“史上最強”ファーウェイP30 Proを分解、指紋センサーは中国技術

米中衝突の中、米企業からの輸出取引を禁じられる措置を発動された中国ファーウェイ(華為技術、Huawei Technologies)だったが、両国のトップ会談により汎用部品など一部製品の輸出を認めるとの発表が出た(日経新聞の関連記事)。ただし、依然として安全保障上の懸念がある外国企業のリスト「エンティティー・リスト」には残すとしており、先行きは不透明だ。

こうした状況下で、2019年3月末に発表された「HUAWEI P30 Pro」は最先端技術をとことん詰めたスマートフォンであり、一言でいえばファーウェイの技術の結晶だ(関連記事「手持ちで50倍ズーム撮影も、写真で見る『P30 Pro』」)。しかもそれは中国の“伝統技術”とも揶揄(やゆ)される模倣の域を超え、いわゆる“とんがった”ところが満載で凄みを感じる。今回はこの製品を分析したい。

パソコン超えのスペック

メインのプロセッサーには台湾TSMCの7nmプロセスを採用した自社設計チップ「Kirin 980」を採用している。動作周波数は2.6GHzで、同プロセッサーと連動するDRAMの容量は8Gバイト、データを保存するフラッシュメモリーは256Gバイトである。「パソコンを超えた性能」と言って良いだろう。価格も13万7000円(中国での発売当初の価格を日本円に換算)と、もちろんパソコンを超えている。

史上最強のフロントカメラ

現在のスマホにおける主な用途は、FacebookやInstagram、YouTube、TwitterなどのSNSで、その主役は自撮りをする投稿者である。これに対し、P30 Proでは自撮りに必須なフロントカメラ(インカメラ)として3200万画素の広角カメラを搭載する。これは筆者が見てきたどのスマホよりも画素数が多く、史上最強のフロントカメラと言えよう。

リアカメラ(背面カメラ)はさらに強烈で、4000万画素のメインカメラに、2000万画素の超広角カメラ、800万画素の望遠カメラ、ToFセンサーを装備する。つまりカメラを5個も搭載し、背面カメラは最大50倍のデジタルズームが可能であることを強調する。ファーウェイのWebサイトでは大きくきれいに月が写っていた。

ドイツの名門カメラメーカーのブランド「ライカ(Leica)」を冠し、フィルムにあたるCMOSイメージセンサーやToFセンサーはソニー製を採用していると推定され、オートフォーカス、手振補正など機能を備えるカメラはほとんどが日本製だが、見事にハードウェアを使いこなしている。特に冒険的なのはプリズムを用いて焦点距離を延伸した望遠レンズだ。プリズムが落下に弱いとの理由で採用を見送ったスマホメーカーもある中で「落とせばディスプレイも壊れるのにプリズムだけ大事にしていても」という合理的な考えから採用したようだ。

サムスン独壇場を揺るがすBOE製ディスプレー

これまでフィルム型有機ELパネルといえば韓国サムスンディスプレーの独壇場だった。P30 Proでは中国・京東方科技集団(BOE Technology Group)のフィルム型有機ELパネルを採用した。BOEは以前から製品を展示会に出展していたが、数十万台単位の大量生産に耐え、品質をキープできるようになったようだ。しかも製造が難しいと言われるノッチ(カメラなどを収めるための切り欠き)まで採用している。

BOEのフィルム型有機ELパネルが順調に増産されれば、100米ドル辺りで高止まりしていたフィルム型有機ELパネルの価格は下がってくるだろう。

指紋センサーは中国技術

スマートフォンにおいて、“個人認証のデフォルト”とも言える指紋センサーの場所はディスプレーの都合であちこちへと移動を繰り返してきた。最初はディスプレー下部のホームボタンに混載される形で存在していた。その後、ディスプレーの表示領域が上下に広がると、筐体背面に移動して人差し指で認証するようになった。ただしこの位置はカメラに近く、指がカメラに触れてカメラ表面が汚れやすいというデメリットがあった。

P30 Proの指紋センサーは再びディスプレー側に戻った。ディスプレーを裏側から見ると、下部中央に菱形の穴が開いており、ここにカメラが置かれ、ディスプレーの明かりで照らされた指の写真を撮影して指紋認識を行っている。これは中国の技術で、中国匯頂科技(Goodix Technology)が認証チップを供給している。

P30 Proは防水等級で最高の「IPX8」に達する。水没した状態(同社のWebサイトによれば常温の水道水、水深1.5mに約30分間放置した後)でも内部に浸水せず、機能を維持できることを意味する。樹脂製ガスケットなどを多用することで、防水性を高めている。

パワーアンプ類は日米メーカー製

ファーウェイはチップセットを自社で設計しているが、さすがに製造はTSMCに任せている。モバイル機器向けチップセットで独走する米クアルコム(Qualcomm)や追随する台湾メディアテック(MediaTek)と同様の“ファブレスメーカー”であり、7nmという超微細プロセスはもちろん、ICを自力で生産する能力はない。

では、アンテナから放射する信号を増幅するパワーアンプなどはどうだろうか。こちらは日米の製品をほとんど使っている。

2次電池は、中国国産のLiイオンポリマー二次電池が存在するなか、TDK傘下の中国Amperex Technology Limitedの製品を使っている。

P30 Proの構成部品について出所を探ると、中国内で調達できているのは1/4程度で、あとは海外の技術である。特にMEMS技術やセンサーの面で国産化が遅れている。

次はどうなる?

米中貿易摩擦の出口が見えない中、ファーウェイはどうなるのろうか。P30 Proの次世代版を世に出せるのだろうか。早くも次世代製品に注目が集まっているが、今はとにかくP30 Proの高い完成度を称賛したい。