メモリーOCした際の第3世代Ryzenの性能や極冷環境での耐性などをチェック!

みなさんこんにちは、オーバークロッカーの清水です。前回は第3世代RyzenことRyzen 3000シリーズのオーバークロック(OC)性能に関して、「Ryzen 9 3900X」と「Ryzen 7 3700X」の2つのCPUを使ってチェックしました。今回は、さらにリテールクーラーの性能や、Ryzen 3000シリーズから実装された機能「Infinity Fabric Divider」、極冷環境での耐性チェックといった、追加検証結果を紹介します。

リテールクーラーの性能は?

Ryzen 9 3900Xに付属するリテールクーラー「Wraith Prism」の性能がどれ程のものなのかも検証してみました。4本の銅製ヒートパイプをダイレクトタッチ方式で搭載していたり、RGB LEDを搭載していたりと、付属品とは思えないCPUクーラーですが性能はどうでしょう。

付属グリスはクーラー取り外し時にCPUまで一緒に外れてしまう通称「スッポン」が発生しやすいので拭き取ってから、親和産業「OC Master SMZ-01R」に塗り替えてテストしました。皆さん落ちに期待していると思いますがスッポンはしていませんのであしからず(笑)。

計測条件はCINEBENCH R15を連続で10回実行した際の最大値と、Windows起動10分後の値を計測しました。計測時のCPUのOC設定は、動作クロックが4.4GHzでCPU電圧は1.40Vとしました。

Ryzen 7 2700Xから付属している「Wraith Prism」ですが、設計が8コアまでをターゲットとしているからか、定格状態でも高負荷時に91度と高い値を記録しました。そして4.4GHz時はすぐに100度に達してシステムがフリーズしてしまいます。12コアのRyzen 9 3900Xでギリギリなので発売が待たれる16コアのRyzen 9 3950Xだと、手動のOCでは厳しそうな気もします。CPUの個体差で発熱が変わるので断言は出来ませんけど……。

空冷クーラーはCRYORIG「R1 Ultimate」を試したかったのですが、メモリーと干渉したため「H5 Ultimate」を使用しました。AM4対応のV2がなかったためオプションのAM4マウントキットを使用しています。性能はV2も無印も同等なので問題ありません。

高性能な部類に入る「H5 Ultimate」ですが、それでもOC時には105度までCPU温度が上昇しています。上位モデルの「R1 Ultimate」にしても90度台半ばになると予想されます。

最も優秀だったのは360mmラジエターを搭載するThermaltake「Water 3.0 Ultimate」で、定格時に「Wraith Prism」よりも16度低い温度を記録しただけでなく、OC時においても88度と「H5 Ultimate」よりも17度低い温度を記録しました。

バラックでの検証なのでケースに組み込むと温度が変わるとは思いますが、空冷クーラーだとOC運用は厳しそうです。ヒートシンクがケース内の熱を吸いやすいので、OC運用したい場合はフロントに簡易水冷クーラーのラジエーターを吸気で設置するのが最適解だと思います。

メモリーOCの傾向はいかに?

CPU内のインターコネクトであるInfinity Fabricとメモリーのクロックが同期しているのがRyzen 2000シリーズまでの仕様でした。。しかし、Ryzen 3000シリーズでは「Infinity Fabric Divider」という機能が実装されて、Infinity Fabricの動作クロックをメモリーの半分にする事が可能となりました。この恩恵でDDR4-4000を超えるメモリーが簡単に動かせるようになりOC面でのRyzenのネガが1つ解消された訳です。

Divider機能有効時のInfinity Fabricの動作クロックですが、DDR4-4000時を例に挙げると1000MHz、DDR4-4400時だと1050MHzといった具合です。CPU-Zのメモリータブに表示されるメモリークロックの半分の値になります。

しかし、良い事ばかりではありません。CPU内の各部を繋ぐ大事な部分のクロックが下がるため、高クロックメモリーを使った分のパフォーマンス向上を打ち消したり、逆にパフォーマンスが下がる場合もあります。

AMD公式発表によると最もパフォーマンスが出るのがDDR4-3733とされていますが、多くのマザーボードではDDR4-3733を超えると自動でDevider機能が有効になってInfinity Fabricの動作クロックが半分になってしまいます。

GeekBench 3 ver3.4.2のメモリースコアーを複数の設定で計測してみたグラフです。まず注目してほしいのがDDR4-3733のスコアーです。Infinity Fabricの動作クロックがDivider機能が有効になって933MHzになった際は、手動で1対1の1866MHzに設定した際よりもマルチスコアーが約5.8%、シングルスコアーが6.4%低下しています。他の設定を見てもわかる通り、このベンチマークだとシングルスコアーの方がよりInfinity Fabricのクロックの影響を受けるようです。

次に注目したいのがDDR4-4000 CL18-20-20のスコアーです。これはIntel環境向けのTeam Group「XCALIBUR Phantom Gaming RGB DDR4-4000」を使った際のスコアーですが、なんとDDR4-3200のTeam Group「XCALIBUR Phantom Gaming RGB DDR4-3200」使用時のスコアーよりも低くなっています。

