660gのミニノート「OneMix3」を自腹レビュー、それは完璧な「Type P」だった

筆者は小さいPCがとにかく好きだ。日本IBMの「ThinkPad s30」、ソニーの「VAIO U」シリーズ、東芝の「Libretto」シリーズなど、いわゆる「ミニノートPC」と呼ばれる小型のノートPCが出るたびに(お金に余裕がある限り)買いまくった。

ただ、この10年くらいは日本メーカーの元気がなくなったこともあり、とがったミニノートPCが出なくなってしまった。個人的にも、そうしたミニノートPCでまかなっていた部分を、7~8型のタブレットで補えるようになったこともあり、ミニノートPCに対する「熱」もいくぶん冷めていた。

今回紹介する中国ONE-NETBOOK Technologyの「OneMix3」は、筆者の失われてしまった情熱を再びかき立ててくれた、完成度の高いモバイルノートPCである。筆者は予約販売が始まった6月にすぐに注文した。この記事では「自腹レビュー」として、モバイル環境での使い勝手や性能面を中心に解説する。

ひそかに盛り上がるミニノートPC市場

OneMix3は、8.4型で2560×1600ドットの液晶ディスプレーを搭載するミニノートPCである。重さも659g(カタログ値)と非常に軽く、普段持ち歩いている小型バッグに余裕で入るサイズ感が最大の魅力だ。

OneMix3は、CPUやストレージなどの違いで「OneMix3」「OneMix3S」「OneMix3Sプラチナエディション」の3モデルある。今回購入したのはローエンドモデルのOneMix3だ。購入時の直販価格は8万9980円(税込み)だった。原稿執筆時点では直販サイトで8万9800円(税別)と案内されている。

この手のミニノートPCは2017年ごろからひそかに盛り上がっている。口火を切ったのは中国Shenzhen GPD Technologyで、5~7型の小型液晶を搭載しながらも重量は500g前後という超小型PCのニーズを、クラウドファンディングで世に問うた。当時はそうしたPCが絶滅状態だったこともあり、熱狂的なファンの支持を得て製品化に着手することに成功した。

筆者もクラウドファンディングに参加し、初期モデルの一つである「GPD Pocket」を購入した。ただ、CPUが米インテル(Intel)のAtom系統でメモリーやストレージの容量が少なく、基本的なマシンパワーが物足りなかった。また、買ってから気が付いたが7型では画面サイズが小さすぎ、何よりキーボードの使い勝手があまり良くなかった。

筆者が外出先でテキストを入力するために持ち歩いている環境は、8型タブレットと外付けキーボードの組み合わせだ。この環境を代替するマシンだったら、まず8型前後のパネルを搭載してほしいと考えている。

外出先では基本的に負荷の高い作業はしないのでそれほど高性能でなくてもよいが、OSやアプリケーションのウインドウを呼び出す程度でもたつくのは辛い。筆者は、キーボードのストロークは浅め、タッチは軽めが好み。そういったキーボードだとなお良い。

筆者なりの観点から、6月に日本での先行予約が開始されたONE-NETBOOK TechnologyのOneMix3は、最適なモデルのように思えた。以前筆者が検証した同社の「OneMix2」のキーボードの感触が好みだったことも購入を後押しする要因になった。

先行予約モデルには割引きもあったので、筆者は発表当日に注文した。手元に届いたのは8月3日だ。当初は7月後半に予定されていたが、ヒンジ部分などを改良したこともあり、若干到着が遅れたようだ。

サイズ感は8型タブレットに準じる

到着したOneMix3を箱から取り出してまず感じたのはひんやりとしたアルミ製きょう体の美しさ。メーカーロゴも天板の中央に小さく目立たない金属色で入っているだけで、デザインのシンプルさが際立っている。

底面には吸気口と薄手のゴム足があり、背面のスリットから排気する。アルミ製きょう体自体をヒートシンクとして利用する構造のようで、使用中は側面や底面がほんのり暖かくなる。

