SCM(ストレージクラスメモリ)とは何か?「SSDの次」の技術の基礎とその仕組み

コンピューターの登場以来、CPUが必要とする記憶デバイスは、キャッシュ/メインメモリ/ストレージというように階層化され、用途・製品が整理されてきた。このメモリアーキテクチャに、新たな用途(階層)として登場したのが「ストレージクラスメモリ(SCM:Storage Class Memory)」だ。具体的にはインテルとMicron Technologyが共同開発した「3D XPoint」やサムスンの「Z-NAND」などの製品に注目が集まっている。メインメモリとストレージの性能差を吸収するレイヤーとして位置づけられるストレージクラスメモリだが、そもそもどのような仕組みで、従来のメモリやストレージとどのように異なるのか。この記事で基礎からひも解いていきたい。

●ストレージクラスメモリ(SCM)とは?

現代のコンピューターは、必要に応じてプログラムやデータ類を補助記憶(二次記憶)装置から主記憶(一次記憶)装置に移すという仕組みで、さまざまな機能を実現する。

主記憶装置として使われるのが半導体メモリ、補助記憶装置(ストレージ)として主に使われるのがハードディスクドライブ(HDD)や光ディスク。基本的にはこのように大別されるが、最近では、USBメモリやSSD(Solid State Drive)のようなフラッシュメモリ(半導体メモリの1種)がストレージ用途で使われるようになっている。

実際、記憶デバイスには数多くの種類があり、そしてその進化は目まぐるしい。磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリと、記憶する仕組みによってさまざまなものがある。さらに磁気ディスク、光ディスクとひと口に言っても、これまでにさまざまなメディアが登場した(中には消えていったものもある)。半導体メモリもDRAM、SDRAM、DDR SDRAM、フラッシュメモリ……と多種多様だ。

そもそも、コンピューターの進化と記憶デバイスの進化は切り離せない。というのも、図「コンピューターの構成」のとおり、コンピューターのメモリアーキテクチャが「レジスター(キャッシュ)―主記憶―補助記憶」となっており、連携で動作する形になっているからだ。そのため、記憶デバイスにおけるデータの読み書きの速度、容量/コスト、消費電力、大きさ、耐障害性といった特性が、コンピューターの性能にダイレクトに影響する。

より性能の良いコンピューターシステムを実現するために、記憶デバイスはCPUの高速化に追随し進化してきたと言える訳だが、「ストレージクラスメモリ」の登場もその流れにある。

「ストレージクラスメモリ」(Storage-class memory:SCM)という言葉が初めて使われたのは、2008年、IBMが発表した論文「Storage-class memory: The next storage system technology」(IBM Journal of Research and Development , Volume: 52 , Issue: 4.5 , July 2008)だ。

一般に、コンピューターシステムのメモリ階層は次のように表される。

前述のように、代表的なストレージはハードディスクドライブだが、磁気ヘッドでディスクにデータを書き込む(読み出す)という機械的な動作を伴う構造であり、電子的に読み書きを行う半導体メモリと比較すると、そのI/O性能は段違いに低い。ただ、ビット単価は磁気ディスクのほうがはるかに安く、大容量の記憶メディアに用いるには磁気ディスクが適している。

図「メモリアーキテクチャ」で示す階層構造は、コンピューターが一般に普及し始めた頃に、コストパフォーマンスや現実性から考えられた構成だ。CPUに近くなるほどデータアクセス性能は高く、遠くなるにつれ低くなる。

しかし、時が経ち、半導体技術の進化でCPUの性能、主記憶装置として使われる半導体メモリが高速になればなるほど、補助記憶装置である磁気ディスクとの性能差が無視できないほど大きな問題になってくる。ナノ秒で動作する上部の階層とミリ秒で動作するストレージが1つのシステムとして連携するとき、どうしてもストレージの処理性能が足を引っ張る。この状況をどう解消するか。これはもう長い間、関連のメーカー企業が抱えてきた課題だ。

この論文では、その差を補うべく、高速かつ安価にディスクドライブの代替品として使用できるストレージシステム製品を開発中だと述べている。それを総称し、「ストレージクラスメモリ」と呼ぶ。

以降、ストレージクラスメモリは、メモリアーキテクチャが新たに取り入れるべき階層(分野)として認知されていく。

以上を前提として、ここでなぜストレージクラスメモリが求められたのか、まずはメモリ技術のこれまでを振り返っていこう。ストレージクラスメモリについて、より実践的な内容を知りたい方は次の章に進んでほしい。

●コンピューターに必要な記憶デバイス

「主記憶に置かれたプログラムを実行する」、これはストアドプログラム方式(プログラム内蔵方式)と呼ばれ、現代のコンピューターの基本形と言われるノイマン型コンピューターで提唱されたアーキテクチャだ。

