Ryzen 5 2600対Core i5-9400Fガチンコ対決 コスパ党ならどっちを選ぶ!?

現在メインストリーム・プラットフォーム向けのCPUは、どこかのドイツ車の例に習って7/5/3とグレード分けされている。7/5/3の3グレードの中で、パフォーマンスを重視するなら「7」、予算を抑えるなら「3」になる。そして「5」は、パフォーマンスを重視しつつ予算も抑えるバランス型だ。つまりコスパ党にオススメのグレードは「5」だ。

AMD CPUの「5」グレードと言えば「Ryzen 5」。Intel CPUの「5」グレードと言えば「Core i5」。ちなみに、Ryzen 5 2600は6コア、そして最近発売されたCore i5 9400Fも6コアだ。同じ6コア同士、戦わせてみたらどうなるだろうか。試してみよう。

AMD対Intel、ミドルレンジCPUでコスパを徹底比較

Ryzen 5 2600は、現在2600X/2600/2600E/2500X(2600Eと2500Xは一般販売なし)とある第2世代Ryzen 5のなかで上から2番目の製品になる。6コア12スレッド対応のCPUで、定格クロックは3.4GHz、最大ブースト・クロックは3.9GHzだ。ちなみに、Ryzenは「G」付き以外はGPU非搭載のCPUで、ビデオカード分のコストも計算しなければならない分、コスパで少し不利なところもあった。しかし、次に説明するCore i5-9400Fは、Intelのメインストリーム向けCPUとしてはめずらしいGPU非搭載CPU。つまり同じ土俵と言うわけだ。

Core i5-9400Fは、現在9600K/9600KF/9400F/9400とある第9世代Core i5のなかで上から3番目の製品になる。6コア6スレッド対応で、定格クロックは2.9GHz、ターボ・ブースト時の最大クロックは 4.1GHzだ。

両者を比較する際、ポイントとなるのがまず「SMT(Simultaneous Multithreading)」。同時マルチスレッディングと訳される機能だ。Ryzen 5 2600は、6コアだがSMTにより12スレッドの同時実行ができる。Core i5-9400Fは、6コアだがIntel版SMTであるHyper-Threadingに非対応のため6スレッドの同時実行となる。ここで性能差が出るのか見ものだ。

次にクロック。定格はRyzen 5 2600が3.4GHzと高めだが、最大クロックはCore i5-9400Fが4.1GHzと高い。定格クロックはマルチスレッド時の性能を推し量るのに適しており、一方の最大クロックはシングルスレッド時の性能を推し量るのに適している。そこからすると、マルチスレッドに強いRyzen 5 2600対シングルスレッドに強いCore i5-9400Fとなる。ただしこれもSMTの効率や、1クロックあたりの処理性能「IPC(Instructions Per Clock)」などが絡むため、ベンチマークで計測してみなければ分からない。

そしてメモリ。Ryzen 5 2600はDDR4-2933までのサポート、Core i5-9400FはDDR4-2666までのサポートだ。メモリのクロックのパフォーマンスに対する影響は、通常であればそこまで大きいものではない。しかし、どちらもコア数が多いので、CPUとそのほかの部分との間で帯域が足りるのかという疑問もある。ここは、それぞれのサポート上限で比較をしてみたい。

システム価格は(順当なパーツ選びなら)AMD Ryzen 5 2600のほうが安い

組み合わせるマザーボードを選ぶにあたり、まずチップセットから検討してみた。AMDはX470、B450、A320があり、IntelはZ390、H370、B360、H310がある。もっとも高機能なのは、AMDならX470、IntelならZ390だが、パフォーマンスがよくてもコストは高い。もっとも安価なのはAMDならA320、IntelならH310だが、コストは安くてもパフォーマンスに制限が付く。今回のお題はコスパでありコストとパフォーマンスのバランスなので、パフォーマンスへの影響が最小限で、できるだけコストを抑えられるチップセットとして、AMDはB450、IntelはH370を選んでみた。

マザーボードも、せっかく比較をするならばASRockの「B450 Pro4」と「H370 Pro4」を用意した。製品名にあるとおり同じグレードの製品なので、搭載可能なCPUとチップセットの機能のほかは似たような仕様だ。

検証環境が固まったところで価格を計算してみよう。まずCPUはRyzen 5 2600が19,000円前後なのに対し、Core i5-9400Fは22,000円前後とまずここで3,000円差がある。次にマザーボード。B450 Pro4は10,000円前後なのに対し、H370 Pro4は12,000円前後と、ここでも2,000円前後の差が生まれた。合わせるとRyzen 5 2600システムのほうが5,000円ほど安い結果だ。あくまで機能的に同等のシステムを検討した場合の価格差だが、コスパ重視の方にとって、5,000円は大きいのではないだろうか。

