モバイルバッテリーがPSEマーク必須に マークがあれば安心なのか

2月1日からモバイルバッテリーが電気用品安全法(PSE法)の全面規制対象となった。PSEマークの表示が義務付けられ、表示されていない製品の流通は禁止された。フリマアプリやオークションサイトを利用した個人売買も禁じられているので注意しよう。

PSEマークには、PSEの文字を丸(〇)で囲んだ通称「丸PSE」とひし形(◇)で囲んだ通称「菱PSE」の2つがあるが、モバイルバッテリーの場合は丸PSEが表示され、法律的には「特定電気用品以外の電気用品」というカテゴリーに分類される。

モバイルバッテリーはなぜ規制されたのか

PSEマーク必須化は、リチウムイオン蓄電池を搭載した製品の発火事故の多発を受けたものだ。発火した製品にはスマートフォンやノートPCもあるが、東京消防庁や製品評価技術基盤機構の公表資料を見ると、モバイルバッテリーの事故の多さが目立つ。さらに、消防庁の資料によれば、モバイルバッテリーによる火災25件のうち23件が「通常使用」で起きているという。普通に使っていて事故に発展するケースが多いのであれば、規制対象入もやむなしといったところであろう。

規制の背景には、モバイルバッテリー市場の拡大も関係している。Ankerブランドを展開するアンカー・ジャパンの猿渡歩さん(事業戦略本部 統括)によると「ポケモンGOのヒットや度重なる災害の影響もあり、利便性や有用性に気付く人が増えた」という。

また、PCやスマホと比べるとモバイルバッテリーは機構的に単純で、事業への参入障壁が低いため、さまざまな事業者が参入している。そうなると、コストを優先するあまり安全レベルの低い製品を販売する事業者も現れるだろう。そこに規制の網をかけることで、事故の増加を防ぐ狙いがある。

PSEマークがあれば安心?

ユーザーとして気になるのは「PSEマークのある製品を購入すれば安心なのか」という点だろう。結論から言うと、安心していい。まずはメーカーがPSEマークを表示するためにどんな手続きをしているか、フローで確認してみよう。注目して欲しいのは「技術基準適合義務」と「自主検査」の項目だ。

技術基準適合義務では、電気用品安全法の「別表第九 リチウムイオン蓄電池」と呼ばれる省令にのっとった試験を実施しなければならない。試験項目は細かく設定されており、通常使用時の安全性はもちろん、「落下時」や「異常高温」といった誤使用における安全性についての項目も盛り込まれている。

Cheeroブランドのモバイルバッテリーを展開するティ・アール・エイによると、試験をパスしたことを証明する書類はA4で30ページ近くにもなるそうだ。これだけの専門的な試験をメーカーや輸入業者が実施することは難しいため、ティ・アール・エイやアンカー・ジャパンでは「信頼できる第三者機関に委託して実施している」という。

自主検査の項目については、2社とも出荷製品全ての出力電圧と外観の検査を実施。ティ・アール・エイの場合は、1600台の製品に対し、外観(漏れ、損傷、外箱など)と電圧についてチェック行い「合格」したことを1件1件記録している他、より厳しい試験も実施しているという。「製品にドリルで穴をあけたり、ガスバーナーを使った耐火試験を実施して発火しにくいことを確認している」(ティ・アール・エイ 東享代表)

アンカー・ジャパンの伊藤さんも「バーナーの火を直接製品に10秒間触れさせての耐火試験や、バッテリーセルに対する圧壊試験や耐ショート試験、また過充電・過放電・高温などのストレスを繰り返し与える試験なども実施している」と話す。

PSEマークは公的な“お墨付き”ではない

しかし、こうした試験をどこまで実施するかはメーカー次第でもある。ティ・アール・エイの東代表は「(PSEマークは)メーカーや輸入事業者に課せられた、基準適合検査を自主的に実施し、それに合格する製品を出荷することを義務化したルールである点に注意してほしい」と話す。

例えばスマートフォンのように電波を発したり、携帯電話会社の通信回線に接続する機器の場合は、技術基準適合証明や技術基準適合認定(通称「技適」)を取得する必要がある。総務省が認定した機関が機器の検証を実施し、基準に適合していれば、「認定」「認証」を発行してくれる。いわば、公的な“お墨付き”である。

一方PSEマークは、メーカーや輸入事業者が、経産省が決めた基準にのっとった試験や検証を自主的に行い、基準を満たしていることを自ら確認すれば表示してもよいという建て付けになっている。お墨付きではなく、事業者に課された「縛り」というイメージだ。うがった見方をすれば、悪徳事業者がその気になれば「お手盛り」で試験や検査を実施したり、実施したことにすれば、PSEマークを表示することもできる――ということでもある。

ただし、「全品検査の記録は3年間の保存義務があり、製品の不具合で事故が起きた場合などの立入検査で不正が発覚したら、事業届け出の取り消しといったペナルティーがある」(アンカー・ジャパン 伊藤さん)という。

加えて電気用品安全法には「1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはこれを併科」という罰則規定もある。経済産業省としては、こうした罰則が不正表示に歯止めをかけるという考えなのだろう。

とはいえ、ユーザーが安全性や信頼性を推し量る術は限られている。PSEマークがあるかチェックするだけでなく、事業者がどんな試験を実施しているかをサイト等で確認した方がより安心かもしれない。

PSEマーク以外に気を付けること

ただ、モバイルバッテリーの安全性でいうと、もう一点気になることがある。それは、現状のPSE基準が、製品の進化に追い付いていないことである。そもそも、現在の「別表第九 リチウムイオン蓄電池」という試験基準は、その名が示す通り、リチウムイオン蓄電池そのものを規制するもので、蓄電池の他に電源や各種回路で構成されている製品としてのモバイルバッテリーを律するものではない。

今後、最大100Wの給電能力をもつUSB Type-C対応のPower Delivery規格製品の増加など、モバイルバッテリーの大容量化や高密度化の流れは加速するであろう。そのような進化した製品に、現状のPSE基準は、力不足を否めない。

業界団体であるモバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)では「モバイル充電安全認証」という、充電規格などの進化に対応した制度を設け、試験に合格した製品には「MCPCマーク」表示を許している。ただ、制度自体の認知度が低いためか、認定製品の数も少なく発展途上といった様相だ。

ティ・アール・エイの東代表は、モバイルバッテリーの使い方について「高いエネルギー源を持ち歩いていることを自覚し、過度な衝撃や発熱を伴う使用を行えば、常に発火の危険と隣合わせであることは意識してほしい」と警鐘を鳴らす。ユーザーとして常に頭の片隅に置いておきたいものだ。