それまでの、穿孔テープなど外部からプログラムを読み込んで実行していた“電気計算機”から一線を画する仕組みで、まさに“コンピューター”を実現したと言える。何が革新だったかというと、プログラムを内部に格納し、そして書き換えることができるということ。これにより、コンピューターは多機能、高性能を獲得していく。

ストアドプログラム方式の実現に必要だったのが、電気的にデータを記憶し続けることができる記憶メディアだ。コンピューターが、今の記憶デバイスを獲得するまでの流れは次の図のとおり。

ここではそれぞれの詳細には触れないが、プログラム内蔵式を世界で初めて実現したのは「SSEM(Manchester Small-Scale Experimental Machine)」、SSEMではウィリアムス管を記憶メディアとして用いた。そして、記憶メディアとして水銀遅延線を使った「EDSAC」によって、実用的なプログラム内蔵式コンピューターが登場した。

SSEMに使われたウィリアムス管はブラウン管の仕組みを使った実験的な記憶メディアだ。ブラウン管は電子ビームを電磁石(偏向コイル)で屈折させ、任意の蛍光面に当てることで画像を表示する。光を発するときに周囲の電荷が変化するのだが、その差を利用し、1ビットを記憶するという仕組みだ。

物理現象において、わずかな差があればこのように2値を表すことができる。これは、コンピューターの内部でデータを2進数で扱っているから可能なことで、2進数の採用がコンピューターには必須だったことがわかる。

水銀遅延線は、パルスがメディアを伝わる際の“遅れ”を利用し、信号を循環させ記憶装置とする遅延記憶装置の1つで、文字通り、水銀を使ったもの。また、磁気ドラムは「磁気を帯びているか/いないか」で1ビットを表す、原理的にはハードディスクドライブと同じだ。磁気による記憶のため、電源を落としても失われない。

ウィリアムス管、水銀遅延線、磁気ドラムといった記憶メディアが商用のコンピューターに用いられる中、大容量化、高速化、小型化、それに利便性(安定に動作するか)が課題だった。何より、サイクルごとのシーケンシャルアクセス(先頭から順の検索)しかできない。

そこで、指定の場所にアクセスできる記憶デバイスを目指して開発されたのが、磁気コアメモリだ。1953年、マサチューセッツ工科大学(MIT)で開発されていたコンピューター「Whirlwind」に世界で初めて実装された。

磁気コアメモリは、ドーナツ状のフェライト磁性体(これがコア)が格子状に配置され、コア1つが1ビットに相当する。

仕組みはこうだ。書き込み用の2本の電線(X、Y)に電流が流れたときに磁化が起こり、磁気の向きによって0と1を割り当てる。指定した場所にデータが記憶できるということになる。これが、ランダムアクセス(Random Access)の登場だった。記憶したデータを読み出すには、駆動線を2本用いて電流を流し、コアの磁気の向きが反転したものを探査線で検知できるという仕組みだ。ただし、このとき磁気は反転してしまう(「破壊読み出し」と呼ばれる)ため、つど、リフレッシュが必要になる。

磁気コアの実装は手作業で自動化はできなかったが、1950年後半に大量生産の体制ができてくると1ビット当たりの単価は徐々にこなれていき、1960年代には、磁気コアメモリは記憶デバイスとして主流になる。

メモリアレイを構成することで記憶密度は飛躍的に上がり、コントロール・データ・コーポレーション社の「CDC 6600」(1964年開発された汎用コンピューター)では、64 x 64 コアで4096ビットの磁気コアメモリが使われた。大きさはおよそ10cm四方。

こうして、ランダムアクセス可能で、電源を切っても記憶される不揮発性の記憶デバイスができたわけだが、1970年代になると半導体メモリに置き換えられていく。

●半導体メモリの登場

そして、いよいよ半導体メモリの登場ということになるのだが、そもそも、半導体とは「ある条件下で電子を通す」という特性、その特性を持つ物質のこと。

物質は電子を通す「導体」と電子を通さない「絶縁体」、そして、ある条件下で電子を通す「半導体」に分けられる。半導体は、「ある条件」をうまくコントロールすることで導体にも絶縁体にもなるというのが大きなポイントで、19世紀に発見されて以来、研究されてきた分野だ。

1950年代に安定性の高い接合型トランジスタが登場したこと、そして、1960年代にスイッチ機能(電流のオン/オフ)を持つ電界効果型トランジスタが実用化されたことにより、半導体素子を使った電子機器製品の開発が一気に広がっていく。また、フォトリソグラフィ(感光性の物質を使って露光する技術)を使ったパターン作成技術の普及で、高精細な半導体素子を安定して生産できるようになったことも要因の1つ。

真空管を使った電気回路を半導体素子による集積回路に置き換えることが可能となり、コンピューターの世界は一変する。集積回路における集積度の向上はそのまま性能の進化につながるとして、いかに集積回路上のトランジスタ数の数を増やせるか、省スペースに回路を組めるか、といった技術改良が行われ、時代とともに性能が向上していくことになる。