OneMix3の横幅は204mm、奥行きは129mm、厚みは14.9mmだ。8型液晶を搭載する小型タブレットに近いサイズ感であり、普段からよく持ち歩いている小さめのビジネスバッグにもすっきり収まった。もう筆者は12~13型ディスプレー搭載ノートPCが入るバッグを持ち歩くつもりはない。モバイル機器だとこのサイズ感は必須なのだ。

外で軽く仕事をするときは、タブレットはレノボ・ジャパンの8型モデル「TAB4 8 Plus」(300g)、外付けキーボードは作業の重さに応じてバッファローのBluetooth接続薄型キーボード「BSKBB24BK」(152g)か、マイクロソフト(Microsoft)の「Universal Mobile Keyboard」(365g)を使い分けている。

これをOneMix3に置き換える場合、バッファローのキーボードを持ち歩くときと比べるなら約200g重くなる。マイクロソフトのキーボードならほぼ同等だ。実際にOneMix3を入れたバッグを肩にかけたりしてみても違和感はない。200gくらいの重量増なら、個人的には許容範囲だ。

キーボードは好み、ポインティングデバイスはNG

キーボードはOneMix2シリーズによく似ており、ストロークが浅く、タッチが軽かった。メインキーのピッチは実測値で18mm。一般的なノートPCより少し狭い。フルキーボードほど軽快にタッチタイプできるわけではないにせよ、入力時に指先を縮めて窮屈な感じでタイプしなくて済む。

ただし、一部の記号キーは豪快に位置を変更してある。例えば、よく利用する音引きやカッコ、コロンが通常のキーボードとは違う場所にある。読点や句点のキーは細いので、何度か押し間違えることもあった。Caps Lockキーが小さくてAのすぐ左にあり、うっかり大文字モードになってしまったりもした。しばらくはキーの位置を確かめながら使う必要があるだろう。

とはいえ、このあたりは慣れの問題だ。バッテリー動作時間のテストのために4時間程度作業を続けた結果、入力間違いはほとんどなくなった。タッチの軽いキーで、指先をゆったりと構えられることもあり、4時間近い作業でも指の疲れはほとんど感じなかった。

マウスポインターの操作は、小さな光学式パッドと2つのボタンで行う。おおまかな操作は画面へのタッチ操作、細かい指定はパッドを使う想定なのだろうが、小さすぎて精密な操作は難しい。マウスを使うか、仮想的なタッチパッドを画面上に表示するツールを併用した方がよい。

Windows 10の操作はスムーズ、バッテリー容量も十分だ

液晶ディスプレーは、回転してタブレットモードで使うことが可能だ。タブレットモードでは、キーボードは自動的に無効になる。回転させると天板と底面がぴったりくっつく。ヒンジもぐらつかず安定している。このとき画面の向きは自動で切り替わる。

ヒンジはかなりがっちりしており、天板と底面をテントのように開いた状態でもしっかり固定できた。この状態だと映画などを省スペースで鑑賞できる。液晶ディスプレーはIPS方式なので、視野角や応答速度に不満は感じなかった。

CPUはインテルの第8世代Coreシリーズに属する「Core m3-8100Y」。ローエンドモデルでもストレージとしてPCI Express接続の256GB SSDを搭載している。Windows 10やアプリケーションの動作はキビキビとしており、GPD Pocketのときに感じた性能面での不満は全くない。

カタログにバッテリー駆動時間の表記はないが、容量は8600mAhだと書いてある。取材の仕事があったので、満充電状態から約2時間のスリープ、この原稿を書いていた時間も含む4時間程度の軽作業(原稿執筆とWebブラウズが主体)、帰宅まで約2時間のスリープという作業を行ってみた。

Windows 10のアクションセンターでは「バッテリ節約機能」を有効にし、輝度は20に設定した。おおむね半日の出張作業を想定したテスト内容だが、帰宅時のバッテリーの残り容量は56%だった。この使い方だとバッテリーには十分な余裕があり、1日仕事でも不安は感じない。

