5G「生活革命」が始まった!

<自動運転や遠隔医療や没入感満点のVRスポーツ中継──5Gというととかく夢の技術として語られがちだが、この4月から始まったサービスでは、今使っている技術の延長線上に生活を一変させる革命が起こる>

4月3日、韓国の通信会社、KTとSKテレコム、そしてアメリカの通信会社、ベライゾン・コミュニケーションズが相前後して次世代通信規格「5G」の商用サービスを開始した(『日経ビジネス』2019年4月15日)。

「5G」というと自動車の自動運転ができるとか、万物がインターネットでつながるIoT(物のインターネット)が実現するとか、夢のような未来の話かと思いきや、意外に早く5G時代が始まったのである。

4月16~17日に開催されたファーウェイ(華為技術有限公司)のグローバル・アナリスト・サミットで発表された調査によれば、アンケートに回答した世界各国の通信業者のうち42%が2019年のうちに5Gのサービスを始める予定だと回答し、27%は2020年に始める予定だという(Huawei, Mobile World Live, 5G Report: Accelerated momentum in 5G network rollouts as the search for business models continues, 2019)。

4Gが始まった2009年に比べて、5G元年である2019年には専用チップや基地局、スマホなど5Gに対応した機器がすでに数多く出ているので、これから5Gへの移行が急ピッチで進み、2022年には全世界のユーザー数が5億人に達するとファーウェイでは予測している。日本のドコモ、au、ソフトバンクも2019年のうちに試験サービスを開始し、2020年に本格始動する予定である。

テレビカメラがワイヤレスに

自動運転はまだ実験段階だというのに、通信事業者たちはなぜ5Gへの移行を急いでいるのであろうか。その理由はいたって現実的で、通信の運営コストが削減できるからである。調査によれば通信事業者の52%が5Gを始める最も重要な動機としてコストの削減を挙げていた。つまり、同じビット数の情報をやりとりするのに、5Gの方が従来の通信方式より低コストでできるのである。

つまり、5G時代が始まったからといっていきなり自動運転が始まるわけではなく、いま我々がスマホで使っているサービスがもっと快適にサクサク動くようになる、という程度が当面の展開であろう。

だが、そうした量的な向上のすぐ先には質的な転換が待っている。

例えば、通信速度が速い5Gを使えば4Kや8Kの画像を無線で送ることができるので、テレビカメラをワイヤレスにすることができる。スマホぐらいの小さなカメラを使っても大画面での視聴にも十分耐えるような質の画像を現場から中継することが可能になる。そうなると、テレビ局のカメラマンの仕事もだいぶ楽になるだろう。だが、より突き詰めて考えると、スマホに装備されたカメラでテレビ中継できるということになれば、高価な放送機材を持たないような人々もテレビ報道をすることが可能となり、放送というもののあり方が根本から揺さぶられる可能性もある。

ファーウェイの胡厚崑(Ken Hu)副会長は、5Gが広まれば、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)が急成長するだろうと予測する。これまでVRを見るには分厚くて重いゴーグルをかぶらなくてはならず、それが普及の大きな妨げとなってきたが、5Gを使えばそれを眼鏡みたいに軽くて薄いものに変えることができる。胡副会長は2025年には世界のVR/ARのユーザーが3億4000万人に達すると予測する。

5G時代の現実的なイメージを示しているのが、ファーウェイの提唱する「1+8+N」という製品戦略である。1とはスマホで、8はスマホとWiFiやBluetoothなどで連結された8種類の機器、すなわちパソコン、タブレット、テレビ、自動車、イヤホン、眼鏡、腕時計、スピーカーを指し、Nはプリンター、プロジェクター、カメラなどの周辺機器を指す。スマホとこれら周辺の機器が相互に連携してそれぞれの機能を高め合うというのが1+8+N戦略の意味である。

実は、我が家で数カ月前に新調したコンパクトステレオもスマホによって駆動される周辺機器の一つになりつつある。このステレオではFMラジオも受信できるし、CDを再生したり、iPodをUSBで接続して再生することもできる。だが、FMラジオを直接受信するよりも、スマホで「ラジコ」というアプリを起動して、インターネットのFMラジオを受信し、それをBluetoothでステレオに飛ばして再生する方が受信状況がいいことに気づいた。

CDディスクがいらなくなる

私はまだ昔からの習慣でCDを買うのだが、子供はスマホでダウンロードした音楽をステレオにBluetoothで飛ばして聞いており、もうCDを買うことにあまり関心を示さなくなった。また、最近発売されたCDのなかには、スマホに同じ音楽をダウンロードできるようになっている場合もあるようだ。結局、CDに入っているのもデジタル化された音楽なので、インターネットでダウンロードするものと変わらないはずである。5Gになったら後者の方がより音質がいいということになるかもしれない。

近い将来、「CD」を買っても、中にはディスクは入ってなくて、カバーと歌詞カード、そしてスマホで音楽データをダウンロードするためのQRコードだけになるかもしれない。その時はステレオ機器のほうもCD再生機能が不必要になり、Bluetoothを受信する機能だけが残って、完全にスマホの周辺機器になるだろう。

自動車もこれからはスマホの周辺機器になる可能性がある。我が家の車の場合、現状ではカーステレオとスマホがBluetoothでつながっていて、スマホの中に入っている音楽をカーステレオで聞いたり、スマホにかかってきた電話に車内のマイクで応答したりということはできる。だが、車とスマホとをもっと深く連結することができれば、大きな可能性が広がる。

