大容量HDDを高速で使えるインテル® Optane™ メモリー搭載PCのススメ

モバイルノートPCではSSD搭載モデルが主流になりつつある昨今だが、15.6インチ液晶を採用するいわゆる「A4ノートPC」ではまだまだHDD採用モデルが多くを占める。SSDモデルもなくはないが、高価だったりストレージの容量が少なかったりと、長年HDDモデルに慣れ親しんだユーザーにとっては心配ごとの多い選択肢になっているのではないだろうか。一方で、HDDモデルはSSDモデルと比べて体感速度が遅く、OSやアプリの起動、USBメモリーからのデータコピーなどで待たされるといった使い勝手の悪さがある。

そこで注目したいのが最近出てきた「インテル® Optane™ メモリー(以下、Optaneメモリー)搭載PC」だ。OptaneメモリーはHDDを高速化する特殊な記憶装置(=ストレージ)だ。Optaneメモリー搭載PCはHDDモデルでありながら、SSDモデルのようなサクサク動作を実現する。Optaneメモリー搭載PCを選び、大容量かつ高速なPC環境を手に入れよう!

Core i7&Optaneメモリー搭載PCで検証

Optaneメモリー搭載PCはさまざまなメーカーから販売されているが、今回は代表的なモデルとしてCore i7とOptaneメモリーを搭載するA4ノートPCを用意した。

15.6インチ液晶(1920×1080ドット)を採用した製品で、CPUは第8世代Coreプロセッサーにあたる「Core i7-8550U」を採用し、メモリーは8GBを搭載。Core i7-8550Uは定格1.8GHz、最大4GHzで動作する4コア/8スレッドの高速CPUなので、旧世代の低価格デスクトップPCにも負けない処理性能を誇る。

ストレージには毎分5400回転の1TB HDD、それを高速化する16GBのOptaneメモリーを備えている。DVDスーパーマルチドライブも装備しているので、自宅で使う据え置きノートPCとしては必要十分なモデルと言える。

ランダムリード性能が約300倍高速化
圧倒的な性能アップを実現

HDDモデルでありながらSSD並みのサクサク動作を実現する、というOptaneメモリー搭載PC。では、Optaneメモリーは実際にどのぐらいの効果があるのだろうか。ここからは上記で紹介したOptaneメモリー+HDD搭載PC(以下、Optaneメモリー搭載PC)を使って、その効果をじっくり検証していく。

比較に使用したのは、CPUやメモリーなどの基本構成が同じでOptaneメモリー非搭載のHDDモデル(以下、HDD搭載PC)。つまり、ストレージ以外の性能はまったく同じPCだ。Optaneメモリーのあるなしで、どれぐらい快適さに違いがあるかを中心にチェックしていく。

まずは定番ベンチマークソフト「CrystalDiskMark 6.0.2」で、ストレージの最大性能をチェックしよう。

Optaneメモリー搭載PCは最大読み出し速度が922.2MB/s、書き込み速度では159.2MB/sを記録。一方で、HDD搭載PCは最大読み出し速度が127.6MB/s、書き込み速度が72.35MB/sと大きく下回った。Optaneメモリーを搭載することで、ストレージの性能は読み出し速度で約7.2倍、書き込み速度で約2.2倍も高速化したのだ。

ランダム読み出し/書き込み速度ではさらに速くなっている。4KB Q1T1の読み出し速度はOptaneメモリー搭載PCが112.6MB/s、HDD搭載PCは0.44MB/sと実に約256倍もの高速化を果たしている。また、4KB Q1T1の書き込み速度はOptaneメモリー搭載PCが68.86MB/sで、HDD搭載PCは0.655MB/sとこちらも約105倍速くなった計算だ。ここまで差が出ると、まるで別物のストレージと言っていいレベルだ。

Windows 10の起動時間が約11秒短縮するも
スリープからの復帰時間は大差なし

CrystalDiskMarkはストレージの性能を計測できるベンチマークソフトだが、その性能差がそのまま体感速度の差になるわけではない。あくまでそのストレージが本来備えるポテンシャルをチェックするツールである。というわけで、ここからはWindows 10の起動時間やスリープからの復帰時間、アプリの起動時間、ファイルのコピー速度などの体感速度に直結する実際の使用感を比較してみよう。