空きのM.2スロットにストレージを増設可能

OneMix3は小型なのでインターフェースは少ない。左側面にあるのはMicro HDMI、マイクとヘッドホンの複合端子。右側面には、充電用を兼ねたUSB Type-C(USB 3.0対応)と一般的なUSB 3.0ポート、microSDメモリーカードスロットがある。

端子類はこの手のミニノートPCとしては普通だが、ノートPCでは非常に珍しいことに、空いた状態のM.2スロットを搭載している。一般的なノートPCでM.2スロットがあってもストレージ用に使用済みで空いていないことが多い。ところが、OneMix3シリーズではなぜかこのローエンドモデルのみ、M.2スロットをユーザーが利用できる。

そこで、筆者は512GBのSSDを追加することにした。このM.2スロットが対応しているのは交換用SSDで一般的な「2280」サイズではなく小型の「2242」サイズ。追加投資としてはちょっと「お高い」が、OneMix3は長く使いそうなので全力を尽くすことにした。

筆者が調べた中で一番入手しやすく低価格だったのは、Trancend(トランセンド)ブランドの「M.2 SSD 430S」シリーズに属する512GBの「TS512GMTS430S」。約1万2000円で購入した。ただ、OneMix3のせいか原稿執筆時点では売り切れ状態の店も多かった。

OneMix3の底面は6個の小さなねじで固定されている。精密ドライバーで外すとM.2スロットが見える。しかし、スロット上にリボンケーブルが配置されており、見た瞬間は「本当に使っていいのか」と戸惑った。

リボンケーブルを避ける方法もなさそうなので、思い切ってリボンケーブルの上にSSDを置いて固定する。SSDを固定するねじはなぜか付属していなかったので、自作PC用のマザーボードに付属していたねじを流用した。

M.2対応スロットに挿したSSDでストレージのベンチマークソフト「CrystalDiskMark 6.0.2」を実行したところ、連続読み出し性能は560MB/秒前後、連続書き込み性能は500MB/秒前後と、ほぼスペック通りの数値となった。システムストレージと比べれば遅いもの、違いはあまり体感できなかった。

ミニノートPCではシステムストレージが足りなくなっても交換できない製品が多い。システムストレージの空き容量不足を恒久的に補うには、コンパクトなUSBメモリーをUSB 3.0ポートに挿しておかなければならないことを考えると、大きなメリットと言える。

ユーザーを選ぶが、ハマル人にはとことんハマる

筆者が最後に購入したミニノートPCは、2009年にソニーが発売した「VAIO Type P」だった。もう動作しないのだが気に入っていたモデルなので保管してある。VAIO Type Pを手に取るとデザインの完成度の高さと重さのバランスの良さに感心する一方で、利用したときのもっさりとした挙動にがっかりしたことを思い出す。

筆者にとってOneMix3とは、「完璧なVAIO Type P」だ。Windows 10が普通に動作し、原稿作成やWebブラウズと言った軽作業を難なくこなす機能性が、手のひらサイズの美しいボディーに凝縮されている。キーボードの配列にはちょっと悩む部分があるが、現在筆者がミニノートPCに求める要素は網羅している。とても良い買いものだったと思う。

ただ、そうした強い思い入れのないユーザーにとってOneMix3が優れているかと言われると難しいところだ。ExcelやPowerPointを利用した仕事が中心なら、まず画面の小ささが気になる。文字を見やすい大きさにすると情報の表示能力が絶対的に足らなくなる。キーボードが英語配列で、しかもいくつかのキーがとんでもない位置にあることもデメリットになるだろう。

しかし、OneMix3はこれでいいのだ、と筆者は思う。キー配列を修正するとキーピッチが犠牲になる。液晶を大きくすると本体も大きくなる。8型タブレットを入れて持ち歩いている筆者のバッグには、当然ながら入らなくなる。

OneMix3は不便さを我慢して使うような製品ではない。作業効率重視のビジネスパーソンには、似たような重さで一般的なキー配列を採用する13~14型液晶の軽量ビジネスノートPCがお薦めだ。しばらく前は、こうした筆者の好みにぴったり合う製品が少なかった。ミニPCの選択肢がまた増えて、幸せな時代になったと感じている。