有名な「ムーアの法則」は米インテル社の創業者ゴードン・ムーアが示した、集積回路上のトランジスタ数は“18か月(=1.5年)ごとに倍になる”と示した(経験則による)公式のこと。ムーアの法則については、すでに「いずれは物理的な限界(原子の大きさ)という壁にぶつかる」、「複雑化するに従い性能の向上は頭打ちになる」とする言説も多い。

半導体メモリに話を進めよう。

原理は、コンデンサ(キャパシタ)の電荷の有無でビットを記録するというもの。ただ、電荷は、自然放電で放っておくと失われてしまう。そこで、トランジスタと組み合わせることで回路を作り、その中に電荷を溜めるという仕組みだ。

もちろんランダムアクセス可能で、高速に読み書きできる。しかし、磁気コアメモリが不揮発性なのに対し、半導体メモリは原理上揮発性であり、電源を切ると記憶は失われる。

ただ、主記憶装置として用いるのであれば問題はない。

こうして、高速なアクセス性能が要求される主記憶装置に半導体メモリを使い、必要なプログラム類をそのつど読み込むという現在のコンピューターの基本アーキテクチャ(主記憶装置―二次記憶装置)が確立したのだ。

●半導体メモリの種類─揮発性メモリと不揮発性メモリ

現在、半導体メモリは大きく分けて「揮発性メモリ」と「不揮発性メモリ」の2つに分類される。前項で「半導体メモリは原理上揮発性となる」と述べたが、どういうことか。給電なしに記憶情報(データ)を保持するメディアとして半導体を使った読み出し専用のメモリが開発されたことが、不揮発性メモリの発端だった。

初期の代表的な不揮発性メモリ「Mask ROM」は、記憶するデータを構成し集積回路として焼き付けてしまったものだ。つまり、メモリセル(データを書き込む記憶素子、セル)に電荷の有無をデジタル信号の0/1に割り当てて書き込んでしまう。あとから書き換えることはできない。

フォトリソグラフィの原版(フォトマスク)として記憶情報(データ)を固定し、それをプリントしていく。マスターCDを元に同じCDを量産するイメージだ。

Mask ROMは、ゲームソフトを供給するROMカートリッジ(ロムカセット)や組み込み機器のファームウェア、電子楽器の音源、電子辞書や漢字ROMなど大量頒布の用途に使われたが、次第に、もっと小ロットで、ユーザーのタイミングでROMを作りたいというニーズが出てくると、それに対応するものとして、専用ドライブから書き込み可能なEPROM、UV-EPROMなどのPROM(Programmable ROM)が登場する。現在、ストレージとして普及しているフラッシュメモリは、その延長線上に位置づけられる。

現在は、不揮発性メモリにもデータの書き換えが可能なフラッシュメモリが登場し、すでにPCやタブレットなどのストレージとして普及している。フラッシュメモリについては後述する。

●半導体メモリの種類─DRAMとSRAM

主に主記憶に用いられる揮発性メモリには、データを保持する仕組みとして1秒間に数十回の頻度でリフレッシュすることでデータを保持するDRAM(Dynamic RAM)、フリップフロップ回路を使ってデータを保持するSRAM(Static RAM)がある。

DRAMとSRAMの違いは、まず1ビットの情報を記憶する仕組みからして異なる。

DRAMでは、トランジスタとコンデンサによる回路を1つのメモリ(記憶)セルとし、1ビットを記憶する。ただ、そのままでは自然放電してしまうため、1秒間に数十回の頻度で(ほぼ、“常に”)再書き込みする必要があり、Dynamic(動的)なRAMと呼ばれる。

DRAMは、このメモリセルを複数配置したメモリセルアレイと、リフレッシュするための回路からなる。

もともとの構造がシンプルなため生産上のトラブルも少なく、生産コストが高くない。また、メモリセルアレイを増やしていくことで大容量化できる。

一方、SRAMのメモリセルは、6個のトランジスタで構成されるフリップフロップ回路だ。フリップフロップ回路は、「0」あるいは「1」の状態を一時的に保持することができる論理回路で、入力に対して遅延した出力をフィードバックすることで情報を保持する。この性質を使って1ビットを記憶するのだ。通電されていればフリップフロップ回路の中の情報は維持されるため、DRAMのようなリフレッシュ動作はいらない。そのため、Static(静的)なRAMと呼ばれる。

SRAMはメモリ領域へのアクセスがシンプルで、DRAMよりも高速だ。ただ、1ビットあたりのトランジスタ数や配線が複雜で、ビット単価は高くなる。そのため、速さが必要な(そして大容量でなくていい)CPUのキャッシュとして用いられる。

