2in1に求められる要素を高次元で組み合わせた「ThinkPad X1 Yoga」を実機で検証

レノボ・ジャパン は6月25日、14型2in1「ThinkPad X1 Yoga」を発表、同日より販売を開始した。本製品は同社自らも推進している「働き方改革」に向けて、モバイル性、性能、オンライン会議機能を強化しており、外装、マザーボード含めてフルモデルチェンジが施されている。今回同社より実機を借用したので、詳細スペック、外観、使い勝手、AV品質、性能などについてレビューしていこう。

汎用性の高い2in1のYoga、軽量クラムシェルのCarbon

ThinkPad X1シリーズにはYogaと、同時に発表された「ThinkPad X1 Carbon」の2モデルが用意されている。今回レビューするYogaはディスプレイが360度回転する2in1タイプで、Carbonは軽量性を追求したクラムシェル型だ。YogaとCarbonのサイズ/重量を、2018年モデルも含めて比較すると、下記のようになる。つまり、Yoga(2019)は2018年モデルよりもコンパクト&軽量化されているが、Carbon(2019)とは約0.27kgの重量差があるわけだ。

ちなみにYogaとCarbonは2019年モデルから開発、サポートの効率化などを目的に、マザーボードが共用化された。シンプルに汎用性と軽量性を秤にかけて、自分にあった1台を選べるわけだ。

最上位構成のクーポン適用後の価格は394,006円

Yogaには、OS、CPU、メモリ、ストレージ、ディスプレイのスペック、WWAN、顔認証センサーの搭載/非搭載などが異なる5製品が、同社直販サイトの標準構成モデルとしてラインナップされている(7月14日時点)。

直販サイトから購入するさいには、OSはWindows 10 Home 64bit/Windows 10 Pro 64bit、CPUはCore i5-8265U/Core i5-8365U/Core i7-8565U/Core i7-8665U、メモリは8GB/16GB(LPDDR3-2133)、ストレージは256GB SSD(SATA)、256GB/512GB/1TB/2TB(PCIe NVMe)、ディスプレイはフルHD(1,920×1,080ドット)/WQHD(2,560×1,440ドット)/4K(3,840×2,160ドット)などからカスタマイズ可能だ。またNFCの搭載/非搭載、電源アダプタの容量(45W/65W)、キーボード(日本語/英語)なども変更できる。

ちなみにWindows 10 Pro 64bit/Core i7-8665U/16GBメモリ/2TBストレージ/4Kディスプレイ/NFC搭載/65W ACアダプタ/WWAN搭載/英語キーボードという最上位構成で価格は579,420円、クーポン適用後の価格は394,006円となる(7月14日時点)。

2in1としては軽量な筐体、microSDメモリーカードスロットが廃止に

Yogaの筐体はアルミニウム合金製で、サイズは323×218×15.5mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約1.36kg。14型ディスプレイを搭載する2in1としては軽量な部類に入る。

インターフェイスは、USB 3.1 Type-C×2(Thunderbolt3対応)、USB 3.0 Type-A×2、HDMI、ヘッドセットジャック、イーサネット拡張コネクター2が用意されている。Yoga(2018)に搭載されていたmicroSDメモリーカードスロットは廃止された。個人的にはフルサイズのSDメモリーカードスロットを復活させてほしかったが、業界全体の潮流としてはあきらめるしかないようだ。

インターフェイス構成としてはもう1つ不満点がある。それは電源端子と共用できるUSB Type-C端子が右側面に用意されていないこと。もちろん、ACアダプタやモバイルバッテリは左側面にしか挿すことができない。USB Type-A端子は1つあれば十分。ぜひ次期モデルでは両側面に給電・充電できるUSB Type-C端子を用意してほしい。

一方、USB 3.1 Type-C×2とイーサネット拡張コネクター2を合わせて「ドッキング・ステーション・コネクター」として機能するので、「ThinkPad ベーシック ドッキングステーション」、「ThinkPad プロ ドッキングステーション」、「ThinkPad ウルトラ ドッキングステーション」などを利用できるようになった。この点はYoga(2018)からの明らかな進化点だ。

なお、Yoga(2018)はマイク×2、底面ステレオスピーカー×2という構成だったが、Yoga(2019)はオンライン会議機能強化を目的に、ディスプレイ上部にマイク×4、キーボード奥にツイーター×2、底面手前にウーファー×2が搭載されている。マイクを上向き配置したのは360度全方向で均一の集音性能を実現するための設計だ。

また、より感度の高いマイクを採用したことで、4m先の音声もクリアに集音できるとのことだ。実際、側面から4m離れた距離から、人に話しかける程度の声量で音声アシスタント「コルタナ」を起動できた。

キートップの沈み込み機構は廃止されたが打鍵感は向上

ThinkPadのキーボードは、いまさら言うまでもなく高い評価を得ている。筆者はYoga(2018)を現在利用しているが、Yoga(2019)は打鍵感が向上し、打鍵音も静かになっていると感じた。

Yoga(2018)はタブレットモードでキートップが沈み込む機構が採用されていたが、Yoga(2019)ではその機構が廃止されたのだ。それだけが理由ではない可能性もあるが、Yoga(2019)はキーの反発力がわずかに強められ、底打ちしたときの打鍵音も抑えられているようだ。わずかな差ではあるが、大量に文字入力するユーザーには歓迎される進化点だと言える。

