8.4型への大型化で実用性が増し、次機をも示唆する「OneMix 3」

株式会社テックワンは、ONE-NETBOOK Technologyの8.4型UMPC「OneMix 3」の予約を開始した。価格は89,980円からだ。代理店の協力によりOneMix 3の試作機を事前に入手できたので、さっそく試用レポートをお届けしたい。

なお、試作機の性能に関しては製品版と同じとしているが、外観や細部などは異なる可能性がある点はあらかじめご了承いただきたい。

現時点のOneMixシリーズはすべて併売

OneMixシリーズは、2018年5月に颯爽と登場した7型の2in1である。いわゆるUMPC(Ultra Mobile PC)の類であり、同じUMPCに属するGPD Technologyの「GPD Pocket」に似ているものの、若干異なる路線を突き進んでいる。

形状で言えば、GPD Pocketシリーズが純粋なクラムシェルであるのに対し、OneMixは2in1である。スペック面では、初代GPD PocketはAtom x7-Z8750を採用していたが、OneMixはAtom x5-Z8350でより低価格。2代目で比較すると、GPD Pocket 2はeMMC採用だったが、OneMix 2はPCIe SSD採用でより高性能……といった点で差別化がなされている。

また、GPD Pocketは2が発売開始された時点で、初代の生産を終了させたが、OneMixに関しては併売というスタンスをとっている。そしてOneMix 3が登場したあとも、すべて併売するという。これは、異なる需要とセグメント向けに異なる製品を提供する同社のスタンスの現れだ。

今回のOneMix 3のライバルは、「GPD P2 Max」辺りだろうか。ただ、今回に関しては、両製品の相違点は多く、一概に競合とも言えないところがおもしろい。各機種の比較については下表にまとめてみたが、今後OneMixとGPD Pocketの差異は広がっていく可能性はある。

大型化で可搬性は下がるも拡張性が向上

今回入手した試作機はブラック筐体であるが、実際のベースモデルはシルバーである。シルバー筐体のモデルは、国内でのOneMix 2S発表会で展示されていたので、そちらの写真を参考として掲載しておく。

このブラック筐体は、メモリを16GB、SSDを512GBに強化した「OneMix 3S」で使われる。ちなみにOneMix 3SをベースにCPUをCore i7-8500Yに強化した「OneMix 3S Platinum Edition」も用意されているが、こちらはガンメタル、Appleで言うところのスペースグレイになる見込みだ。

8.4型に大型化されたOneMix 3だが、本体サイズは204×129×14.9mm(幅×奥行き×高さ)と、OneMix 2の182×110×17mm(同)と比較するとひとまわり大きい。OneMix 2は成人男性のズボンのおしりのポケットに収まるサイズであったが、3は無理である。同様に、OneMix 2が問題なく収められるカバンでも、3を収めることは不可能。可搬性に関して言えば、両製品はまったく別の次元だ。

一方で大型化により、キーボードのキーピッチに余裕が生まれ、内部容積の拡大によってバッテリ容量も拡大。放熱性能とバッテリ容量の向上により、キーボードバックライトが復活。さらに、液晶の高解像度化も実現し、筐体の左右にインターフェイスを振り分けることも可能となった。目に見えないところでは、M.2 SATA SSDの拡張も可能となっている(NVMeは不可。ちなみに3SはM.2非搭載)。

これだけ製品の性格が異なれば、併売されるのも頷ける。ただ、これ以上巨大化すると「普通のノート」になってしまうので、日本国内のモバイラーにとってUMPCとして受け入れられるのはこのクラスまでだろう。

さらに言えば、OneMix 3は重量は公称で659gと、OneMix 2から100g以上重くなっている。あと39g足せば、富士通の「LIFEBOOK UH-X/C3」に相当する重量なってしまう。しかもLIFEBOOK UH-X/C3は13.3型液晶でフルピッチのキーボード、4コア/8スレッドのCore i7-8565Uまで載っていることを考えると、重さを気にするユーザーにとってOneMix 3はやや説得力に欠けるのも確かではある。

もっとも、現時点では8.4型のキーボードつき端末は他社にはないし、フットプリント的な観点から言えば、十分にUMPC好きなモバイラーを説得できる。なにせWindowsモバイルのエポックメーカーである「Libretto 20」のサイズは210×115×34mm(同)、重量は840gだったので、Librettoの持ち運びに苦を覚えなかったユーザーなら、OneMix 3も問題ないはずだ。