主記憶装置(メインメモリ)として普及していくのはDRAMだが、やはり求められたのは処理速度。いくつか高速に読み出しができるアドレス領域を用意した「FPM DRAM(Fast Page Mode DRAM)」やデータ読み出し時の待機時間を縮小し高速化を実現した「EDO DRAM(Enhanced Data Out DRAM)」などが開発されたが、1993年に登場した「SDRAM」で、高速化のアプローチは、外部(つまりCPU)のクロック周波数に同期して動作するという方向に進む。

SDRAMはDRAMの動作を根本から見直したもので、CPUクロック信号に同期して読み出し動作を行う。以降、SDRAMを仕様とする製品がメインメモリ製品としてスタンダードなものになっていく。

2001年にはSDRAMの進化系、「DDR SDRAM」が登場する。DDR SDRAMはCPUのクロック信号を立ち上がりと立ち下がりの2回で数える。理論上、SDRAMの2倍のタイミングで動作可能となる。

さらに、外部周期クロックを2倍にし、それぞれの立ち上がりと立ち下がりを4倍にカウントする「DDR2 SDRAM」、外部周期クロックを4倍(それぞれの立ち上がりと立ち下がりを8倍)にした「DDR3 SDRAM」と進化が続いていく。

2014年以降、PCや携帯電話、スマートフォンで主流になっている「DDR4 SDRAM」はDDR3 SDRAMの後継仕様で、外部周期クロックを4倍(8ビットプリフェッチ)というのはママとして、DDR3 SDRAMでは8個のメモリーバンクに分割されていたメモリーセルアレイを倍の16個のメモリーバンクに分割することで、2倍の転送速度を実現するというもの。

こうして半導体メモリは、シンプルな構造のDRAM/SDRAMを中心に改良が続けられ、高速化、高性能化されてきた。

●ハードディスクと進化する半導体メモリ

次に、補助記憶装置としてのハードディスクドライブについて見ていこう。時代は、現代からまた少々遡る。

商用コンピューターの記憶装置として、初期には磁気テープ装置などが使われたが、1956年、磁気ディスク装置(いわゆるハードディスクドライブ)が登場する。IBMのコンピューター「IBM 305RAMAC」の補助記憶装置だった。

データを記憶する原理は磁気ドラム、磁気テープと同様、磁性の向きによって0と1を割り当ててビットを表現する。磁気ドラムでは、円筒形(ドラム)にすることでX軸とY軸のパラメータで座標を指定し、さらに1トラック(列)を1つのデータとして考え読み取りヘッドをトラックの数だけ固定して設置することで、アクセスしやすくしていた。

一方、ハードディスクは円形のディスクをメディアにする。円形のディスクは扇形のセクタに分けられており、トラップとセクタの番号を特定することで、指定の場所、指定のデータにアクセスできる。回転するディスクに対し、磁気ヘッドが付いたアクチュエータが円弧を描くようにスイングすることでディスク上を隅から隅まで移動し、データの読み書きができるという構造だ。この基本構造は、現在でも変わっていない。

1平方インチにどれだけのデータを記録できるかを表した数値が記録密度(ビット/平方インチ)だが、1970年には磁気テープの記録密度を抜き、コンピューターの補助記憶装置として取って代わることになる。

記憶密度の向上には、たとえば書き込みと読み出し、それぞれの動作でヘッドを分離する、あるいはMRヘッド、GMRヘッド、TMRヘッドといった高感度のヘッドの開発など、さまざまな工夫があったが、ブレークスルーの1つとしてあげられるのが「垂直磁気記録方式」だ。

それまでは、記憶する面に水平に磁石を並べ、表面に対し水平(平行)の向きで磁化していた(水平磁気記録方式)。しかし、それではビットの境界で反発する極同士が向き合うことになってしまう。そのため、記憶する最小単位の「磁区」を小さくすることに限界があったのだ。

垂直に磁区を確保し軟磁性体の層を置き、記憶する面に対し垂直に磁化させる「垂直磁気記録方式」を採用した製品が実現したことで、記憶密度は飛躍的に上がっていった。記憶密度が上がったことにより進んだのが小型化だ。パソコン用として登場した当初は、5.25インチのサイズだったのが、1990年代には3.25インチ、2.5インチと小型化していくことになる。

では、アクセス性能、アクセス速度はどうか。

ハードディスクドライブのアクセス性能の1つの目安となるのがディスクの回転速度(rpm:rotations per minute)で、初期の3,600rpmから最近の15,000rpmまでアップしてはいるが、革新的に進化させる方法はこれまで現れていない。

物理的な“回転”を制御するという意味では頭打ちに近い。その構造(ディスクに磁気ヘッドで書き込みを行う)は、昔も今も、基本、変わらないからだ。

一方、1980年、新たなストレージを実現する技術として「フラッシュメモリ」が登場する。

前述のとおり、フラッシュメモリの出自は不揮発性のROMだ。ROMは書き換え不可のメディアとして、そこから専用ドライブから書き込みが可能なEPROM、UV-EPROM、EEPROMなどが開発された。

