COMPUTEXで判明した第3世代Ryzenにまつわる裏事情 AMD CPUロードマップ

ドリル北村氏の速報にもある通り、COMPUTEX TAIPEI開催前日の5月27日に行なわれた基調講演で、AMDはRyzen 7およびRyzen 9を公開、そのスペックと発売日(7月7日)を明らかにした。

またNAVIについてもダイを公開している。そしてマザーボード各社はX570搭載マザーボードをお披露目しており(ASUS、MSI、ASRock、GIGABYTE)、いよいよ出荷準備が整い始めていることを感じさせる。

ドリル北村氏の記事は速報であるが、もう少し細かな情報は中山智氏の記事の方に出ている。ということで、今回はCOMPUTEX TAIPEI 2019の基調講演では語られなかった(けれど直後に公開された)AMDのプロセッサー情報をまとめて説明しよう。

第3世代RyzenをCOMPUTEXで発表

まず第3世代のRyzenについて。基調講演直後にAMDよりRyzen 9のパッケージイメージも公開されたが、実際のパッケージは下の画像のとおり。

左の硬貨の寸法から推定すると、大きさはこのあたりになる。

連載496回では、CPU Chipletを77.7mm2、I/O Chipletを132.7mm2と推定したが、それよりもう少し大きい程度であった。

Zen2アーキテクチャーの詳細は8月に公開

その第3世代Ryzenであるが、基調講演では示されなかったRyzen 5も同日出荷開始予定となっている。

こうなってくると、Ryzen 7 3800Xのポジションが非常に微妙である。というのは、定格でこそ最高速(3.9GHz)ながら、ブーストクロックは4.5GHzどまりになっているからで、むしろRyzen 9 3900Xの方が1bin高速という結果になっているためだ。

なぜRyzen 9 3900Xの方が高速か? というと、おそらく熱容量の関係であろう。連載496回でも推察したが、Ryzen 9ではCPU Chipletあたりでアクティブなコアが6つに減るから、相対的に熱容量に若干のゆとりができ、これが+1binの余裕につながっている。

おまけに3次キャッシュが32MB余分に加わるため、メモリー帯域不足にも陥りにくい。それがたったの100ドルアップで入手できる、となると普通に考えればRyzen 9 3900Xが超お買い得であり、Ryzen 7 3800Xは「お買い得ではあるけど(Ryzen 9 3900Xに比べれば)普通」に見えてしまう恐ろしさである。

AMD関係者も「この価格は予想してなかっただろ?」とニヤニヤ笑っていたあたり、相当マーケティング的には自信がある構成なのは間違いない。

ちなみに上でも少し触れたが、2ダイ構成の場合は「対象構成にする」のだそうで、例えば12コアを8コア+4コアや7コア+5コアなどにはしないという話であった。もっとも、10コアとか8コアとか14コアとか16コアとかの将来製品があるかどうかはノーコメントであったが。

連載496回で説明したCCXの構成であるが、Zen2でも4コアがCCXの最小単位になるという話であった。

したがって第3世代のRyzenのCPU Chipletは、2つのCCXから構成されるという構造が引き続き継承されることになる。性能的にどうなんだろう? という疑問はあるのだが、これはそのうちベンチマークを行なってみないとわからないところだ。

なおメモリーに関して言えば、「公式にサポートされるのは」DDR4-3200までだそうである。「非公式には?」は今回ノーコメントであった。

またTIM(Thermal Interface Material:ダイとヒートスプレッダの間に入る熱伝導物質)については、引き続きハンダが利用されるという話で、これは今回発表された製品(Ryzen 5/7/9)すべてでハンダを利用するとのこと。Ryzen 3あるいはAPUについては、TIM云々の前にそもそも製品の存在そのものについてノーコメントであった。

とにかく今回AMDは基調講演の後の説明会で豪華な面子をそろえつつ、「それはまだ言えない」の連発で、なんのための説明会だという気もしなくもなかった。

とくにRyzenの内部についてMacri氏にいろいろ突っ込んでみたものの、片端から「言えない」の山である。もっともAMDはこのZen2のアーキテクチャー、およびNAVI(というかRDNA)のアーキテクチャーについて、今年8月に開催されるHotChipsで詳細を明らかにするとしており、そこまでお楽しみは取っておきたいのかもしれないが。

新チップセットAMD X570を発表
下位グレードの投入予定はなし

次にチップセットについてだ。今回AMDはX570を公式に発表した(なぜか基調講演ではそれに触れられなかったが)。それもあってマザーボードメーカー各社は一斉に製品を発表した。

さてそのチップセットであるが、少なくとも現時点ではX570の下のグレードの製品は新規に追加の予定はない。

つまりメインストリーム向けにB550などが入る予定はなく、既存のB450あるいはX470あたりが引き続き第3世代のRyzen向けのメインストリーム用チップセットとして引き続き利用されることになる。