OneMix 2Sの国内発表会のさいに、ONE-NETBOOKのJack Wang社長は「OneMix 3はシリーズ史上最大のサイズとなっている。現時点ではOneMix 3と同じ画面サイズを踏襲しながら、技術の進化によってさらなる小型軽量化を図っていく予定はあるものの、サイズや重量が増えることはない」と公言しているため、これ以上の大型化は考えられないだろう。

キーピッチは拡大するも配列が大幅に変更

筐体の大型化に伴いキーボードに余裕が生まれたのは先述のとおり。キーピッチは公証18.2mm/実測18mmと、OneMix 2の実測16mmから2mm以上拡大した。このため、窮屈だった印象が大幅に改善されている。エッジトゥエッジの設計で、スペースのムダがないのもいい。

また、キーバックライトが復活したのもうれしいところ。筆者は取材する仕事柄、発表会場でスライドや登壇者に注目するため、記者席では照明を落とされることは多々あるのだが、こういった場所でもキーボードの視認性が高まり、OneMix 2より実用性が高まっている。

ただ、このバックライトはFn+スペースでオン/オフが切り替えられるものの、その状態が保持されず、電源を切ったりサスペンドから復帰するタイミングで必ずオンになるのはマイナスポイント。そのままタブレットモードに移行するとオンになったままの状態になってしまう(しかもキーボードが無効だから、タブレット形状ではオフにできない)。キーバックライトの使用頻度高くないはずで、必要に応じてオンにすればいいのだから、標準ではオフにしてもらいたかった。

それから、キー配置OneMix 2から変わっている点に注意したい。OneMix 2の「Q」の上にあった「Tab」キーが数字の「2」の上になったほか、英語配列キーボードにおいて日本語入力のオン/オフで使われる「`」が「1」の上から「5」上になった。以下に相違点をリストアップしたが、それなりに変化はある。

なお、筆者が入手した試作機の配列は確定前のものであり、最終的には下の図のようになる。試作機では「`」の位置がカーソルキー↑の上にあったためかなり戸惑ったが、最終製品はGPD Pocket 2に似た位置となるため、大きな問題にはならないだろう。ただ、これだけ大型化したのにもかかわらず、QとAの列の位置関係が標準キーボード相当ではなく、従来どおり半キーずらしな点は惜しい。

高解像度ディスプレイなど、そのほかの使い勝手を見る

ディスプレイはOneMix 2の1,920×1,080ドット表示対応7型から、2,560×1,600ドット表示対応の8.4型へと拡大。情報量(総画素数)で言えば、じつに約1.78倍にも達する。ただ大型化を伴っているため、画素密度は2が323dpi、3が359dpiと、11%程度向上にとどまる。

とはいえ、100%スケーリングだと見にくいというユーザーは従来よりも多くなるのは間違いない。Windowsのデフォルトでは250%スケーリングを推奨しているが、これはやや大げさではある。UMPCに慣れているユーザーであれば、125~150%程度、ゆとりをもたせても175%で十分だろう。

液晶は相変わらず品質が高く、色味、視野角、コントラストともに文句なしだ。唯一気になるとすればリフレッシュレートが60Hzではなく56Hzとなっている点だが、ゲームプレイを想定した製品ではなくビジネス向けなので、問題はないだろう。

ポインティングデバイスに関しては従来と同じ光学式となっている。液晶解像度が向上しやや移動量が増えるため、従来よりマウスポインタの動きを速めたほうがいいだろう。

UMPCで気になる熱だが、OneMix 3を分解してみたところ、新たにヒートパイプが1本増え、大型の銅板につながっていることが確認できた。そのため、OneMix 2では本体右側に集中してしまう熱は、底面全体に広がるようになった。これによって、ファンの速度が上昇するまでの時間を抑えている。とはいえ、負荷時の温度的にはOneMix 2とほぼ同等だ。

ただ、OneMix 3の負荷時のファンの音は2よりやや大きくなっている印象。本機はFn+Deleteキーでファンの回転数を抑えるモードを備えているが、積極的に使いたいところである。