EPROMはメモリアレイの構造にフローティングゲートMOSFETを採り、孤立したゲート内に電子を溜めることで記憶した。読み出すときよりも高い電圧で書き込むため、高い電圧を発生する専用の書き込み機を用いた。UV-EPROMは、集積回路のパッケージに紫外線を通すガラスを取り付け、紫外線の照射でデータを消去するもの。EEPROMは書き込み用の高い電圧を内部で発生できるようにし、専用の機器なしに書き換えできるようにしたもの。また、EPROMの書き換え可能回数がおよそ100回なのに対し、EEPROMの書き換え可能回数はおよそ10万~100万回だ。

フラッシュメモリはEEPROMの1種で、EEPROMにおけるデータの書き換えが1バイト単位なのに対し、ブロック単位で行う形で高速化を図っている。当時、東芝に在籍していた舛岡富士雄氏が発明し、NOR型(1980年に発明)とNAND型(1986年に発明)がある。

NOR型は読み出しが高速であり、信頼性が高い。一方、NAND型は書き込みが高速で大容量化しやすい。現在のところ、集積度や書き込み性能においてNAND型にアドバンテージがあり、NAND型が主流になっている。

フローティングゲートMOSFETの仕組みは、制御ゲートに高い電圧をかけることで電子が絶縁体(酸化膜)を貫通しフローティングゲートに蓄えられるというもの。原理上、絶縁体となる酸化膜が貫通する電子によって劣化するため、消去・書き込み可能な回数に制限がある。

高速にデータの読み書きが可能なRAM、給電なしに記憶を維持できるROMの両方の特性を持つことから注目されている技術だが、前述の物理的な書き換え回数の制限(およそ1万~10万回とされる)などから、頻繁に書き換えが発生するメインメモリとしての使用は難しく、ストレージとしての用途だ。USBメモリやメモリカード、SSD(Solid State Drive, SSD)など、数多くの製品に使われている。

SSDはNAND型フラッシュを用いた記憶デバイスで、1991年、ATA互換のSSDが初めて開発・販売された。1988年設立のサンディスクによるIBM ThinkPad用の製品で、容量はわずか20MB。当初1MB当たりの単価は高額で、ノートPCやモバイル製品、携帯電話などを中心に採用されていた。

その後、メモリセルの積層技術の開発など進み、1MB当たりの単価が下がるとともに、大容量化が進んでいる。2008年には米EMCがデータセンター用のストレージ装置として73GBと146GBの2種類のSSDを発表。同2008年、東芝も当時の最大容量512GBのノートPC用SSDを発表。今では、1TB、2TBの製品も一般向けの市場に出ており、ハイエンドでは数十TBの容量のSSDが使用されている。

ただし、NAND型フラッシュメモリはランダムアクセスができず、ハードディスクドライブに近いアクセス方式となる。機械的なシーク動作などによるレイテンシの部分は発生しないのだが、シーケンシャルに必要なデータの読み出し/書き込みを実行するため、DRAMのような高速なアクセスができない。

現行のSSD製品は、書き換え制限の回数がDRAMと比較すると低いこともあり、調整コントローラを搭載することで、書き込み/読み出し性能および書き換え可能な回数を高めるなどのアプローチで改良が進んでいるものが多い。

冒頭で紹介した、2008年に発表されたIBMの論文「Storage-class memory: The next storage system technology」では、フラッシュメモリをストレージクラスメモリ(以下、SCM)の初期段階と見なせるとしながらも、コスト、書き込み性能、および書き込みの耐久性には限界があり、ハードディスクを置き換えるものではない。全く新しいアプローチが必要だ、とする。

実際、IBMの論文が出る前から、次世代メモリはすでに世界中で研究開発が着手されている分野だったのだ。どんなアプローチがあり、それがどうSCM技術へとつながるのだろうか。

●次世代メモリ技術、FeRAM、MRAM、ReRAM、PCMの違い

DRAMの特徴はシンプルな構造で記録でき、高速な読み書きが可能なこと。ただ、記憶素子が揮発性であるため、データの保持には給電が必要だ。電源が切れると記憶は失われる。では、半導体素子の代わりに、不揮発性で状態を維持できる素子を使えないかという発想から、FeRAM、MRAM、ReRAM、PCMといった新たなメモリ技術が研究されている。

■FeRAM
「FeRAM(Ferroelectric Random Access Memory)」は「強誘電体」という物質を記憶素子とする。強誘電体メモリとも呼ばれる。

強誘電体は電圧がゼロでも分極した電荷を溜めることができる。そして加圧で分極する性質を持つ。このときヒステリシスと呼ばれる現象が起こるのだが、それを使って0と1を表現するというもの。

