上げ前にゲーミングPCを自作するつもりで、Core i7-9700KFとRyzen 7 3700Xで迷っているのであれば、Core i7-9700KFを選んだほうがコストパフォーマンスがいいことは確かだろう。