OneMix 3では基板レイアウトに見直しが入り、ファンを挟んで左右に基板を配置し、基板同士をフラットケーブルでつなげる形状となった。このため、OneMix 2ではインターフェイスが右に集中していたが、OneMix 3では左右に分離された。

左側面にはMicro HDMIと音声入出力、右側面にはmicroSDカードスロット、USB 3.0 Type-C、USB 3.0を装備するようになっている。また、左側面にはSIMカードスロットの場所が用意されており、将来的に実装されると見られる。大型化したのにもかかわらずインターフェイスが増えていないのはやや寂しいところだが、片側に集中しなくなったのは良いだろう。

ちなみに8.4型への大型化で一番恩恵を受けるのはタブレット利用時かもしれない。従来の7型ではタブレットとしてはかなり小さく、正直なところあまり実用的ではなかったが、8.4型であれば電子書籍リーダーや動画ビューワとして使うのはアリだろう。

Core m3-8100Y搭載で実用十分な性能

それではいつもどおりベンチマークで性能をチェックしていきたい。今回利用したベンチマークは「PCMark 10」、「3DMark」、「ドラゴンクエストX ベンチマーク」、「CrystalDiskMark 6.0.1 UWP x64」、「Cinebench R20」である。比較用として、OneMix 2試作機とGPD Pocket 2のスコアを入れている。

既存のOneMix 2Sとほぼ同じ仕様であるため、性能についてあえて詳しく述べるポイントはあまりないのだが、OneMix 3は期待どおりの性能を発揮してくれたと言えるだろう。一部OneMix 2試作機に負けているが、これはOneMix 2試作機のほうが高性能なCPUを搭載しているからで、実際はOneMix 2Sと同等だ。ストレージがGPD Pocket 2より高速なため、PCMark 10のスコアもそのぶん高い。

バッテリの駆動時間は、今回PCMark 10に新たに実装されたバッテリ計測モードを画面輝度50%の状態で計測したところ、6時間19分駆動した。「OneMix 2S Platinum Edition」が約5時間近く駆動していたことを考えると、バッテリの大型化を考慮してもう少し健闘しても良かったのではないかと思うが、画面が大型化している上に解像度も増しているので、妥当なスコアかもしれない。外出先で4~5時間程度の作業なら問題なくこなせるだろう。

高い実用性と将来性に期待

小型PC好きにとって筐体の大型化はやや残念に思われるかもしれないが、じつは次期Ice Lake世代のYプロセッサでは、TDPが5.5Wから9Wに引き上げられている。8.4型への大型化は放熱性の面で余裕が生まれているので、Ice Lakeへの布石を示唆しているのではないか……として邪推もしたくなるが、2コアが4コアとなり、Thunderbolt 3が標準で入るのなら、たとえ8.4型だとして決して悪い話ではない気がする。

また、OneMix 3の試作機にはすでにSIMスロットの位置が用意されていた(スロット自体は未実装)。既報のとおり、OneMix 3はLTEへの対応が謳われているため、将来的にこのSIMスロットが実装され、M.2スロットにLTE対応モジュールを装着すれば対応できるようになる。これも7型サイズでは実現が難しかったところだ。

もっとも、たとえ上記の話が実現されなかったとすると、「単なる大型化で可搬性が下がってしまったマシン」になってしまうのも事実。だが、やはりキーピッチが広いほうが作業効率がいい。しかも視認性を度外視すれば、今人気のWQHDディスプレイと同等の作業環境を再現できるのもいいと感じた。

というのもじつは今回、COMPUTEX取材の出張のさいにこのOneMix 3とBluetoothマウスだけを持って行き業務をこなしたのだが、原稿の執筆からメールの返信、SNSのチェックなど、すべてストレスなく行なえたからだ。とくに、WQXGAを活かして、長い原稿と多数の写真を左右に並べて編集する、メール画面とブラウジング画面を左右に並べて多くの情報を俯瞰できるのはたいへんありがたい。

これがOneMix 2のキーボードとディスプレイだと、普段使い慣れているメインマシンからかなり作業効率が下がっていたことだろう。OneMix 2のほうが趣味性が強く、小型PC好きにとって魅力的に映えるが、出張や外出が多いビジネスユーザーにとって、OneMix 3のほうがより実用的なマシンであることは間違いない。