Chromium Edgeで何が変わる? 2020年のWindows 10

Windows 10の標準ブラウザである「Edge」が、従来の「EdgeHTML」を使ったエンジンから、Googleらが推進する「Chromium」をベースとしたエンジンへと切り替える大胆な構想が発表されたのが2018年12月のことだが、それから約5カ月が経過したタイミングで「Microsoft Edge Insider」のサイトが開設され、「Canary」と「Dev」の2つの配信チャネルを介した“Chromium Edge”の開発途上版をテストする環境が提供された。

それからさらに4カ月以上が経過し、それまで「Coming Soon」で予告されていたβチャネルでの開発途上版の配信が開始された。対象となるのはWindows 7/8.1を含むサポートが継続されているWindowsプラットフォームの全て、ならびにmacOSで、現在Edge InsiderのWebサイトにアクセスすると、まずβ版のダウンロードを促すリンクが表示されるようになっている(従来のCanaryやDevにも引き続きアクセスできる)。今回はこのChromium Edgeの最新事情について少し触れたい。

Chromium Edgeの特徴と注意点

Microsoftによれば、Edge Insiderを開始して以降Chromium Edgeは100万件以上のダウンロードを達成し、14万件以上のフィードバックを得たという。またChromium Projectに対しても現時点で1000以上のコミットを行っているとのことで、一定の成果を得つつある。

これまでは主に開発者や先行ユーザーを対象としたものだったが、今回のβチャネル提供をもって「the next version of Microsoft Edge is ready for everyday use」を旗印にしており、一般ユーザーや企業ユーザーを含むより多くのユーザーに利用してほしいという。

βチャンネルにおいてもChromium Edgeは引き続き「プレビュー版」の扱いの域を出るわけではないが、現在Windows 10 Insider Program参加者で、Fast Ring向けに提供されている2020年前半リリース予定の大型アップデート「20H1」に何らかの形でマージされ、2020年中にはかなりの数のWindows 10ユーザーに拡大することになるだろう。なお、このタイミングで脆弱(ぜいじゃく)性の洗い出しを行う賞金総額3万米ドルのBug Bounty Program開催を告知している。

また、Microsoftでは今回βチャネルにリリースされるChromium Edgeについて、2019年5月に開催されたBuild Conferenceで予告していた次の機能が既に含まれていることを報告している。エンタープライズ向け機能の紹介が中心で、Chromium Edgeの目指すターゲットがより多くの企業ユーザーのIEからEdgeへの誘導であることがうかがえる。

Microsoft SearchとBingの統合

Internet Explorer modeのMicrosoft Edgeへの統合

Windows Defender Application Guardによる信頼されていないサイト閲覧の保護

目玉となるのは2つめの「Internet Explorer mode」で、いわゆるInternet Explorerの「Enterprise Mode」をEdge上で実現する。詳細はFAQでも触れられているが、FlashやActiveX、Silverlightなどのプラグインを除く過去のIEの動作を忠実に再現するよう実装が行われており、現状のWindows 10で過去のアプリケーションの互換性を維持するためだけにIE11を起動していたようなケースでも、全てChromium Edgeで代替できる方向で開発が進められている。

この他、Chromium Edgeのβチャネル版で実装されていない機能でも、順次CanaryやDevのチャネルで追加が行われ、βチャネルへと環流されてくることになる。適時チェックしているといいだろう。

一方で注意点もある。例えばWindows 10では比較的早期から搭載されていたEdgeブラウザでの「EPUBコンテンツの閲覧機能」だが、Chromium Edgeではサポートされない。Neowinなどが報じているが、2020年に現行のEdge(EdgeHTML)からChromium Edgeに置き換えが行われたタイミングでこの機能は無効化される。

元々、EdgeでのEPUBコンテンツ閲覧機能はMicrosoft Storeでの電子書籍販売に合わせて実装されたものだが、同サービスは2019年4月に終了しており、購入済みコンテンツに対する返金をMicrosoftでは行っている。同社のプラットフォーム戦略を支援すべく比較的盛りだくさんの機能が投入されたEdgeだが、Chromium Edgeへの移行の中で、近年の同社のエンタープライズ市場への再フォーカスを反映する形で機能が絞られつつあるように思う。

“Sモード”で動くWindows 10でWin32アプリケーションが実行可能に

エンタープライズ話題つながりではないが、Microsoftが8月19日(米国時間)にSlow Ringユーザー向けに配信を開始した「Build 18362.10014」並ならびに「Build 18362.10015」において、2つの興味深いエンタープライズ向け機能追加が報告されている。

1つはARM64デバイスでのWindows Defender Credential Guard機能サポートで、Qualcommが2019年12月に発表したSnapdragon 8cxでのWindows 10 Enterpriseサポートに対する、Microsoft側の回答の1つといえる。現在のところ、Windows on Snapdragonはエンタープライズ方面での利用拡大を目指しており、今後もMicrosoft 365やWindows 10 Enterprise E3/E5などでうたわれる機能のサポートを拡大していくだろう。

もう1つは「Sモードで動作するWindows 10」において、「一般的なWin32アプリケーション(デスクトップ)」の実行をMicrosoft Intune経由で可能にするというもので、Microsoft Storeに登録されていないアプリケーションであってもそのままSモードで動作するWindows 10上にインストールし、実行できる。

「そもそもWindows 10 Sとは何だったのか」という気がしないでもないが、Sモードで動作するWindows 10にはセキュリティ上一定のメリットがあり、いわゆるファーストラインワーカーや特定業務の作業にのみWindows 10を利用するケースにおいて、「使い続けたアプリケーションを利用できない」という理由だけでSモードを活用できないという事態を避ける狙いがあると思われる。おそらく、一部顧客でこうしたニーズがあったことを受けての措置ではないかと予想する。