もっとも、メモリに関してはDDR4-2933の場合はOC(オーバークロック)メモリの扱い、DDR4-2666まではDRAMチップレベルで対応しているということで、製品数や価格ではDDR4-2933は高価、DDR4-2666は安価だ。そのため、今回の検証のようにサポート上限のメモリを採用した場合、実際に1台組んだ場合の価格差はもう少し小さくなるだろう。ここまで解説してきたことを踏まえまとめた検証環境は以下のとおり。

ここからのベンチマークにおけるポイントを一つ挙げておこう。RyzenのCPU性能に関して言えば、メニーコア化されたことでマルチスレッディング性能が高まったものの、IPCの点ではまだIntel CPUにやや及ばないところがある。マルチスレッドテストではRyzen 5 2600が勝ち、シングルスレッドテストではCore i5-9400Fの優位が予想される。

システムバスまわりでも、若干まだIntelプラットフォームのほうが最適化度合いで勝っており、例えばビデオカードの性能やメモリの性能を引き出すという点ではAMDプラットフォームにハンデがある。

その上で、先に言及したとおりシステム価格はRyzen 5 2600のほうが安価に収まる公算が大きい。つまり、以降のベンチマークでは全体的に見ればCore i5-9400Fのほうが優位に出ることは間違いなく、Ryzen 5 2600のスコアを見るポイントは、どこまでCore i5-9400Fに食らいついていけるのかだ。そして価格差をうまくパーツ選びに利用して、追いつく、追い越す見込みがつけば、対等、あるいはRyzen 5 2600が優位という結論に結びつけることができるだろう。

厳密にはCore i5-9400Fが優位だが、その差はパーツ1つで逆転できるレベル

ベンチマークテストでは、ここまで紹介してきたパーツのほか、DDR4-2933とDDR4-2666のXMP(Extreme Memory Profile)プロファイルを持つ8GBメモリ2枚と、SSD、そしてビデオカードにGeForce GTX 1080 Tiを用意した。以降はこの検証環境におけるベンチマークの結果である。3D性能については、お使いになるビデオカードでスコアも違ってくる。今回は、GPU側の性能に余裕をもたせ、CPU側の性能の違いを明確にしたいための選択だ。

それではまずCINEBENCH R20でCPU性能を見た上で、アプリケーション性能を見るためにPCMark 10、3D性能を見るために3DMarkを計測した。

CINEBENCH R20は、Ryzen 5 2600とCore i5-9400Fの得手不得手がよく現れた。マルチスレッドテスト側は、Ryzen 5 2600が2798cbで、Core i5-9400Fが2353cb。その差は445ポイントで、Ryzen 5 2600が優位に立つ。コア数が同じでも、Ryzen 5 2600はSMTに対応しているため、より高いスコアとなった。

シングルスレッドテスト側は、Ryzen 5 2600が397cb、Core i5-9400Fが428cb。31ポイント差でCore i5-9400Fが優位だった。この点で、Ryzen 5 2600はマルチスレッド処理中心の用途に適している。

PCMark 10では、Extended ScoreでRyzen 5 2600が7110、Core i5-9400Fが7656だった。スコアの差は546ポイント。シナリオ別に見ていくと、Essentialsの差は小さく、ProductivityとDigital Content Creationはやや大きな差が付きCore i5-9400Fが優位、Gamingも少し大きめの差だろう。この傾向から見ると、普段使いではほぼ同等だが、業務系用途ではRyzen 5 2600は苦戦している。Gamingは後ほど3DMarkでじっくりと見てみたい。

【コラム】Ryzen 5 2600ならOCで一発逆転も狙える

先のとおりPCMark 10の結果はRyzen 5 2600がかなり苦戦している。しかし、Ryzen 5 2600とAMD B450、Core i5-9400FとIntel H370でもう一つ違うところがOC対応だ。Intelのメインストリーム向けCPUでのOCは、型番に「K」が付く各グレード最上位モデルのみが許される。しかし、AMD Ryzenでは、「X」の付かないRyzen 5 2600でも倍率ロックはなく、OCが可能だ。ここでごく簡単に、Ryzen 5 2600を3.4GHzから3.8GHzにOCした場合のPCMark 10のスコアを計測してみた。

するとどうだろう。Extended ScoreではCore i5-9400Fを逆転し、まだ一部及ばないテストもあるが、かなり多くのテストで肉薄、逆転するものが出てきた。Ryzen 5 2600が不得意としていた業務用途でのパフォーマンスもばっちりだ。OCと言うとリスクの高いものを想像しがちだが、今回の3.8GHzはCPU付属の「Wraith Stealth」のまま、コア電圧を1.55Vに決め打ちして安定性を探っただけだ。コア電圧もクロックにも、まだ煮詰めるだけの余裕がある。Ryzenにはこうした「お値段以上」の性能を引き出す楽しみ方もある。