まずは、Windows 10の起動時間とスリープからの復帰時間だ。Windows 10の起動時間は電源オンからデスクトップの表示までにかかった時間と、電源オンからWindows 10へのサインインを経て自動起動に指定したアプリが起動するまでの時間の2種類を計測。ストップウォッチで5回測り、その平均時間を掲載する。また、スリープからの復帰時間はスリープ解除後にデスクトップが表示されるまでの時間をストップウォッチで5回計測した平均時間とした。

電源オンからデスクトップの表示までにかかった時間は、Optaneメモリー搭載PCが平均12.184秒と、HDD搭載PCの平均16.178秒と比べて約4秒速かった。そして、この差は指定アプリが起動するまでの時間を含めるとさらに開く。

Optaneメモリー搭載PCはデスクトップ表示からアプリが起動するまでが平均12.452秒で、電源オンから数えると合計で平均24.636秒。一方で、HDD搭載PCはデスクトップ表示からアプリが起動するまで平均19.402秒もかかっており、電源オンから含めると合計で平均35.58秒と、Optaneメモリー搭載PCよりも約11秒も遅い計算になる。

では、なぜHDD搭載PCではデスクトップが表示されてからアプリが起動するまで多くの時間を要すのか? それは、OSが起動に重要なファイルだけを最初に読み出し、後回しにしても良いファイルは後から読み出すことで見かけ上の起動速度を上げているからである。自動起動に設定したアプリは、Windows 10の利用に必要なファイルがすべて読み込まれてから処理が行なわれるため、起動までに時間がかかっているのだ。

デスクトップが表示されたのに目的のソフトを起動するまで待たされる、なんて経験はないだろうか? これはまさにその現象である。Optaneメモリー搭載PCならその待ち時間を軽減できるということがわかっていただけたかと思う。

スリープからの復帰にかかる時間はOptaneメモリー搭載PCのほうが約0.5秒ほど速いぐらいで、HDD搭載PCと大きな差は出なかった。これはスリープからの復帰時にストレージへのアクセスがあまり発生していないからである。Optaneメモリー搭載PCだからといって、すべての操作が劇的に速くなるわけではないことを覚えておいてほしい。

アプリの起動時間ではOptaneメモリーの効果が絶大

続いてAdobeの写真や画像編集ソフト「Photoshop CC」と動画編集ソフト「Premiere Pro」の起動時間を比べてみよう。両者はいずれもインストール時に多くのストレージ領域を必要とするだけでなく、起動時に多くのファイルを読み込むなど、起動に時間がかかるいわゆる“重い”ソフトの代表格でもある。

Photoshopの起動時間はOptaneメモリー搭載PCが平均12.09秒だったのに対して、HDD搭載PCは平均55.346秒もかかっており、約43秒も速くなった。Windows 10の起動時間と比べると劇的な効果である。

Premiere Proの起動時間ではさらに大きな効果が得られている。Optaneメモリー搭載PCが平均14.7秒のところ、HDD搭載PCは平均100.19秒もかかっており、なんと約85秒もの時間短縮となった。Premiere Proの起動はPhotoshop以上に重く、重いソフトになればなるだけOptaneメモリーの効果が大きいことがわかる。

なお、この起動時間の速さが一時的なものでないことを確かめるために、Optaneメモリーの容量(16GB)以上の動画ファイルをコピーしながら、同時にPhotoshopで50枚の写真のRAW現像をバッチ処理で行なった。その後に再度Premiere Proの起動時間を計測してみたが、起動時間はわずかに約1秒遅くなっただけだった。

この結果を見る限り、Optaneメモリーによって高速化されたアプリは、普通にファイルのコピーなどを行なっているぐらいでは、そう簡単には遅くはならないと考えることができる。

写真や動画のコピーでも高速化

最後に、書き込みを伴う作業でOptaneメモリーの効果がどのぐらいあるのか見ていこう。この検証ではUSBメモリーからPCに写真ファイルをコピーしたときの時間、ストレージ内で写真ファイルや動画ファイルをコピーする時間、Photoshop CCでRAW現像を行なったときの時間を計測している。