ちなみにX470やB450との互換性はもちろんあり、X370でもBIOSの対応さえ取れれば問題ないとのこと。

またRyzen 9 3900XやRyzen 7 3800XはTDPが105Wであるが、そもそもSocket AM4のVRMは最大140Wでデザインされており、B350やA320などは怪しい(とくに大昔、Bristol Ridgeと一緒に提供されたA320ベースのマザーボードは間違いなくアウトだろう)が、少なくともB450/X470世代のマザーボードなら電源供給に問題はない、という話であった。

X570チップセットのみがサポートする
PCI Express Gen4

以上のことから、現状X570のみがPCI Express Gen4に対応できるチップセットということになるが、これはすさまじい構成である。

まずCPUからグラフィック用のPCIe 4.0 x16とは別に、NVMe SSD用にPCIe Gen4 x4が用意される。そしてCPUとX570もやはりPCIe Gen4 x4で接続されるが、このX570からもPCIe Gen4 x16が出るという構成になっている。

そのX570から出るPCIe Gen4 x16レーンであるが、これはx4のPHYが4つの組み合わせになっており、全体でx16レーンにすることも、x1を16本出すことも可能である。

うちいくつかはSATAと共用になっており、もし必要ならX570からトータルで12のSATAポートを持つことも可能である(CPU側のNVMe用のx4もSATA×2+NVMe x2に構成できるので、トータルで14ポートが理論上は可能)。とはいえ、今時SATAをここまで接続するというニーズはそう多くないだろう。

また、CPUにx4、A570にx8で合計12のUSB 3.2 10Gbpsポートが搭載されており、USBポート不足に陥る可能性も少ないはずだ。

ただわからないのは、今回発表のRyzen 5/7/9を利用するとCPU側のUSB 3.2 10Gbps×4やNVMe向けのPCIe Gen4 x4が利用できるのはいいとして、従来のRyzen(Ryzen 2000シリーズは利用できる)を搭載した場合、以下の点が現時点では不明である(うっかり聞きそこなった。次の機会があれば確認したい)。

PCI Express Gen4は
発熱と価格に問題を抱える

なお、このPCIe Gen4であるが、すでにGIGABYTEがこれに対応したNVMe SSDを発表している。ただ、正直言えば確かに性能は出るのだが、まだコストと発熱の面でこなれているとは言い難い。

これはコントローラーとしてPhisonのPS5016-E16を搭載しているのだが、28nmプロセスを利用していることもあり、また4GB/秒以上の転送速度を実現するためにNAND Flashを8ch同時アクセスしていることもあって、発熱が結構大きい。

写真でもおわかりかと思うが、ヒートシンクがかなり大きいため、GIGIABYTEのマザーボードと組み合わせた時はともかく、他社のマザーボードとだといろいろ干渉する可能性がある。

ちなみにPhisonは複数社にPS5016-E16を供給しているが、どこの製品も結構ヒートシンクが大きい。したがって、安定運用には冷却に相当気をつける必要がある。

加えて、おそらくであるがX570搭載のマザーボードはX470のものに比べ、だいぶ価格がアップする。理由はPCIe Gen4そのものにある。

PCIe Gen4では速度が倍増した関係で、マザーボード上で引き回せる配線の距離が半減しており、これを超えて配線する場合にはReTimerと呼ばれるバッファ(ブリッジというかリピータというか)を間に挟み込む必要がある。

たとえばグラフィック向けのx16をマルチGPU用に2×8に振り分けるような構成になっている場合、見た目には非常に短いように見えて、実際は等長配線が必要になるのでけっこう配線の引き回しをやっており、この配線長の制限に引っかかる可能性がある。このため、16対の信号の全部にReTimerを挟み込む必要があり、これが高コストになる。

おまけに、そこまでやってもGPUの性能にはあまり関係がない。基調講演では3DMark FeatureTest PCIe(これはβ版での機能で、まだ一般公開版には実装されていない)を利用してPCIeの帯域が倍近いことをアピールしたが、そもそもPCIeの帯域が関係してくるのはゲーム内ではスタート前のロードなどの時間(テクスチャーなどをメモリーからGPUに転送する処理)だけで、一度ゲームが始まるといちいち転送などかけてられない(かけたらそれがボトルネックになる)ため、あまり意味がない。

現状はNVMe SSDないし、あるいはGPUをアクセラレーターとして利用するようなケースでのみメリットが見いだせる程度である。しかもPCIe Gen4対応のNVMeはまだ発熱も多いし、高価であろう。

このあたりがこなれてくるのはおそらく2020年に入ってからで、そうなると現状PCIe Gen4をPC向けに導入するメリットはごくわずかでしかない。B550チップセットが出ない、あるいは、メインストリーム向けにPCIe Gen4のソリューションがない理由はまさにこれである。

そのあたりを勘案してX570を購入するか、B450/X470ベースのマザーボードにBIOS更新をかけて待つか、と判断するのが妥当であろう。おそらくX470/B450でも性能面での遜色はほぼないと判断できる。

NAVIのダイサンプルを撮影
詳細は6月10日のイベントで発表

最後に1つおまけ。下の画像がNAVIのダイサンプルである。こちらはGDDR6を利用するとリリースで明言されており、今年6月10日に行なわれるNext Horizon Gamingというイベントで詳細が発表される予定である。