FeRAMの仕組みはこうだ。上下に電極を設けたコンデンサにおいて、ヒステリシス曲線が得られるよう電極電圧と分極量を設定することで0/1を記憶する。電圧をかけることでデータを書き込み、読み出すときは再び電圧をかけて反転させ、電流が流れるかどうかで判定する。原理上、電荷の状態が変わってしまう「破壊読み出し」となるが、読み出し時に再書き込みを行うなどの対処が施される。

書き換え可能回数は百億回以上とされ、強誘電体の分極反転時間は1ナノ秒以下であることから、DRAMに匹敵するアクセス速度が期待されている。

現状、省電力化、高集積化(大容量化)が難しいことから、コンピューター用のメモリとしてはまだ試作段階の域を出ていない。ソニーのFelicaに採用されている「FRAM」(富士通セミコンダクターの登録商標)など、実用化されている分野もある。

■MRAM
磁気トンネル接合素子(TMR素子)を使った「MRAM( Magnetoresistive RAM、磁気抵抗メモリ)」。これは“磁気コアメモリ”を集積回路で実現しようとするものだ。

TMR素子は絶縁層を挟んで強磁性体層が重なる構造だ。2つの強磁性体層の電子スピンの向きが異なる場合に抵抗が大きく、電子スピンの向きが同じ場合に抵抗が小さくなるというトンネル磁気抵抗効果により、1ビットを記憶する。

2006年、米フリースケール・セミコンダクタ社が世界で初めて製品化したMRAM「MR2A16A」は容量4MBだったが、その後、同社からスピンアウトしたエバースピン社がMRAMの研究開発を牽引し、2012年に世界初の市販品MRAM「ST-MRAM」(注2)が限定出荷された。このとき64MBだったST-MRAMは2017年には1GBを実現している。ただし、これは限定出荷。量産メモリとしては、現在256MBが最大。

当初は高集積化が大きな課題だったが、近年、埋め込み用MRAMやMRAM搭載のストレージ製品などの研究開発が進んでいる技術でもある。

2018年12月に開催された「IEDM 2018」(半導体デバイスおよびプロセス技術の国際学会)では、埋め込みMRAMについて複数の発表があったという。インテル、サムスン、GLOBALFOUNDRIES(GF)、東北大学グループ(東北大学と東京エレクトロン、アドバンテストの共同研究グループ)。試作品での検証や技術の詳細が明らかにされた。

インテルはさらに2019年2月の「ISSCC 2019」(半導体集積回路技術の国際会議)において「22FFL(FinFET Low power)ベースのSTT-MRAMアレイ」を発表し、量産に向けて技術の詳細を明らかにした。

■ReRAM
抵抗変化型メモリ「ReRAM(Resistic RAM)」(「RRAM」とも呼ばれるが、これはシャープの登録商標)は、金属酸化膜の加圧による電気抵抗値の変化によりデータを記憶する。

金属酸化物に電圧パルスを加えただけで抵抗値が大きく変わるという現象(いわゆる「巨大電界誘起抵抗変化(CER)」)を使うもので、100ナノ秒以下のパルス幅で10倍以上の抵抗値を得られる。また、図に示すような、単純なセル構造であるため微細化・積層化が容易とされ、省電力で高速なメモリが実現できる技術として期待されている。

CERはまだ完全に解明された現象ではなく、さまざまな金属酸化物(PCMO、酸化ニッケル、クロム添加チタン酸ストロンチウムなど)を使った研究開発が行われている。次世代メモリの開発技術として弾みがついたのは、安定した抵抗変化を示す材料が見つかったことから。

1996年に産業技術総合研究所強相関電子技術研究センター・東京大学大学院のチームが極低温下でのPCMOにおけるCERを実現、さらに2000年にヒューストン大学が室温でのPCMOにおけるCERを実現する。この素材を元にヒューストン大学とシャープが共同でReRAMの開発に着手し、2002年、PCMO薄膜によるReRAMデバイス(64ビット)を発表した。

その後、サムスン、富士通、ソニー、パナソニック、インテル、IBM、ヒューレット・パッカードなど各社も実用化を目指し、開発に参入している。

2010年~2011年には、各社からReRAMメモリの試作が発表されるようになる。2010年にはシャープは128KビットのReRAMチップの試作を、2011年にはソニーが4MビットのReRAMチップの試作を発表。同年、サムスンもReRAM開発に成功したと発表している。

2013年、パナソニックは世界で初めてReRAMを混載したマイコン(8ビット)の量産化を開始した。2016年には富士通セミコンダクターにより、4MビットのReRAM製品の量産が始まるなど、実用化が徐々に進んでいる。特に需要があるのはモバイル機器で、フラッシュメモリの代替となるマイコン用のReRAMはパナソニックも2019年の製品化を目指している。