USBメモリーからPCへのコピー時間はCrystalDiskMarkの結果が色濃く反映された。Optaneメモリー搭載PCはHDD搭載PCの半分以下で、最大書き込み速度が2.2倍であることを考えると、順当な結果と言えるだろう。

興味深いのはストレージ内コピーしたときの時間だ。写真のコピー時間はUSBメモリーからPCにコピーした時と同様、Optaneメモリー搭載PCがHDD搭載PCの約半分の時間だったのに対し、動画のコピーでは写真ほど大きな効果が見られていない。これは動画のコピーではOptaneメモリーの容量(16GB)を超える容量のデータ(18GB)の書き込みを行なったのが原因だ。

Optaneメモリーはアプリの読み込みなどの高速化用と、書き込みの高速化用に分けて運用されている。ゆえに、書き込みが高速化されるのは、あくまでも書き込み高速化用に割り当てられている容量以内に限られる。これを超えると、もともとのHDDの速度で書き込みが行なわれるため、効果がなくなるというわけだ。

今回のテストでは、写真は3GB書き込んでおり、動画では18GB書き込んでいる。つまり、3GBの写真データはOptaneメモリーの書き込みの高速化用に割り振られているエリア内に収まる大きさだったのに対し、18GBの動画データは収まりきらずうまく高速化できなかったということだ。

また、写真のRAW現像にかかった時間もOptaneメモリー搭載PCが191.39秒に対し、HDD搭載PCは208.49秒とOptaneメモリーの効果はさほど大きくはなかった。このテストではRAW現像後、JPEGファイルで保存する時間は短縮されているが、写真の読み出しがほとんど高速化されていなかったのが原因だろう。Optaneメモリーはアプリの起動は積極的に高速化するが、利用頻度が低いと思しき写真や動画データなどの高速化には消極的なのだと推測できる。

まとめ:Optaneメモリー搭載PCを使うと
もうHDDだけのPCには戻れない

ベンチマーク結果からわかるように、Optaneメモリーは特にOSやアプリの起動時間において絶大な効果を発揮している。このサクサク感を体験してしまうと、Optaneメモリーのない単なるHDD搭載PCは使いたくなくなるほどの快適さだった。また、検証していて気づいたことだが、Optaneメモリー搭載PCのアプリ起動時間は基本的にバラツキが非常に少ないのに対し、HDD搭載PCはかなりのバラツキが発生していたことも付け加えておきたい。

例えば、Optaneメモリー搭載PCにおけるPremiere Proの起動時間は、最短と最長の差が3秒しかなかった。しかし、HDD搭載PCでは最大40秒以上の差があった。つまり、Optaneメモリー搭載PCはHDD搭載PCよりも、日常でよく使用するアプリが常に快適に起動するということを示している。

しかしながら、Optaneメモリーはなんでも無条件に高速化できるわけではなく、用途によっては高速化の効果が少ないケースもあるということは覚えておきたい。例えば、大きなファイルのコピーなどがその代表例だ。

Optaneメモリー搭載PCでは、Optaneメモリーをアプリなどの読み出しの高速化用と書き込みの高速化用に分けて利用している。この配分は不明だが、今回のテスト結果では少なくとも3GBぐらいのデータのコピーであれば大きな恩恵を受けられる一方で、Optaneメモリーの容量を超えるデータをコピーすると確実にその恩恵が少なくなることがわかった。また、写真のRAWデータを現像し、保存するというような用途でもアプリの起動時間ほど大きな効果は得られない。

とはいえ、Optaneメモリーがもたらす全体としての効果は非常に大きい。Optaneメモリー搭載PCはHDD搭載PCよりも若干コスト高になるが、そのコストを支払ってもお釣りがくるだけの体感速度をユーザーに提供することは間違いない。また、そのコスト高もSSD搭載モデルに比べればわずかなものだ。日常的に使用するPCはキビキビ動作すればするだけ、生産性も向上するだろう。大容量かつ安価なOptaneメモリー搭載PCはコストパフォーマンスが高く、多くのユーザーに購入を検討していいただきたい製品である。