次世代メモリの市場予測と3D XPointメモリの現状

MRAMは10年以上にわたって大容量化を継続

2018年8月に米国シリコンバレーで開催された、フラッシュメモリとその応用製品に関する世界最大のイベント「フラッシュメモリサミット(FMS:Flash Memory Summit)」で半導体市場調査会社Objective AnalysisでアナリストをつとめるJim Handy氏が、「Flash Market Update、2018」のタイトルで講演した半導体メモリ市場に関する分析を、シリーズでご紹介している。

なお講演の内容だけでは説明が不十分なところがあるので、本シリーズでは読者の理解を助けるために、講演の内容を適宜、補足している。あらかじめご了承されたい。

前回は、既存の半導体メモリとエマージング・メモリ(次世代メモリ)の性能を比較してみせた。今回は、次世代メモリの市場規模を予測するとともに、最も注目されている次世代メモリ「3D XPointメモリ」の現状をご報告する。

Handy氏は講演で、西暦2016年から2028年までの次世代メモリの市場規模を予測したグラフを示した。といっても次世代メモリ全体ではなく、磁気抵抗メモリ(MRAM)とクロスポイントメモリ(XPoint)の市場規模である。そして比較のために、既存のメモリの中で市場規模が圧倒的に大きい、DRAMとNANDフラッシュメモリの市場予測も併せて載せた。

MRAMは2006年6月に量産が始まった。最初の製品は4Mビット品だった。そして現在まで大容量化が続き、256Mビット品が量産中である。そして1Gビット品がサンプル出荷中だとみられる。MRAMが10年以上にわたって大容量化を継続してきたことは、重要だ。

2016年~2017年におけるMRAMの市場規模はそれほど大きくはない。いや、かなり小さい。DRAMおよびNANDフラッシュメモリと比べ、その市場規模は3桁ほど少ない。およそ1000分の1しかない、ともいえる。2020年代にはMRAMの市場規模は順調に拡大し、2028年にはDRAMおよびNANDフラッシュメモリの10分の1程度にまで成長すると予測する。かなり強気な予測にみえる。

クロスポイントメモリ(XPoint)の量産が本格的に始まったのは、2017年だとされる。IntelとMicron Technologyが共同開発した「3D XPointメモリ」が最初の製品である。2015年7月に開発が発表され、大いに注目を集めた。記憶容量は128Gビットと非常に大きく、DRAMの最大容量を軽く超えており、2015年当時はNANDフラッシュメモリの最大容量に匹敵していた。

クロスポイントメモリの市場が本格的に立ち上がるのは、2020年~2021年と予測する。MRAMを追いかけるように市場は急速に立ち上がり、2025年ころにはMRAMと同じくらいの市場規模となる。そして2028年にはMRAMと同様に、DRAMおよびNANDフラッシュメモリの10分の1程度にまで成長すると予測する。これもかなり強気な予測だ。

クロスポイントがDRAMとNANDフラッシュの隙間を埋める

「3D XPointメモリ」は、2つの点で半導体業界とストレージ業界の注目を集めた。1つは、大手半導体ベンダーであるIntelとMicron Technologyが共同開発したこと。もう1つは、原理的には記憶容量当たりのコストがDRAMよりも低くなることである。

後者について補足すると、記憶容量当たりのコストは記憶密度で決まる、とされる。製造歩留まりが100%で、なおかつ開発コストを無視してランニングコストだけを考えた場合である。3D XPointメモリの記憶密度はNANDフラッシュメモリよりは低いものの、DRAMよりも高い。これはDRAMよりも大きな容量のメモリ、あるいはストレージを、DRAMよりも低いコストで実現できることを意味する。

そして3D XPointメモリのデータ読み書き性能は、DRAMよりは低いものの、NANDフラッシュメモリよりもはるかに高い。データの書き換えがひんぱんに発生する用途では、NANDフラッシュメモリよりも3D XPointメモリが優位に立つ。

これらの特長からメモリおよびストレージの階層では、DRAMとNANDフラッシュメモリ(SSD)のちょうど中間に3D XPointメモリが位置付けられる。この位置付けは3D XPointメモリに限らず、クロスポイントメモリ全体に当てはまる。

主記憶用3D XPointメモリの商品化に遅れ

将来が期待される「3D XPointメモリ」の現状はどうか。Handy氏は講演で、製品化の現状と3D XPointメモリのあるべき姿を論じた。

3D XPointメモリは当初、ストレージ用で製品化された。HDDのキャッシュ用ストレージや、SSDなどである。Intelはストレージ用に続いて、サーバやPCなどの主記憶(メインメモリ)用3D XPointメモリを製品化することを、早くから表明していた。主記憶用DRAMと同様に、メモリモジュール(DIMM)として提供する。当初の予定通りであれば、2018年の段階で既に、3D XPointメモリのDIMMは出荷されているはずだった。しかし実際には開発が遅れている。生産開始は2019年にずれ込んだとみられる。

3D XPointメモリが抱える問題は他にもある。生産規模がまだ少ないことと、生産ラインが止まっているというウワサが絶えないことだ。生産規模が少ないため、製造コストは実際にはDRAMよりも高いままである。そしてIntelは、3D XPointメモリをコスト割れの価格で供給しているとみられる。製造コストをDRAMよりも低い水準に下げるためには、DRAMの10%近い規模の生産数量が必要だと、Handy氏は指摘する。