AMD、最大64コアになった第2世代EPYCを投入

AMDは8月7日(米国時間)にアメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ市にあるPalace of Fine Artsにおいて記者会見を開催し、同社が開発コードネーム「Rome」で開発してきたデータセンター向けプロセッサ「EPYC 7002」シリーズを発表した。

EPYC 7002は、AMDがチップレットと呼ぶ複数のチップを1つのパッケージ上に搭載する技術を採用しており、最大で8つのプロセッサダイと、IOD(I/O Die)と呼ばれる8チャネルのメモリコントローラおよびPCI Express Gen4のコントローラなどのI/O関連を集約したチップを搭載。これに最大64コア、128レーンのPCI Express Gen 4などの強力なスペックを実現している。

最上位SKUとなるEPYC 7742は、最大64コア/128スレッドになっており、TDP 225Wで、ベースクロックは2.2GHz、ターボ時には2.9GHzまで引き上げられる。

会見の中でAMD 社長 兼 CEO リサ・スー氏は「第2世代EPYCは、我々の競合のCascade Lakeに比べて2倍の性能を持っており、TCOは25~50%改善することができる」とアピールした。

8 CPUダイとIODから構成されるEPYC 7002

EPYC 7002シリーズは、Romeの開発コードネームで開発されてきた第2世代のEPYCとなる。2017年に発表した第1世代のEPYC 7000シリーズでは、1つのパッケージ上に最大で4つのCPUダイ(8コア)を搭載して、Infinity Fabricインターコネクトを利用してコア間を接続することで、1つのパッケージで32コア/64スレッドを低コストに実現する製品となっていた。

この構造では、CPUダイそれぞれにメモリコントローラやPCI Expressコントローラなどを搭載しているため、1つのCPUソケットでサポートできるメモリチャネル数やPCI Expressのレーン数を容易に増やせるメリットがあり、競合のIntelのXeonスケーラブル・プロセッサー(以下Xeon SP)と比較したさいに優位性を保っていた。

今回発表されたEPYC 7002は、複数のCPUダイを1つのパッケージにという初代EPYCのコンセプトを受け継ぎつつ、機能の強化も行なわれている。具体的にはIODと呼ばれるI/Oを専門とするダイを用意し、そこに従来CPUコア側にあったメモリコントローラとPCI Expressコントローラ、CPU同士を接続するインターコネクトの機能を移動させた。そしてCPUダイは演算器やキャッシュだけにするという、いわばレイアウトの変更を行なっている。

これは、クライアントPC向けの第3世代Ryzenでも採られた手法で、クライアントPC向けのRyzenでは1つのパッケージあたりのCPUダイは2つまでになっているが、EPYCではそれが8つにまで拡張できる。AMDの7nm世代のCPU(Zen2アーキテクチャ)は1つのCPUダイが8コアになっているため、64コアまでを1つのパッケージで実現できる。

メモリコントローラは8チャネルで、最大でDDR4-3200までをサポート。ピークの帯域幅は208GB/s、ソケットあたりの最大メモリは4TBとなる。

なお、CPUソケットはSocket SP3となっており、EPYC 7000シリーズとピン互換となっている。このため、EPYC 7000用のマザーボードでそのままEPYC 7002を利用することが可能だ(ただし、ファームウェアのアップデートなどは必要)。ただし、PCI Express Gen4と128レーン対応など、EPYC 7002で初めてサポートされた機能を利用するには、EPYC 7002用のマザーボードが別途必要となる。

IPC 15%向上、2倍のFPでシングルスレッド時の性能も強化

なお、CPUの基本的な仕様は、第3世代Ryzenに採用されている「Zen2」のアーキテクチャとなっており、基本的な仕様などは同様だ。TSMCの7nmで製造され、分岐予測などの改良、FPユニットの強化により2倍の浮動小数点性能を実現し、CPUごとに512KBのL2キャッシュ、4MBのL3キャッシュを持つとなっている。従来と比較すると、マルチコア時の性能も向上しているが、同時にIPCが15%改善され、シングルスレッド時の向上している。

CPUダイ間、ソケット間の接続に利用されるInfinity Fabricの速度も改良されており、EPYC 7000では10.76GT/sだったのに対して、EPYC 7002では18GT/sとなっている。

もう1つの大きな強化点としては、セキュリティ関連の強化が挙げられる。EPYC 7002ではSME(Secure Memory Encryption:メモリ暗号化)、SEV(Secure Encrypted Virtualization:仮想マシン暗号化)という2つのセキュリティ関連の機能が追加される。

具体的には、AMDセキュアプロセッサと呼ばれる専用のセキュアチップがCPUに搭載されており、ここに暗号化鍵が格納され、それを利用してメモリと仮想マシンの暗号化を行なう仕組みだ。

SMEでは、128bitのAESによりAMDセキュアプロセッサ内に格納されている暗号化鍵を利用してメモリを暗号化する。これにより、物理的にメモリモジュールにアクセスして内容を読み取ろうとしても困難にさせる。なお、SMEはハードウェアだけで実現さているため、アプリケーションソフトウェアには影響を与えない。

SEVも同じくAMDセキュアプロセッサに内蔵されている暗号化鍵を利用して仮想マシンおよびハイパーバイザーを暗号化する機能である。ハイパーバイザー、仮想マシンごとに異なる暗号化鍵を利用して暗号化することができる。それにより、物理的に仮想マシンへのアクセスも困難になる。

なお、SEVはAMDの仮想化アクセラレーション機能であるAMD-Vの拡張機能として提供される。ホスト、ゲスト共にLinuxなどのサーバーOSでサポートされる計画であるほか、仮想化ソフトウェア大手のVMwareが次世代のVMwareでSEVをサポートすると発表した。

IntelのCascade Lakeと比較して2倍の性能を持ち、TCOは25~50%改善

EPYC 7002シリーズのSKU構成は以下のようになっている。大きく分けると8コア、12コアないしは16コア、24コアないしは34コア、46コアないしは64コアというラインナップで、シングルソケット向けの製品として末尾に「P」が付く製品が用意されている。

記者会見の中でAMD 社長 兼 CEOのリサ・スー氏は「第2世代EPYCは、われわれの競合が先日発表したCascade Lakeと比較して約2倍の性能を持っている。かつ、TCOは25から50%改善する」と述べ、競合となるIntelとの比較データを公開した。

IntelのXeon SP Platinum 8280LとEPYC 7742の比較では、クラウドサーバーで97%、HPCでは88%、エンタープライズでは84%の性能向上が期待できるとAMDは説明した。

Zen3ベースはMILAN、Zen4ベースはGENOAを投入

講演の最後にAMDのスー氏は「今後我々は7nm+で製造されるZen3ベースの製品としてMILAN、そして現在開発中のZen4ベースのGENOAを用意している。MILANは予定どおり開発中で、GENOAも引き続き開発を続けて行く、今後もわれわれはこの市場にコミットしていく」と述べ、AMDがサーバー市場にこれまで以上に力を入れて開発を続け、製品を予定通り提供していくと強調した。