「Infinity Fabric Divider」が有効になった事が原因の1つというのは容易に想像出来ますが、それを加味しても明らかに低いスコアーです。原因はズバリ「相性が悪い」事です。Intel環境向けの高クロックメモリーの中にはRyzenとの相性が悪い製品も当然ながらあります。手動設定を行えば解決できますが、初心者の方はドツボにハマり易いので、お店で店員さんにRyzen環境でOCに向いているメモリーを確認してから購入した上、自己責任で行ないましょう。

同じメモリーを使用してASRock「X570 Taichi」に内蔵されているメモリーOCプリセットを有効にした際のスコアーをチェックしてみましょう。DDR4-4200 CL20-22-22というルーズな設定ですがマルチスコアーが6761、シングルスコアーが5862と大幅にスコアーが向上しています。

この設定のままDDR4-4400にメモリークロックだけを上げるとマルチスコアーが7058、シングルスコアーが6074と大幅にスコアーが向上しています。しかし、DDR4-3733設定と比べるとマルチは僅かに低く、シングルに至っては約2.1%低いです。

これらのデータから言えるのはInfinity Fabricの速度はソフトによってはメモリーパフォーマンスにも影響を与えているという事で、1対1で動作するDDR4-3733前後がバランスが取れていて速いという事です。

CPUの耐性にもよりますが1900MHzまでは動作が可能な個体もあるので、DDR4-3800を1対1運用の最大値と考えておくと良いでしょう。常用を考えるとCL16で上述の設定を狙うのが最速だと思います。

参考までにメモリーを限界まで追い込んでみました。使用したメモリーはG.SKILL「Trident Z Royal DDR4-4000 CL17」です。結果、常用は不可能ですがDDR4-4600 CL14-14-14というぶっ飛んだ設定も可能でした。スコアーはマルチが7110、シングルが8443と圧倒的です。1,8Vも入れたのは内緒ですよ。設定に時間が掛かりますが、レイテンシを詰めなければ1.50V以下も狙えるので、耐性の良いメモリーで頑張れば常用も出来るかもしれません。ただし、設定を煮詰めている内に外が明るくなってきて小鳥たちのさえずりが聞こえだすこと必至ですが……。

ここまで来るとメモリーの耐性だけでなくマザーボードの作りも重要で、高クロックが狙えるデュアルチャンネル時にノイズに強い「Daisy Chain」方式のメモリー配線を採用するマザーボードが必要になってきます。今回試したASRock「X570 Taichi」は同方式を採用しているためメモリーOCに強いX570マザーと言えます。同社のX570マザーは下位モデルを除いて「Daisy Chain」方式を採用しているので、イージーに高クロックメモリーを使いたい人にはお勧めです。

【使用メモリー】
DDR4-3200:Team Group「XCALIBUR Phantom Gaming RGB DDR4-3200」
DDR4-3600/3733/3800:G.SKILL「Trident Z Neo F4-3600C16D-16GTZN」
DDR4-4000C18-20-20/DDR4-4200/DDR4-4400:Team Group「XCALIBUR Phantom Gaming RGB DDR4-4000」
DDR4-4000C18-17-17/DDR4-4600:G.SKILL「Trident Z Royal F4-4000C17D-16GTRS」

極冷環境での耐性をチェック

編集部から貸してもらっているRyzen 9 3900Xを破壊する訳にはいかないので、Ryzen 7 3700Xで液体窒素を使った極冷OCをしてみました。

CINEBENCH R15のマルチスレッドテストを実行していくと最終的に51.5倍の5.148GHzでクリア出来ました。この時のスコアーは2672cbでした。常用は不可能な領域ですが、次世代モデルでクロック耐性が上がればとんでもない性能を発揮しそうなので、早くも次世代モデルが楽しみです。Intel CPU並みにAMD CPUが回るようになる事に期待したいです。

無負荷時の最大動作クロックは53.5倍の5.348GHzとなりました。CPU電圧は1.80Vまで昇圧しています。2.00Vまで試しましたがクロックが伸びなかったので、電圧に合わせてスケールするのは1.80V辺りまでと思われます。

CPUの温度ですが極冷ポットの底面に取り付けた温度計読みで-145度辺りまでしか安定して冷やし込めませんでした。これ以下になるとフリーズしてしまいます。これまでのRyzenは-190度台まで冷やし込めて動作下限温度はありませんでしたが、Ryzen 3000シリーズはほとんどのCPUが-140度前後までしか冷やし込めないようです。僕が試した中でのワーストケースだとマイナス域になると動作しない個体もありました。

この低温耐性の悪さには諸説ありますが、メモリーコントローラーやInfinity Fabricに関係する部分が冷えに弱いとオーバークロッカーの間では言われています。メモリをDDR4-2666以下で動かしたり、DeviderでInfinity Fabricの速度を半分にすると動作下限温度が改善されるケースが多いのが理由です。

冷やせば冷やすほどクロックが伸ばせるので、今後のBIOSアップデートで改善される事に期待したいです。

Infinity Fabric Dividerの設定追加に期待

高クロックメモリー対応の立役者である「Infinity Fabric Divider」機能ですが、現状では1対2の設定しかないため、Infinity Fabricのクロック低下によるパフォーマンス低下が問題になっています。Infinity Fabricのクロック低下の少ない2対3など、より多くの対比設定の実装が待たれます。

まだまだ粗削りな印象のRyzen 3000シリーズですが、調整による伸び代はある印象なので、今後のAMDやマザーボードベンダーの調整に期待したいです。