例えば、車に装備されたカーナビをスマホと連結することで機能を高めることができるはずである。いま日本の自動車の多くにはカーナビがついていて便利なのだが、一つの欠点は、内部のメモリーに記憶されている地図データを使うので、データを更新しない限りだんだん古くなっていくことである。私の場合、車を買った時の地図データを車を買い替えるまでの10年間ずっと更新しなかった。それでも日本では道路の位置が変わったり、新たな道路が増えるペースがゆっくりなので大した不自由はなかったが、駐車場やレストランの情報が最新のものに更新されていればいっそう便利だったと思う。

スマホの地図アプリは情報が頻繁に更新できる点がメリットだが、スマホは画面が小さい上に、日本のスマホの地図アプリは地理的な位置の正確性に課題を残しているように思う。車に備わっているカーナビはGPS衛星の信号だけでなく、車自体の情報も集めることによって、例えば長いトンネルのように衛星からの信号が届かないところでも、車の位置を正確に地図上に表示できる。ナビとして使うのであればやはり車に装備されたカーナビの方が有用である。

ところが、中国ではスマホの地図アプリがカーナビにとって代わるぐらいの性能を持っている。中国では、日本のように車にカーナビが備え付けてあることは稀である。かつてタクシーの運転手は地元の都市についてはすべての街路の名前を記憶していて、「長安街〇×号」とか告げれば、カーナビも地図も見ずに目的地に向かうことができた。だが、タクシー運転手はいったん地元の都市を離れるとからきしダメだった。運転手は地図も持っていなければ、車にカーナビが備え付けられているわけでもないので、別の都市まではたどり着けても、その都市のなかの目的地に行くには、結局道行く人に目的地までの道を尋ねて回ることになる。

ところがここ数年は運転席にスマホ台を備え、そこにスマホをつけてカーナビのアプリを利用する運転手が多くなった。そしてこのスマホのカーナビ・アプリが驚くべき性能なのである。

もし中国に行って車に乗る機会があったら、是非スマホで「百度」の地図アプリを起動し、目的地を入力してみてほしい。車の位置が5メートル以内ぐらいの誤差で把握でき、例えば高速道路のジャンクションで側道に入ったらすかさず「急カーブなので減速してください」とアナウンスが入るぐらい正確なのである。一般のGPSだけでなく、中国版GPSの「北斗」の信号も利用することで高い精度を実現しているのである。

面白いのは、ナビに自分の車の速度も表示されることである。スピードを出しすぎると「この道路は制限速度60キロなので減速してください」とアナウンスが入る。また、高速道路では「300メートル先に速度計測器がありますので気を付けましょう」と教えてくれる。

はっきり言って、私が日本で運転しているトヨタ車に備え付けのカーナビにはここまでの位置情報の正確性と情報のきめ細かさはない。スマホのナビアプリが正確なうえに、地図情報や道路情報も逐次更新されているとなれば、自動車に備え付けのカーナビなどいらない、スマホを乗せる台さえあればいい、ということになりかねない。

もともとカーナビは日本以外にはなかなか普及しにくい商品だった。アメリカではカーナビが車上荒らしに狙われるので、車にカーナビが装備されていることは稀である。レンタカーでカーナビを頼むとポータブル式のものを貸してくれて、車を離れるときには持ち歩くように言われる。

車に装着された日本式のカーナビは、治安がさほど良くない国では車上荒らしに狙われるとして敬遠され、中国などの途上国では高価すぎるとして敬遠され、なかなかグローバルな商品にはならなかった。

スマホとの連結次第

だが、ファーウェイの「1+8+N戦略」は、日本式のカーナビもスマホとの連携を強めることでもっと活躍の場が広がりうることを示している。スマホは最新の情報を簡単に取り入れることできるが、車に装備されたカーナビは車からの情報を集められるうえにスマホよりも画面が大きいという特徴がある。両者が連携すれば、位置情報が正確で、最新の道路情報や周辺施設情報が把握でき、かつ画面が大きくて見やすい最強のカーナビになるだろう。

それに加えて、車の他の機能もスマホとの連携で活用の幅が広がる。例えば、私の車にはバックする時のためのモニターカメラがついているのだが、このカメラはバックする時以外には用なしである。たまにあおり運転をされたりしたときには、「後方の車の画像をとって警察にチクってやろうか」と思ったりもするが、現状では後方モニターカメラはその役には立たない。かといってわざわざドライブレコーダーを買って備えつけたいというほど頻繁にあおり運転をされるわけでもない。もしモニターカメラとスマホとを連結することができれば、モニターカメラの画像をスマホのなかのメモリーやクラウド上にとっておくこともできるようになるだろう。

このように、インターネット、スマホ、ステレオや車(カーナビ)などの機器を5Gの高速度・大容量の通信で結ぶことによって、さまざまな機器をある時はスマホの情報を表示する画面として、ある時はスマホに情報を伝えるセンサーとして利用する。こうすることによって、ステレオ機器はCDの形で保存しようとすれば家に収まりきらないぐらいの量の音楽が聴き放題の機械に進化し、カーナビは情報の新しさと正確性とを兼ね備えた機械に進化する。

5G時代というのは、車に乗って行先を告げれば自動運転でそこまで行ってくれる、というような夢物語の世界ではない。むしろ、いま私たちの身の回りにある電気機器がぐっと機能を高める、というのが目前に迫った5G時代の姿であろう。