前述の「ISSCC 2019」で、インテルはReRAMの開発についても発表しているが、ReRAMにもSTT-MRAMアレイと同様の22nm FinFETプロセスを適用することで「最も小型で、最も高密度なReRAMサブアレイ」となるという。

■PCM
物質の結晶状態とアモルファス状態(結晶構造を持たない状態)での抵抗変化を利用するのが「PCM(Phase Change Memory)」(PRAM:Phase Change RAMとも呼ぶ)。相変化メモリとも呼ばれる。

PCMは、加熱と冷却によって結晶状態かアモルファス状態のどちらかに安定するという性質を持つ「カルコゲナイド合金」を材料として、結晶状態が低抵抗、アモルファス状態が高抵抗であることを使ってデータを記憶する。書き込みは素子への熱変化によって行う。

基本構造が、DRAMのキャパシタを相変化膜に置き換える形であることから、既存の製造工程・設備を流用しやすいとする向きもある。ただ、抵抗変化による多値化は難しく、どう集積度を上げていくかが大きな課題とされている。

2016年、「国際メモリワークショップ(IMW 2016)」にて、IBMはPCMにおいて、セル1つにあたり3ビットのデータを保持させることに成功したと発表。またその際、PCMを単体利用するだけではなく、フラッシュメモリと組み合わせて高速なキャッシュとして用いることを想定しているとも表明した(注7)。

DRAMの代替を目指した次世代不揮発性メモリ技術は、メモリ単体の技術だけではなく、フラッシュメモリ(フラッシュストレージ)と組み合わせ、フラッシュメモリの(ひいてはコンピューターシステム全体の)性能向上を図る要素技術としての立ち位置も注目されるようになっていったのだ。

●DRAMと不揮発性メモリの混載「NVDIMM」、フラッシュストレージの進化

フラッシュメモリに話を戻すと、SSDのようなストレージとしての用途だけではなく、DIMMモジュールとしてDRAMと混載し、不揮発性のメモリモジュールとして機能する製品が登場している。

DIMMは複数のDRAMチップが搭載されたメモリモジュールのこと。コンピューターのメインメモリとしてDRAMを使うわけだが、メモリの増設や換装などを簡易にできるようパッケージングされて、供給されているのだ。DIMMはそのパッケージ(基板)の規格で、通常、チップの規格と組み合わせて、たとえば「DDR3 SDRAM-DIMM」のように表記される(DDR3 SDRAMがチップの種類、DIMMがパッケージを表す)。

このDIMMモジュール上でDRAMとフラッシュメモリを混載し、高速かつ不揮発性を持つメモリ機能を実現しようとするのが「NVDIMM」(Non-Volatile Dual-Inline Memory Module)だ。給電されている間は高速なDRAMで動作し、電源が切れたら、DRAMの内容をフラッシュメモリに書き込んで保持する。再び、給電されたらフラッシュメモリからDRAMへ書き戻すというもの。

不揮発性のDIMM、NVDIMMは、実は2012年に登場している。

2010年、AgigA Techが「AGIGARAM DDR3 NVDIMM」を発表。これはDDR3 DRAM DIMMスロットに装着するNVDIMMで、DRAMとNAND型フラッシュメモリを組み合わせている。エンタープライズクラスのストレージおよびサーバアプリケーション用の高性能なPersistent Memory(永続性メモリ)という位置づけの製品だ。データ転送速度は最大1333MT/秒とされ、まず1GBのAGIGARAM DDR3 NVDIMMがサンプル出荷された。追って、2GB、4GB、8GBと展開されている。

2011年にはViking Techonogyが「ArxCis-NV」を発表。こちらもDRAMとNAND型フラッシュメモリの組み合わせだ。以降、2014年にはDDR4対応のNVDIMMも登場する。AgigA Tech、Viking Techonogyの他、SK Hynixなどメモリ各社も参入している市場だ。

一方、DRAMを搭載しないNVDIMMの製品化も成功している。

2014年、SanDiskとSMART Storage Systems(SanDiskの子会社)が「ULLtraDIMM」の製品化を発表した。ULLtraDIMMはDDR3 DRAM DIMMのスロットに指すDIMMモジュールだが、DRAMは載っていない。NAND型フラッシュメモリとコントローラという構成で、不揮発性メモリモジュールを実現したのだ。データ転送速度は読み出しが1GB/秒、書き込みが760MB/秒、容量は200GBと400GBの2種。課題となってきた書き込み可能回数の制限は独自のコントローラロジックで耐久性を上げているという。

さて、そもそもDIMMはパッケージの規格だと述べたが、これはあくまでDRAM/SDRAMのメモリチップを前提としたもの。不揮発性DIMMの普及を目指して、JEDEC(JEDEC Solid State Technology Association、半導体技術協会)により、NVDIMMの規格化が行われている。次の3つに整理され、NVDIMM-N、NVDIMM-Fについては策定が完了し、上記で述べたように製品も実用化されている。