一方、付属するデジタイザペンの「ThinkPad Pen Pro-6」の書き味にはとくに変化はないようだ。とは言っても、適度な摩擦感による書き味は心地よく、描画遅延も肉眼で見たかぎりでは1cm程度だ。ペンスロットに装着すれば約15秒で80%まで充電され、約5分で100%充電されるので、いざ使うときにバッテリが切れているということはない。従来モデルと変わらず、使い勝手のいい内蔵型デジタイザペンだ。

なお、ThinkPad Pen Pro-6は筆圧感知レベルが4,096段階だが、傾き検知機能をサポートしていない。本格的にイラストを描くなら、傾き検知をサポートする「Wacom AES 2.0」対応のデジタイザペンを使いたい。筆者は「Dell Premium Active Pen(直販価格14,796円)」で傾き検知を利用できることを確認した。

ノートPCとして平均以上の色域、サウンドは臨場感があるが音量が物足りない

Yoga(2019)には、14型フルHD液晶(1,920×1,080ドット、157ppi、400cd/平方m、色域非公表、光沢、タッチ対応、スタイラス対応)、14型WQHD液晶(2,560×1,440ドット、210ppi、300cd/平方m、色域非公表、光沢、タッチ対応、スタイラス対応)、14型4K液晶(3,840×2,160ドット、315ppi、500cd/平方m、色域非公表、光沢、タッチ対応、スタイラス対応)の3種類のディスプレイが用意されている。今回の貸し出し機には14型フルHD液晶が搭載されていた。

色域は製品公式サイトに記載がないが、ディスプレイキャリブレーション機器「i1Display Pro」と色度図作成ソフト「ColorAC」で確認してみたところ、sRGBカバー率は97.7%、sRGB比は100.7%、Adobe RGBカバー率は74.1%、Adobe RGB比は74.6%とかなり高めの値が出た。モバイルノートPCとしては平均以上の色域と言える。Dolby Vision対応を謳う4K液晶ディスプレイは、さらに色域が高いことが予想される。

サウンドについては、キーボード面奥におもに高域を担当するツイーター、底面手前に低域を担当するウーファーをそれぞれ2つ内蔵し、「Dolby Atmosスピーカーシステム」採用を謳っているだけに、低域にしっかりと厚みのあるサウンドを聴かせてくれる。音の広がりもよく、臨場感は高い。ただ、音楽を楽しむにはまだ音量が足らないと思う。

オンライン会議向けに設計されたスピーカーシステムとのことだが、コンシューマユーザーが映画や音楽を迫力のある音で楽しめるように、もう一歩進化することに期待したい。

CINEBENCHは低めだが、PCMark 10、3DMarkで好成績を記録

最後にベンチマークスコアを見てみよう。今回は下記のベンチマークを実施している。

総合ベンチマーク「PCMark 10 v2.0.2115」

CPU/OpenGLベンチマーク「CINEBENCH R15.0」

CPUベンチマーク「CINEBENCH R20.060」

ストレージベンチマーク「CrystalDiskMark 6.0.2」

バッテリベンチマーク「BBench」

比較対象機種としては同じく「Core i7-8565U」を搭載している「XPS 13」と「VAIO SX14」を採用している。両機種とも独自チューニングが施されており、「Core i7-8565U」搭載モデルとしてはベンチマークテストで好成績を記録しているモデルだ。

CINEBENCH R15.0のスコアは接戦。Yoga(2019)のCPUスコアは、XPS 13の92%、VAIO SX14の97%に相当する「681 cb」となった。数値的にはXPS 13が「740 cb」と頭1つ飛び出している。

しかしPCMark 10や3DMarkでは、Yoga(2019)がほとんどの項目でほかの2機種のスコアを上回っている。今回借用しているYoga(2019)はほかの2機種よりも解像度が低いが、3DMarkは2,560×1,440ドット、3,840×2,160ドット向けのテスト項目も、指定された解像度でレンダリングしているので、とくに有利なわけではない。

今回、Yoga(2019)のみWindows 10の「バージョン1903」がプリインストールされており、PCMark 10と3DMarkも異なるバージョンでベンチマークを実施している。そのため結果はあくまでも参考にとどめてほしい。

さて、バッテリベンチマークは「PCMark 10 Modern Office Battery Life」で14時間19分、「BBench」で12時間59分15秒という結果となった(どちらもディスプレイ輝度0%で計測)。フル充電容量で53,400mWhの大容量バッテリを搭載しているだけに、モバイルノートPCとして十分な連続動作時間が確保されていると言える。

最後に本体およびACアダプタの発熱を、CINEBENCH R20.060を3回連続で実行中に計測したが、キーボード面の最大温度は47.1℃、底面が51.2℃、ACアダプタが52℃とかなり高めだった。とくに底面は突出して高いので、高負荷処理中に膝上で使う際には低温火傷しないように注意が必要だ。

妥協のないスペックの2in1!

Yoga(2019)は、2in1に求められる要素が高いレベルで組み合わせたようなモデルだ。2in1としては約1.36kgと比較的軽量ながら、51Whの大容量バッテリを搭載し、連続動作時間はモバイルノートPCとして十二分。インターフェイスはThunderbolt 3を筆頭に充実しており、購入時にはCPU、メモリ、ストレージ、ディスプレイ、キーボード、WWANときめ細かくカスタマイズできる。納期が他社と比べると遅いのが玉に瑕だが……。

本製品は到着するまで多少もどかしい思いをするかもしれない。しかし、妥協のないスペックの2in1を手に入れたいと考えている方には、非常に満足度が高い1台だ。