Intelの高速大容量メモリ「Optane」を追いかける

半導体メモリ技術の研究開発に関する国際学会「国際メモリワークショップ(2019 IEEE 11th International Memory Workshop(IMW 2019))」が、米国カリフォルニア州モントレーで2019年5月12日~15日(現地時間)の日程で開催された。

IMWは半導体メモリに特化した学会なので、同じ国際学会でも「世界初」や「世界最大」、「世界最速」のシリコンダイを披露するような派手な発表はあまりない。その代わりに、メモリ技術の詳細に関する知見を得られるというメリットがある。

最近の大容量不揮発性メモリに関する研究開発に、Intelの高速大容量メモリ「Optane」こと「3D XPoint」メモリを追いかける動きがある(Intel-Micron連合が発表した“革新的な”不揮発性メモリ技術の中身参照)。クロスポイント構造のセルアレイを3次元積層することで、大容量かつ高密度の不揮発性メモリを実現しようとする。昨年(2018年)のIMWでは、抵抗変化メモリ(ReRAM)と磁気抵抗メモリ(MRAM)を記憶素子とするクロスポイント構造のメモリ技術がそれぞれ発表された(ReRAMとMRAMがクロスポイント積層で100Gbit超えの大容量化へ参照)。

そして昨年12月には国際学会IEDMでSK Hynixが3次元クロスポイント構造で128Gbitと大容量の不揮発性メモリを試作発表した(3次元クロスポイント構造で128Gbitの大容量不揮発性メモリをSK Hynixが開発参照)。ちなみにシリコンダイ当たりで128Gbitという記憶容量は、Optaneのシリコンダイと同じである。

今年(2019年)のIMWでは、3次元クロスポイント構造を目指したメモリ技術の発表が相次いだ。確認した範囲では、発表は全部で6件ある。そのなかで4件は記憶素子とセレクタを組み合わせるセル、残りの2件はセレクタを使わないセルの発表だった。記憶素子とセレクタを組みわせるセルの発表のなかで、2件は記憶素子とセレクタを組み合わせたセルに関するもの、1件は記憶素子に関するもの、1件はセレクタに関するものである。

セレクタの発表に共通しているのは、いずれも「オボニックスイッチ(OTS: Ovonic Threshold Switch)」を扱っていることだ。IntelはOptaneメモリの要素技術を明らかにしていないが、シリコンダイを分析した企業の発表では、OptaneメモリもOTSを採用している(ついに明らかになった3D XPointメモリの正体。外部企業がダイ内部を原子レベルで解析参照)。さらに、昨年12月のIEDMでSK Hynixが発表した3次元クロスポイント構造のシリコンダイも、メモリセルのセレクタ技術はOTSがベースとなっている。

セレクタと組み合わせる記憶素子に関する発表は、相変化メモリ(PCM)が2件、ReRAMが1件である。ちなみにOptaneメモリの記憶素子は、PCMであることが明らかになっている。

バッファ層の導入で書き換えサイクル寿命を延ばす

ここからは、発表のいくつかをまとめてご紹介しよう。まずはPCMの記憶素子とOTSのセレクタを組み合わせたメモリセルの研究成果である。IBMとMacronix International(以降はMacronixと表記)が共同で、2件の発表を実施した。1件はおもにメモリセルの構造と、書き換えサイクル寿命の関係を調べた研究である(論文番号2-3)。

クロスポイント向けのメモリセルは、PCM層とOTS層を積層する。このときPCM層とOTS層の間にバッファ層を挿入することで、データ書き換えサイクル寿命が延びることを確かめた。PCM層の材料はGe2Sb2Te5(GST-225)で、PCMとしては標準的な組成である。OTS層の組成はTeAsGeSiSeと、AsSeGeの2種類を検討した。

バッファ層を挿入したメモリセルの書き換えでは、10の7乗サイクルまで劣化が見られず、10の9乗サイクルを経ても動作が可能であることを確認した。

もう1件は、PCM層のデータ書き換えサイクル寿命に関する研究である(論文番号P7)。トップ電極とPCM層の間にバッファ層を挿入することで、書き換えサイクル寿命を10の5乗回から、10の10乗回に延ばすことができた。PCM層の材料はGST-225である。

ReRAM記憶素子とOTSセレクタのセルで動作を確認

続いてReRAMの記憶素子とOTSのセレクタを組み合わせたメモリセルの研究成果である。CEA-Letiが2件の発表を実施した。1件はメモリセルを試作して評価した結果である(論文番号5-6)。記憶素子の材料はHfO2、セレクタの材料はGeSeSbN(GSSN)で、HfO2層とGSSN層の間にはTiNの中間電極が存在する。試作したメモリセルは正常に動作した。長期信頼性の確認についてはまだこれからのようだ。

もう1件はセレクタ用OTS材料に関する研究である(講演番号2-4)。OTSの材料はGe3Se7-As2Te3(GS-AT合金)で、GSとATの比率を調整することで、セレクタのスイッチング寿命を10の10乗回に延ばした。

セレクタを使わないクロスポイント技術

このほか、セレクタを使わないクロスポイント・メモリ技術の発表についてご紹介しよう。AP Memory Technologyが、ハフニウム酸化物系の強誘電体キャパシタを記憶素子とするクロスポイント構造を提案した(論文番号4-1)。強誘電体キャパシタは印加電圧に対する分極のヒステリシスが大きい。セレクタがなくても十分なオフ状態を維持することで、クロスポイント構造の課題であるスニーク電流(隣接する非選択セルを通して流れる余分な電流)を十分に抑制できるとみる。

また東芝メモリなどの共同研究グループが、Ag系合金と酸化膜の組み合わせによる抵抗変化記憶素子を発表していた(論文番号P1)。電流電圧特性におけるオン電流とオフ電流の比率が100以上と大きい。このため、セレクタを使わないクロスポイント構造に適用する可能性があるという。