・NVDIMM-N(DRAMと不揮発性メモリを混載したDIMM)
・NVDIMM-F(DRAMなし、不揮発性メモリだけを搭載したDIMM)
・NVDIMM-P(DRAMと不揮発性メモリの混載。ただし、不揮発性メモリの容量が大きく、NVDIMM-Fとしても動作する)

そして、策定中のNVDIMM-P規格と並んで議論されている技術が、「Z-NAND」「3D XPoint」だ。

サムスンが「Z-NAND」という改良型NAND技術を発表したのは2016年。Z-NANDは、NAND型フラッシュメモリを搭載する通常のSSDに比べ、アクセスの遅延時間(レイテンシ)が短い「Z-SSD」技術の中核を成す技術という位置づけだ。

発表された製品「SZ985」の仕様は、記憶容量1TB(ユーザー領域は800GB)、読み出し/書き込みは最大3.2GB/秒、ランダム読み出しのレイテンシは15μs程度。書き込み制限に関しても、長期の高信頼性を保証するという。フラッシュメモリの容量に対しDRAMの割合が高く、高性能なコントローラによる制御が可能にしているとされるが、Z-SSD技術、Z-NAND技術については、2018年になってやっとその一部がサムスンから明らかにされてきているという段階だ。

3D XPointはインテルとMicron Technologyが共同開発した不揮発性メモリ技術で、2015年に発表された。DRAMほど高速ではないものの、NANDより高速、数百ナノ秒というアクセス時間で動作するという。こちらも技術の詳細は公開されていないが、PCMを使っているとする見方が有力だ。

インテルがエンタープライズ向けに提供するブランドは「Optane(オプテイン)」で、国内でも2017年にリリースされた。16GBおよび32GBの2つのラインナップだ。ストレージのキャッシュとしてOptaneメモリを使うことで、SSDと同等以上のパフォーマンスを発揮するとされる(ただし、OSシステムがインストールされたストレージにしか適用できない)。

さらにインテルは、2018年、「Core i+」プラットフォームを発表。「Core i9」「Core i7」「Core i5」に、Optaneメモリーを組み合わせたソリューションの提案だ。このプラットフォーム下では、システム領域だけでなく、データドライブのキャッシュとしてもOptaneメモリを活用することができるという。

●SCMがもたらす変化──コンピューターシステムも変わる?

富士キメラ総研の「2017 先端/注目半導体関連市場の現状と将来展望」によると、半導体デバイス16品目(小電力無線デバイスを除く)の市場は、2015年の26兆1,470億円に対し、2020年には10.6%増の28兆9,127億円と予測される。市場規模の一番大きなCPUにDRAM、NANDと続く。

次世代メモリ(FeRAM、MRAM、PDM、ReRAM)についても、データロギング容量の増大、低消費電力化を目的に従来のメモリからの置き換えが市場拡大につながるとする。ただ、新規参入には新たな設備機器が必要であり、設備投資と需要のバランスが市場成長の阻害要因として上げられている。また、既存メーカーにとっては、次世代メモリ事業自体が既存事業と競合してしまう点も障壁の1つだ。

また、すでに知られている通り、2018年後半から半導体市場の成長率の鈍化が報じられている。CPU供給量不足の影響やDRAM価格のピークアウトなどが要因としてあげられるが、スマートフォンやデータセンターなどNANDフラッシュのニーズが減速していることも指摘されている。

ただ、次世代メモリがSCMとして普及される素地が整えば、状況が変わってくる可能性はある。

本稿で見てきたように、現在、メモリとストレージの格差を埋めるレイヤーとして考えられているSCMには、さまざまなアプローチが群雄割拠で存在する。

NVDIMM規格が進んでいることから、すでに製品が出ているNVDIMM-NがDRAMを代替する流れは、近い将来、起こるだろう。すると何が起こるのか。これはまだ予測の域にも達していない話かもしれないが、大容量不揮発性メモリがコンピューターのメインメモリとなれば、従来の「主記憶―補助記憶」構成を採らずに済む。すなわち、主記憶装置だけで十分ということにもなる。

さらに、MRAM、ReRAMと埋め込み用の次世代メモリ技術が進んできている。これらが活用される分野は主にIoT機器や車載向けのメモリ環境だ。コンピューターの世界がもはやPCだけではないという事実も、従来のシステム構造を入れ替える状況を後押しすると言えるだろう。

SCMは単に格差を埋めるレイヤーというだけではない。そこにシステム構造を変える可能性のある技術が出てきている。だからこそ激しくなっている分野なのだ。2020年代の初頭にかけて、次世代メモリの量産・普及が期待されている。