3DMarkのOverallは、Sky DiverとTime SpyでRyzen 5 2600が優位に立ったものの、Fire StrikeとNight RaidはCore i5-9400Fが優位だった。勝ったり負けたり一貫性がない。このあたり、各テストでどのあたりにもっとも負荷がかかるのかでも変わるが、どうもプラットフォーム側の最適化が足りていない印象がより強い。もっとも新しいNight Raidでここまでの差がついているのがその最たるところだ。まあ、Night Raidを除けば勝つにせよ負けるにせよ大差はなく、概ね同等の性能と言える範囲ではないだろうか。基本的に、3D性能に関してはCPUによる違いは小さく、GPU性能が左右するところだ。

次はゲームベンチマークを試してみた。FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク、Tom Clancy's Ghost Recon Wildlands、Shadow of the Tomb Raiderと、ベンチマークツールあるいはビルトインベンチマークのあるものを選んでいるので、計測誤差は少ないはずだ。

まずは国内ゲームメーカーのメジャータイトルであるFINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマークを見てみよう。すべての設定で、Ryzen 5 2600よりもCore i5-9400Fのほうが高スコアではある。ただし、十分に快適なプレイが望める「とても快適」評価が出た2560×1440ドット/高品質時で、わずかに5ポイント差だ。映像を見て、その違いに気づくこともないだろうレベルである。

次のTom Clancy's Ghost Recon Wildlandsでは、スコアではなくフレームレートを出すため違いが明確になることを期待した。結果は、3840×2160ドット/非常に高いプリセットでは0.99fps差だった。フレームレート自体、50fps台に乗っているためプレイに支障のない設定と言える。ただし、解像度と画質を落としていくと、やや差が大きくなる。1920×1080ドット/中プリセットでは、15.85fps差になった。ただ、120fps近いフレームレートなので、高リフレッシュレートのゲーミング液晶ディスプレイを組み合わせてようやくその差に気づくレベルだ。

最後のShadow of the Tomb Raiderは、さらにゲーム自体が重めだ。3840×2160ドット/最高プリセットでは、どちらも40fps程度なので現実的な設定ではない。その下の2560×1440ドット/高プリセットで比較をして、差は3fpsとなった。なお、1920×1080ドット/中プリセットで5fps差だった。

同じ予算で同等の性能を引き出すならRyzen 5 2600のほうが楽しいかも!?

CPU性能に関して言えば、Ryzen 5 2600の魅力はマルチスレッド性能だ。現在のPCの使い方を想定すれば、ブラウザ上で表示したSNSでは逐次更新があり、チャットなどを起動させていることも多く、その上でメインの作業をするといったことが想定される。そのため、普段使いで複数の作業を同時に行なっている時の快適度は、Ryzen 5 2600に軍配が上がるかもしれない。

メインの作業も、今ではゲームはもちろんオフィススィートもマルチスレッド化されている。また、Ryzen 5 2600は、Core i5-9400Fよりも高クロックのDDR4-2933をサポートしていることも見逃せない。今後、数年使っていくことを考えれば、同じような価格帯なら、よりマルチスレッド性能が高く、高クロックなメモリをサポートするCPUを選んでおくことでより快適なレスポンスが得られる理屈は通っている。それ以上を望む場合は、OCという奥の手もRyzen 5 2600にはある。

ゲームに関して言えば、3DMarkよりも実タイトルでのベンチマーク結果が分かりやすいが、フレームレートに差が生じることは確かである。全体的な傾向として言えば、わずかでも高いフレームレートがほしければCore i5-9400Fのほうが現状ではよい。ただし、実際にプレイする場合の、60fpsを確保できるもっとも高い解像度と画質設定では、3~5fps程度の違いがあるかどうかといったあたりだ。

その3~5fpsという差は、実は同じGPUでもオーバークロックすれば並び、逆転も可能なレベルである。市場には同じメーカーの同じGPUを搭載するビデオカードにもいくつかのグレードがある。クーラーの違いもあるが、実はクロックの違いであるものが多い。ここで、先に紹介したシステム価格差の話題に戻りたい。このシステム価格差は、一つ上のGPUを狙えるほどではないが、同じGPUでより高クロックのビデオカードを買える程度はある。ここで一発逆転を狙うという手もアリだ。

また、最近ではゲームをプレイしながら実況配信も同じPCで行なう人も多い。そうした、ゲームと実況配信アプリの同時使用、もしくはゲームプレイと同時に録画といった、複数の作業を行なう際、Ryzen 5 2600のマルチスレッドが活きることもある。

Ryzen 5 2600もCore i5-9400Fも、正直に言えば、どちらを選んでもコスパ的にはハッピーなはずだ。ただし、OCしたり、同等の性能を引き出すために高いクロックのビデオカードを組み合わせたりと、Ryzen 5 2600には「自作道」を刺激するところが多い。ベストな組み合わせを選びだし、組み上げ、通電した時の達成感はおそらくRyzen 5 2600のほうが勝るのではないだろうか。